おいしい給食

(2026.10.22 No.231)
久しぶりに文教関係のニュースに注目してみました。
文部科学省にて「学校給食衛生管理基準」の在り方に関する有識者会議(第5回)が開催されました。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/205/kaisai/mext_00006.html

●学校給食の調理環境を議論
わが国の学校給食制度は、栄養基準、献立作成、食育、日常的な学校生活が組み合わされて教育制度の一部として運用するという特色があります[1]。

学校給食にとって栄養や教育効果より上位にあるのが「食品安全」です。
最近、学校給食で大きな食中毒が発生していないのも、給食調理に際して細心の注意を払っているからです※。

その給食を作る際の衛生基準(「学校給食衛生管理基準」)について議論するのが、今回の有識者会議[2]の役割です。

※(それでも皆無ではないことに注意。末尾参照。)

●「学校給食衛生管理基準」の見直し

この衛生管理基準は1992年に制定され、2009年に改定されましたが、以来15年間改定されていません。
有識者会議第1回の資料[3]にはこの基準見直しの背景が書かれています。そこには大きく3つの理由があります。

  1. 食品衛生法・大量調理施設衛生管理マニュアルとの整合

現行の「学校給食衛生管理基準」は2009年に告示されて以来、改正されていません。
一方、拠り所である「食品衛生法」や「大量調理施設衛生管理マニュアル」は何回も改正され※、衛生管理の考え方も変化しています。
このため、両者で記述が異なる事項や、学校給食基準に記載されていない事項を整理し、基準間の整合性を確保することが必要です。

※「食品衛生法」は1948年1月施行、2003年、2018年、2024年に改正。
※「大量調理施設衛生管理マニュアル」はHACCP概念に基づいて1997年策定、2012年、2013年、2016年、2017年に改定。

  1. 科学的知見に基づく食中毒防止策の更新

食中毒防止に関する科学的知見や国際基準の更新を反映させることが課題です。従来の基準をそのまま維持するのではなく、科学的根拠に基づいて安全性を確認します。

  1. 学校における働き方改革や物流効率化法を踏まえた食材配送の見直し

学校教職員や学校栄養職員等の業務負担を抑え、日々の作業の必要性と実務負担の両面から見直すことが課題です。
また物流効率化法による物流の見直しが進んでいる中で、従来の食材配送のやり方が地域によっては負担となっています。給食の安全性と効率性の両立をめざす必要があります。

有識者会議での議論も上の3点を踏まえたものになります。
1については衛生管理基準の条文の見直し、2については科学的な確認、3については食品供給、労働環境、取引環境など多方面にわたる考慮がおこなわれる予定です。

これまでの5回の有識者会議[2]での討議からいくつかの話題を拾ってみました。
(以下の説明は主に有識者会議の第1回~第5回の配布資料、議事録から引用。)

●施設・設備の老朽化と環境整備の遅れ

第2回会議では、老朽化した調理場施設においてドライ運用※を実現しようとすると調理員の負担が増すと指摘されました。
最新の加熱・冷却機器も、設置スペースがなく導入できない場合があります。

施設間の格差は、衛生管理の難易度だけでなく、提供できる献立の幅にも影響しています。

※床を濡らさない乾燥した状態で作業・運用する方式

●調理員不足と業務の過密化

第2回会議では、調理員の高齢化、人手不足、職員の入れ替わりによる技能継承の困難が報告されました。栄養教諭等が早朝から食材の検収を担うケースもあり、本来業務への影響が問題となっています。
前日調理の制限や早朝の納入対応も負担を増やす要因として挙げられています。
衛生を守りつつ、作業の合理化や担当業務の見直しを進める必要があります。

●食物アレルギー対応等の複雑さ

第1回会議の問題提起では、食物アレルギーや宗教上の食事制限への対応も、現場が直面する課題として挙げられています。
個別対応では、食材の確認、調理工程の分離、誤配膳の防止など、通常の給食以上に慎重な管理が求められます。しかしそのような対応の複雑化に対して、個々の施設の経験や担当者の注意力だけに依存しているのが現状です。
明確で実行可能な運用ルールをどう整備するかが課題です。

●配送・配食段階における運用の問題

第1回・第2回会議では、食材の当日納入、早朝の検収、委託炊飯米の配送、学校の配膳室での温度管理などが問題として挙げられました。
特に、調理後2時間以内の喫食というルールの解釈のバラツキや、配送後の保管環境をどう管理するかは現場の悩みです。
物流効率化法への対応も踏まえ、食中毒リスクを抑えながら納入時刻・配送方法・検収担当を柔軟に設計できるかが検討課題となっています。

●背景にはもっと大きな問題がある

上記の各項目は、それぞれ独立した問題ではありません。
背景には、学校給食を支える自治体の財政、労働力、施設配置、家庭の負担能力という構造的な制約が見えます。

<少子化の問題>

少子化によって児童数が減っても給食運営の負担は比例して減らないという問題です。
給食対象者が減少しても、調理場、冷蔵・冷凍設備、配送車両、衛生管理担当者などの固定的な費用は同じ割合では減りません。
小規模な自治体でも、一定の設備・人員を確保する必要があります。 一方、調理員の高齢化や採用難が進めば、少ない人員で業務をおこなうことになります。
学校統合や給食センターの集約は効率化に有効ですが、配送距離の延長や配膳時間の制約という新たな問題も生じます。

<地方財政の問題>

地方財政によって衛生基準の改正だけでは解決できない設備格差が生じる問題です。
老朽化した施設を改修し、空調、ドライシステム、冷却設備などを整備するには多額の費用が必要です。財政に余裕がない自治体では、基準が改正されても、実施に必要な設備投資が追いつかない可能性があります。
財政力の弱い自治体では現場の努力に頼るしかないという格差が拡大する恐れがあります。

<保護者の給食負担の問題>

保護者負担の軽減は、子育て世帯の経済的支援や教育機会の平等という観点から重要です。
しかし、食材価格や人件費、配送費が上昇する中で、財源の裏付けが不十分なまま給食負担だけを軽減すれば、献立の質や調理体制にしわ寄せが生じます。
したがって、保護者負担の軽減は給食の栄養水準、食材の質、自治体の財政負担、施設・人員の維持費を含めて議論する必要があります。

給食の背景にあるこれらの問題は今回の衛生管理基準の見直しにとどまらず、学校給食全体に関わる政策課題といえます。

●過剰な食品安全?

第2回の食品安全委員会からの説明において、少し毛色が違う意見が出されていました。
食品安全委員会が委嘱している食品安全モニターから下記のような報告[4]があったそうです。

学校給食衛生管理基準第三条1項「食品の選定」に
「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された食品・・・・」
とある点について、

「学校給食や子供さんや親御さんへの説明でもこの告示があることが、食品添加物などへの嫌悪感、反対意見への根拠になっていないでしょうか。国が安全と定めたことと大きな矛盾が生じていることが長年放置されています。」

学校給食衛生管理基準の表記が一人歩きして、食品安全委員会が安全性について保証している物にまで拒否感が出ていることが問題視されています。食品添加物すべてが悪者にされては食品安全委員会の面子が立ちません。

食品安全委員会から文部科学省に対して問い合わせをしたところ、”別途基準の見直しが予定されているので、その中で関係府省と相談していきたい”と回答があったということです。
まさしくこの有識者会議の趣旨に沿った議題だろうと思います。

学校関係の規則が意外なところまで潜在的な影響を及ぼしていることが驚きでした。

●学校給食での食中毒

上で説明したような厳しい衛生基準にもかかわらず、残念ながら学校給食での食中毒発生は皆無ではありません。

図1. 学校の給食施設における食中毒発生状況([5]より筆者作成)

図1は2014年~25年に、学校の給食施設(単独調理場、共同調理場、ただし寄宿舎等を除く)において発生した事件の件数と患者数をグラフにしたものです。

最近では1年間で一桁の発生件数、100人台の患者数で抑えていることがわかります。
全国の食中毒発生件数(年1,000件以上)に比較して学校給食のそれがいかに低いレベルかがわかります。
全国の給食施設数を考えれば、学校給食関係者の日々の努力に敬意を払いたいと思います。

ところでこの図で2017年の患者数が異常に多いことが見えます。
これはこの年の2月に立川市で発生したノロウイルス食中毒の影響です[6]。
9つの小学校に給食を提供していた学校給食共同調理場が発生源でした。生徒、教職員合わせて1,100人近くが患者になりました。
ただし調理関係者の名誉のために書くと、原因は親子丼にふりかけた少量の「キザミのり」でした。パッケージとして納品された段階ですでにノロウイルスに汚染されていたとされます。調理場の問題ではなかったということです。

こんな少量の乾燥した添え物までけっして油断できないということですが、いったどうやって検査すればよいか途方に暮れます。■

[1] 学校保健、学校給食、食育 https://www.mext.go.jp/a_menu/01_k.htm
[2] 「学校給食衛生管理基準」の在り方に関する有識者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/205/index.html
[3] 有識者会議第1回 資料2 https://www.mext.go.jp/content/20260325-mxt_kenshoku-000048539_4.pdf
[4] 食品安全モニターからの随時報告(令和6年度分) https://www.fsc.go.jp/monitor/monitor_report.data/zuiji.pdf
[5] 厚生労働省「4.食中毒統計資料」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html
[6] 立川市教育委員会「学校給食共同調理場における食中毒再発防止対策検討委員会資料」(2017年3月) https://www.city.tachikawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/318/saihatubousi_siryou1.pdf

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