連絡先?

(2026.08.12 No.214)
いろいろな場所で、いろいろな書面に”連絡先”を記入することが多いです。
個人の場合はほぼ現住所が連絡先ということになります。
法人ならば法人の所在地か事務所となるでしょう。

しかし土地取引においては、その”連絡先”が書けない(存在しない)という事態を想定しなければならないケースが現れます。

●提言
8月7日に国土交通省から「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」提言が公表されました。
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo02_hh_000001_00119.html

国土交通省が今年3月に設置した「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」[1]では、計5回にわたり、土地の取得やその利用等に関して現在生じている課題について、制度の整備・見直しを含めた必要な対応策を検討してきました。
その結果をまとめたものが今回の提言です[2]。

●法規制の“隙間”
今回の有識者会議が開催された背景には、

 近年、不適切な土地利用の発生や外国人による土地取得への懸念などもきっかけとして、国土の適正な利用の在り方に関する国民の意識が高まっている

ことにあります。
今回の有識者会議でも話題にされていたのが、廃棄物や土砂の積み上げが行われたり、スクラップヤードが建設されたりすることによる環境への悪影響です。

このような事態の原因として、
 ・土地利用に関する規制が比較的弱いエリアで行わる
 ・規制対象になりにくい態様で行われる
 ・土地取得時に利用目的の把握が十分でないため、土地の開発や使用収益が開始された段階で初めて発覚し、行政が後手に回ることが多い
などが挙げられます。
また、当事者が外国人・外国法人の場合、連絡がつかなかったり、取引の存在自体が把握できなかったりする等の指摘もあります。

●”連絡先”という引っかかり
これまでの有識者会議の議論を追ってみようと思って、議事録(議事要旨)を読んだとき、次の文章に引っかかりました。

令和6年の不動産登記法改正で国内連絡先の記録が可能になったものの、連絡先なしと登記することも認められているが、・・・[3]

この”連絡先なし”という言葉が筆者はどうしても気になってしかたありませんでしたので、さらに資料をさかのぼって調べてみました。

●”連絡先”は重要な討議テーマ
まず発端となっている不動産登記法改正(2024年)について議論された法制審議会の記録です。

第12回の審議会[4]では、
 ”国内連絡先の登記を義務付けるべき”
という参考人意見が出されました。
法務省の改正試案では公的機関からの情報提供によって登記情報を更新する仕組みが書かれているが、外国人の場合にはそれは機能しないという理由によります。

続く第15回の審議会[5]では、
 国内連絡先を必須にする
 →登記申請時に連絡先を書かなければならない
 →連絡先がない外国居住者は登記できなくなる?
という議論が交わされました。
ここでは登記実務をおこなっている委員からの発言もあり、外国人が日本での登記の代理人を立てた場合に、
 ・代理人が登記後も本人と連絡を取り合わないといけなくなるため、代理を嫌がる
 ・代理人がいったん登記した後、辞任して”連絡先なし”で再登記することも可能
といった理由で実務上の問題や抜け穴が生じるようです。

●登記と連絡先は別の話し
審議会としては”国内連絡先を記入すること”は土地登記の必須条件として強制できないことから、
 ”土地を登記すること”と
 ”連絡先を記入すること”
は切り離して考えるということに落ち着きました。
これが”連絡先なし”が認められた経緯です。

●売買と相続の違い
もう一つ、土地の売買と相続の違いも議論されました。
外国人が土地を売買する場合には国内の不動産業者や司法書士などが媒介するので、ほぼ確実に国内連絡先を確保できます。

他方、外国人が日本国内の土地を相続した場合、そのような必ずしも仲介者を見つけられません。
法務省の思惑としては、この相続のようなケースに対して、特例として”連絡先なし”を認めようということだったようです。

●諸外国での制度
では日本以外の国では、外国人が土地を取得して登記することへの対応はどうなっているかを比較したくなります。
筆者は外国情報については疎いので、ChatGPTに調べてもらいました。

その結果、下のようになります。
 A.取得そのものを規制する
   シンガポール、ニュージーランド、オーストラリアなど
 B.取得は認めるが、外国資本の透明性を高める
   イギリスなど
 C.取得を基本的に認め、登記・記録によって所有権を公示する
   アメリカの多くの州など、日本もこれに近い

特徴をまとめると下表のようになります。

外国人の所有外国人であることの把握国内連絡先実質的所有者の把握取得規制
日本原則可能登記事項等あり原則として別制度比較的緩やか
イギリス原則可能登記+海外法人登録日本型はなし重視主に法人透明性
オーストラリア規制あり外国所有資産登録日本型はなしケースによる非常に強い
シンガポール物件により制限取得許可+登記日本型はなしケースによる非常に強い
ニュージーランド非居住外国人は強く制限取得資格・所有情報日本型はなし強い
アメリカ原則可能だが州により制限州の記録制度等日本型はなし州・連邦制度による州により強い
表1. 各国の外国人土地所有・登記制度

(以上、ChatGPTの出力をそのまま転記したもので、筆者は個々に裏付けを確認していません。)

●ふさがらない抜け穴
不動産登記法における”連絡先なし”の件については上のように多方面の立場から有識者によってきちんと議論された上で決められました。
ただ、現実の土地の不正利用の状況を考えると、法制度上の正しさが現実社会の問題解決には必ずしも役立たないことがわかります。
一つの法律ですべてが解決できるわけではないので、それを補完するためにさまざまなレベルでの規制や運動が必要となるでしょう。

また各国の不動産登記の状況をみると、現実への対応にはそれぞれの国柄があらわれているのも面白いことです。

連絡先を記入するという一つのことから、あらためて自分の存在証明を考えるよいきっかけとなりました。■

[1] 「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000134.html
[2] 「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議 提言」(2026年8月) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002015721.pdf
[3] 第2回土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議 議事要旨(2026年5月12日) https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/002005089.pdf
[4] 法制審議会 民法・不動産登記法部会 第12回会議(2020年2月18日) 議事録 https://www.moj.go.jp/content/001319375.pdf
[5] 法制審議会 民法・不動産登記法部会 第15回会議(2020年7月14日) 議事録 https://www.moj.go.jp/content/001328738.pdf

Follow me!