マネロン

(2026.10.27 No.232)
9月24日に内閣官房にて、「第1回法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議」が開催されました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/beneficial_ownership/index.html
●行政の査定?
誰しも他者から評価を受けて、その結果が公表されるとなると落ち着かなくなります。
ましてそれが国の政策に係わるものとなると、担当する部署の緊張は相当なものだろうと察します。
国際的にマネー・ロンダリング(以下、マネロン)等対策の中心的な役割を担っている「金融活動作業部会」(Financial Action Task Force:FATF)という組織があります。
そのFATFから、我が国の金融機関において実際に有効なマネロン等対策が行われているかなどについて国際的な審査を受け、2021年8月、この結果が公表されました[1]。
FATFからの勧告は全部で40項目(図2参照)あり、それにもとづいて加盟国が相互にマネロン等対策の政策を審査しています。
●審査成績が悪いとどうなるか
現在、わが国は2021年の相互審査において「重点フォローアップ国」に指定されています(3年後までに進捗を示す必要)。
もし、より下位の「観察対象国」になると1年後までに進捗を示す必要があり、国際的にもハイレベル使節団の派遣・調査、国名公表、メンバーシップ停止・除名などのハンディーキャップが付きます。
そして国名公表された場合には、各国の金融機関が取引のリスク管理を強化してくることが予想されます。
商取引において大きなマイナスになることは明らかです。
●2021年審査の結果
今、議論のテーマとなっているのは「勧告24」という項目についてです。ここで"Beneficial Ownership(BO)"という概念が出てきます。
「24.法人の透明性と実質的支配者」->「評価:一部適合」
・日本は、国内で設立された各種の法人に関連するマネロン・テロ資金供与リスクを十分に評価していない。
・会社登記簿には会社の取締役のリストは記録・公開されていない。
・株式会社の本社にある株主名簿に記載されている情報に、株主の議決権の性質に関する情報が含まれているかどうかは明らかではない。
等々、計16個もの指摘を受けました。
審査全体の総評としては”多くの面でさらに改善させることができる余地がある”とされました。
●わが国のマネー・ロンダリング対策
わが国のマネー・ロンダリング対策の情報は財務省のサイト[2]にまとめられています。
近年、特殊詐欺などを背後で操る「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)等の反社会的勢力が拡がっています。その支配下に多数の法人(ペーパーカンパニー等)を作り、その口座間で送金を繰り返す事例など、捜査当局において資金の流れを把握するのが困難な事例が生じているとされます[3]。
【事例】 2021年~2023年にかけて、マネー・ローンダリングを行っていた会社役員の男が、約500社のペーパーカンパニーと約4,000の法人口座を管理していました。(出所:警察庁「令和7年版 警察白書」)

●政府の対策会議(2021年8月)
上記のFATF第4次対日審査報告書の公表を契機として、2021年8月、政府一体となって強力に対策を進めるべく、警察庁、財務省が共同議長となる「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」が設置され、行動計画が策定されました。
マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の活動は[4]の年表にまとめられています。
●FATF勧告対応法(2024年4月)
FATF勧告対応法は、上の結果を踏まえ、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散金融(大量破壊兵器の拡散等に資金を提供する行為)対策を強化するため、関係6つの法律を束ねたものです。2022年12月2日に成立・同年12月9日に公布され、2024年4月1日に完全施行されました
●FATF審査のフォローアップ
2021年の審査以後、FATFはフォローアップ(進捗の確認)をこれまでに3回報告しています(2022年9月、2023年10月、2024年10月)。
第2回までに勧告24の諸問題はかなり改善が進み、"Largely-Compliant"(おおむね合格)という段階に至っています。
補習を何回も受けて、なんとか合格のレベルまで認めてもらったという次第です。

●「実質的支配者」の把握
ここで言う実質的支配者とは、わが国では”法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人等”と定義されます。
つまり最終的には25%以上の株式を持つ「人」に帰着する概念です。
この実質的支配者については、法務省を中心にこれまで3つの段階で把握の範囲が拡大してきました。
①金融機関等による取引時確認義務
2006年1月から口座開設や大口現金取引等での本人確認が義務化されました。
②公証人による法人設立時の実質的支配者確認
2018年11月から、公証人が定款認証の嘱託をする際に「実質的支配者となるべき者の申告書」を提出することが義務化されました。
この取り組みはFATFのベストプラクティスとして取り上げられるなど,国際的にも評価されました。
ただし対象は株式会社、一般社団法人、一般財団法人に限定され、設立時の一度だけです。したがってその後の法人の変遷は反映されません。
③商業登記所による実質的支配者リスト制度[5]
株式会社から提出された実質的支配者リストを、商業登記所の登記官が内容を確認した上でこれを保管し、登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。
2021年9月から運用されています。
株式会社にとって自社の透明性の高さを取引相手に示すことができるというメリットがあります。
あくまでも株式会社の自発的な届出を登録するにとどまります。
●実質的支配者の継続的把握
上で見たように、法人設立後の継続的な実質的支配者の把握については,課題として残っています。
さらにFATFは2022年3月にBOに関する勧告を強化・改訂しました。
□”すべての法人”に対しBO情報の把握を義務付けること
□法人が自ら把握したBO情報の公的機関への届出を義務付けること
□捜査当局等が公的機関の情報にタイムリーにアクセスできること
この勧告を受けて、日本政府として、
”G7の中で、BO情報の届出を義務付ける制度がないのは日本のみ”
という焦りも見えます。
このための検討を今回の「法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議」でおこなうという経緯です。
●現場からの意見
マネロン対策を実行している現場からの意見は傾聴する必要があります。金融機関の依頼まで詐欺扱いされる笑い話まで出てきます。
(財務省の発言)[6]
”大事なのは、法務局にとっても金融機関等にとっても運用しやすい形で、過度に負担を掛けず、かつ、金融機関が利用している実態を我々がモニタリングするに当たってチェックしやすいという、利用者、法務局、事業者という関係者が、運用しやすいように、余り細かくなり過ぎないようにするというのは、一つの着眼点としてあり得ると思う。
・・・・・
実は、各金融機関が、金融庁マネロンガイドラインに沿って継続的な顧客管理の中で、お客様の属性データの更新等をお願いする依頼書をお客様に郵便でお送りしたりするケースがあるが、金融機関等から聞くと、お客様から、これは本当に銀行から来たのか、これは詐欺の一種ではないか、ここに電話して身分証明書を送ると逆に悪用されるのではないかというような照会があるというような、本当に困った話もある。”
●天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず
自然の理や掟は一見すると網の目が粗いように思えても、悪人を一人も逃さないことを意味します。
(「老子」が語源ですが、そこから言葉や意味は少し変わっています。)
BO登録に関して、あまり厳重な制度とすると利用者の使い勝手が悪くなり、過剰な不安や警戒を招くことにもなりかねません。
しかし甘い運用では肝心の情報の漏れや迂回にもつながります。
そう見ると、BOの話は情報セキュリティの話にも通じるものがあります。
上の財務省意見の通り、利用者と事業者、政府機関がそれぞれ使いやすく、かつ実質的に有効でなければなりません。
FATFの第5次対日相互審査が2028年夏頃に予定されています。
今度は「重点フォローアップ国」指定から「通常フォローアップ国」に格上げされるように期待します。
それに向けて日本政府も省庁横断で試験対策に勤しむ必要があります。■
[1] FATF第4次対日相互審査報告書(2021年8月30日) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/amlcftcpf/20221228.pdf
[2] 財務省「教えて!マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/amlcftcpf/2.measures.html
[3] 内閣官房「法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議」第1回(2026年9月24日)資料2 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/beneficial_ownership/dai1/shiryo2.pdf
[4] 財務省「国内のマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/amlcftcpf/3.efforts.html
[5] 法務省「実質的支配者リスト制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html
[6] 商業登記所における法人の実質的支配者情報の把握促進に関する研究会第2回(2020年5月29日)議事概要 https://www.moj.go.jp/content/001322679.pdf
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