稼ぐ力

(2026.07.01 No.206)
6月24日に中小企業庁から
「労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略」
が公表されました。
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260624004/20260624004.html
中小企業政策審議会で外部有識者によって議論されてきた内容をまとめたものです[1]。異なる方向から中小企業の成長について議論されてきた研究会報告[2][3][4]がベースになっています。
●中小企業の成長促進
わが国の企業を分類した図が下図です[5]。
これまで中小企業庁としては、売上高10億円~100億円未満の中堅企業を100億円超クラスのみなし大企業に育成する政策をとってきました[6]。
今回はさらに1億円~10億円クラスの中小企業というすそ野層にまで成長支援策を拡張しようとしています。
すなわち小規模な事業者まで幅広く政策を展開して、わが国の産業全体の底上げを図ろうとするものです。
しかし最近の急速な情勢変化のために、中小企業支援の施策についてもよりダイナミックな対応が必要となってきました。

●労働供給制約社会とは
労働供給とは企業にとっては「労働者」の確保を意味します。
教科書の上では”実質賃金率が高いほど労働供給は増える”とされます。給与が良ければ人が集まるというわけです。
しかしわが国の場合、少子高齢化が急速に進んで労働力の供給源そのものが細っているため、給与をあげても必ずしも人材不足が解消しない状態になりつつあります。「人」こそまさしく稀少な財となるわけです。
この戦略の名称はもともとは単に「中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略」となっていました。
しかし最終文案を調整する中で、特に”中小企業で働いてもらう人”に対する制約というのがさまざまな問題の根っこになっているのではないかと考えられて、「労働供給制約社会における」という言葉がつけ加わりました。
そこには、
第一に地方と都市部における人の偏在の問題、
第二にAIによる産業構造の変化
という大きな問題が含まれています。
●強化戦略のポイント
この強化戦略のポイントはまず「賃上げ」をトリガにする点にあります。防衛的な賃上げではなく、成長型の賃上げをめざします。
結果としての賃上げではなく、初期条件として賃上げを設定している点が、国の焦燥を示していると見えます。
そもそも体力のない中小企業が人件費負担を増加させることは容易でないと理解しつつ、十分な体力が付くような施策を今から国が打ち出していても間に合わないと考えているからです。
ならば中小企業の経営者には”賃上げを前提とした”経営戦略をバックワードで考えてもらいたいという意味です。
その賃上げによって、「付加価値」を高めると同時に、「労働投入量」を最適化してゆきます。その実現策として大きく6つの支援策を挙げています[1]。
■価格転嫁・取引適正化の強化
■成長支援・生産性向上
■M&A・事業承継等による事業再編
■成長を促進する中小企業金融
■賃上げの促進
■経営管理能力の高度化と経営改革のための伴走支援体制の強化等
●転換点
筆者なりに強化戦略を読んで、考えたことを書いてみます。
今、中小企業を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。30年来の停滞期の間にじょじょに蓄積してきた構造変化が臨界点に達していると考えられます。
最も大きな要因が少子高齢化の流れです。そのために需要の減少や労働供給の減少がはっきりと現れ始めています。そしてその流れは加速しています。さらに上で触れたように地方と都市部との人の偏りもますます大きくなっています。
第二の要因は世界情勢が急激に変化していることです。
戦争や関税など荒っぽい手段が横行するようになりました。
国際的なサプライチェーンが今ほど重みを持って見られる時代はなかったでしょう。小さな部品がある時、急に入手できなくなる可能性も出てきます。
第三の要因はAIの性能向上が急速に進んでいることです。工程の自動学習などSFで想像していた世界が現実味を帯びてきました。そしてそれらの進化がどのような方向にどこまで進むか、誰も予測できなくなっています。すでにシンギュラリティ(Singularity)に至ったと言えるのではないでしょうか。
このようにビジネスの形や市場が大きく変化していく中で、それに対応できない企業は消えざるを得ません。
●企業の終活
特に中小企業にとって、今は成長の道筋だけでなく、終着点も選択しなければならない状況に迫られています。
自分の代できちんと幕引きをするのか、妥当な後継者に事業を渡すか、あるいは他社に事業を渡すか。それまで折り込んだ成長戦略が求められます。
●COVID-19の教訓
老舗と言われていた企業がどんどん事業を閉じている厳しい現実があります。
多くの事例では2020年頃の”新型コロナウイルス感染症(COVID-19)”による経済停滞が経営不振のきっかけだったようです。
急激な変化という意味では、上の「転換点」を先取りしていたのではないかと考えます。
これからの経営者はCOVID-19のような社会変化が多方面で同時に起きてくると想定して準備しなければならなくなります。
今回の「稼ぐ力」強化戦略は、あくまで政策側での準備体制をまとめたものです。
中小企業の経営者から見て国が展開している施策(補助金や税制など)の数々のうち、利用できるものは遠慮なく使ってみるのが利口でしょう。
また中小企業から見て、国の施策に利用しづらい理由があるならば、大きな声で訴えることも意義があるはずです。図1に示すように、わが国の大半の企業は中小企業ですから。■
[1] 労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略 https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260624004/20260624004-2.pdf
[2] 中小企業における事業再生支援のあり方検討会 報告書 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/045/dl/s001.pdf
[3] 地域の持続的成長に向けた創業政策のあり方検討会 報告書 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/045/dl/s002.pdf
[4] 小規模事業者の「稼ぐ力」の強化に向けた諸課題に関する検討会 中間とりまとめ(案) https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/045/dl/s003.pdf
[5] 経済産業省「令和7年度(2025年度)経済産業関係 税制改正について」 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2025/pdf/03.pdf
[6] 100億企業成長ポータル https://growth-100-oku.smrj.go.jp/
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