ラストチャンス

(2026.11.03 No.234)
10月28日に、内閣官房に置かれた「人口戦略本部」にて、第1回人口総合戦略に関する関係副大臣等会議が開催されました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinko_senryaku/contents/20261028/index.html?utm_source=chatgpt.com
●人口減少と”闘う”
そもそもの「人口戦略本部」は首相の指示で2025年11月18日付で設置されたもので、本部長(首相)の下に次のメンバーが揃っています。
副本部長:
内閣官房長官
全世代型社会保障改革担当大臣
内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
本部員:
デジタル行財政改革担当大臣、
地域未来戦略担当大臣
外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣
内閣府特命担当大臣(こども政策 少子化対策 若者活躍男女共同参画)
その他
本部員はいずれも担当大臣クラスで、それぞれが省庁横断的に施策をまとめる立場にいます。そういう担当大臣が集まって、いろいろな方向を向いている○○戦略を人口減少問題に対してもう少し整理して見通しをよくしたいのだろうと思います。
本部の名称が少し大げさに感じるのは首相の好みによるものでしょうか。人口減少は経済、社会保障、地方、安全保障など、国家の基盤すべてに直結する課題であるため、国家の長期的な生存と発展をかけた”戦略(Strategy)”というやや物々しい言葉が看板になったのではと想像します。
●30年間の政策は生きたか
図1は1990年代から今までの人口問題に関連する政策を示しています。

高齢者への対策に比べて、こども・子育て分野への資源投入は限定的だったことは事実です。
例えば家族関係社会支出の対国内総生産(GDP)比は、1989年度の0.36%に対し、1999年度には0.53%とわずかな伸びにとどまっていました[2]。
少子化対策については「少子化社会対策基本法」が2003年に施行されて、「少子化社会対策大綱」を策定することが定められました。この流れは「こども基本法」(2023年)と「こども大綱」に引き継がれています。

しかし少子化の動向は残念ながら30年前よりも悪化しています。
「少子化社会対策大綱」の毎度の改訂と対策の実行がなされたにもかかわらず、少子化はますます速度を上げているように見受けられます。
今や出生数は70万人を切り、合計特殊出生率※も1.15という低さです。
※1人の女性が一生の間に生む子供の数の平均値(15歳〜49歳までの年齢別出生率を合計したもの)
社会全体で少子化を考えるという「少子化社会対策基本法」の理念では悠長すぎることは明らかでした[4]。
そこで”こども”を中心として施策を設計し直そうとしたのが「こども基本法」です。
フランスやドイツなどの先進国で一時は出生率上昇が見られたものの、今や失速しています。
日本にとって手本となる外国例が存在しない状況になりました。これからはわが国独自で少子化対策を模索するしかありません。
●現場の声
最近の調査・研究では、若者は生活維持が第一優先になっていて、結婚や育児まで人生設計が検討されていない実態が判明してきました[5][6]。また地方を活性化することをめざした「地方創生」が逆に地方の出生率を下げてしまったという研究結果も出ています[7]。
従来の少子化対策というと、学校の授業料の補助や保育所の拡充などの話題になりがちです。しかし[5]で引用した内閣府経済社会総合研究所の資料はこれまでの政策が的外れであったことを指摘しています。この結果は約2万人のアンケート調査から得られたもので、机上の議論ではありません。このことは現場の生の声を聴く重要さを示しています。
人口戦略本部において、経済政策、福祉政策、教育政策などが絡み合った複雑な問題構造を解きほぐして、本当のボトルネック解消に注力してほしいと思います。
すでに人口戦略本部では意見聴取プロジェクトチームを立ち上げ、2026年1月~4月にかけて、有識者(14名)のヒアリングを実施しています。
これらの意見[1]は有識者(おそらくすでに各種の審議会などで委員に就任されているような方々)がそれぞれの経験と見識にもとづいて、最も重要と考える事柄を話されたものでしょう。
”地域で若者が安心して人生を築いていける環境整備が必要”
”昭和型のジェンダーロールや社会規範が大きく影響”
といった有識者の指摘は、30年間決め手がなかった少子化の本質を示唆した意見と思います。

●ラストチャンス
若年人口が急激に減る2030年代は「日本のラストチャンス」と言われています[2]。それまでに少子化トレンドを反転させなければなりませんが、加速度がついた少子化の流れをとどめるのはなかなか困難といえます。
それでも国民一人一人が少子化を意識することは大事です。
少なくとも、電車やバスの中で立っている妊婦さんに座席を譲るくらいのことはしなくてはいけません。■
[1] 第1回会議資料3 我が国の人口減少に関する現状及び政府の取組状況について https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinko_senryaku/contents/20261028/03_doc03.pdf
[2] 「令和6年こども白書」第1部第2章、p.55 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0357b0f6-8b14-47fc-83eb-2654172c2803/2f1d492c/20241009_resources_white-paper_r06_06.pdf
[3] e-Stat 人口動態調査 / 人口動態統計 確定数 出生 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?statdisp_id=0003411595
[4] 桐原康栄「少子化の現状と対策」、国立国会図書館 調査と情報 No.1163(2021.12.7) https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11911775_po_1163.pdf?contentNo=1
[5] せいさく遠眼鏡「経済学者が結婚を語る」(2026.03.23) https://harada-consulting.com/marriage-and-economics/
[6] せいさく遠眼鏡「お節介か、支援か」(2024.08.13) https://harada-consulting.com/life-planning/
[7] 松浦司「少子化対策の 30 年を振り返る」、日本労働研究雑誌 No.768(2024年7月) https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2024/07/pdf/017-034.pdf
MATSUURA Tsukasa: Looking Back on 30 Years of Measures to Address the Declining Birthrate, Japan Labor Issues, Vol.10, No.58, Summer 2026 https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2026/058-01.pdf
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