飛び立て!

(2026.06.09 No.202)
6月4日に文部科学省から、
トビタテ!留学JAPAN 新・日本代表プログラム【高校生等対象】【拠点形成支援事業】2026年度(第11期)派遣留学生を決定
https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/tobitate/1413287_00013.htm
という発表がありました。

●2013年度から始まった海外留学支援
トビタテ!留学JAPAN事業は、意欲と能力ある全ての日本の大学生や高校生が海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、2013年度から開始されました[1]。

第1次ステージ(2013~22年度)では約9,500人の若者が採択され、グローバル人材としての成長しています。この成果をふまえて、現在は第2次ステージ(2023~27年度)に入っています[2]。

第2ステージでは、”グローバルリーダー”5,000名の育成をめざして「新・日本代表プログラム」を実施します。そして、それを支援する自治体、高校、大学の連携プラットフォーム、国内外の関係者との協働を推進します。

あわせて15年という事業期間は文科省の中でも異例の長さを持ちます。

●2026年度の留学生
2026年度の派遣留学生について、
高校生等の応募者は前年度1,886名から2,602名へと4割増加したこと、
また高校生等の採用人数は第2ステージ最多の1,083名となったこと、
が発表されました。

●背景にある危機感
この文科省のトビタテ事業の背景には、次のような危機感が産業界・教育界に拡がっていることがあります[3]。
・グローバル人材を不足と感じている企業が7割
・全国約320万人の「高校生」のうち約40%が留学を希望しているが、実際に海外留学できた人数はわずか1%程度という危機的状況
・留学未経験者の68%が費用負担の大きさを断念した理由として挙げています

●海外への留学生が減少したのは本当か
上記の危機感の中に、
”日本人留学者数は連続的に減少している”
という文言もありましたが、その裏付けが不明でした。

実は2022年まで文科省はOECDなど国際機関からの情報を使ってきましたが、国や地域によって調査時期や調査対象がバラバラであったこと、
また2013年から調査対象者の定義を変えたため、比較することができなくなったという事情もあります。

現在、文科省としては
「送り出し側」(日本学生支援機構の調査(大学間交流協定等に基づく主に中短期の留学)によるもの)と
「受入れ側」(ユネスコ、米国国際教育研究所(IIE)等の2023年統計にもとづいて各機関が把握している日本人の海外留学者数(主に長期留学)をカウントしたもの)
の二つのグラフを公表しています[4]。

以上のように、”海外留学生”をどのように定義するかによって見方は変わるので注意が必要です。さらに集計もれもありうるため、数値を過敏にとらえることは避けるべきでしょう。

今のところ、
・”日本人留学生数は2000年頃にピークを迎えた”
・”その後、減少してきたが、2012年頃から増加に転じた”
・”2020年のCOVID-19蔓延期は大幅減少した”
・”それ以降は回復傾向となったが、ピーク期には及んでいない”
と言えると思います。

●安・近・短?
参考として、[4]掲載のデータを
”1ヶ月未満の短期留学”と
”それ以上の中長期留学”
に分離した推移を図1に示します。
これを見ると2010年以降、留学生全体の人数が伸びている中で、1ヶ月未満の短期留学(いわゆるショートステイ)の伸びがさらに大きいことがわかります。

理由としては、”円安によって長期滞在が難しくなった”、”大学受験や就職活動に支障が出る”などが考えられます。
しかし短期でも海外に留学してみたいと考える人はけっして減っていないと見えます。

留学者数(送り出し側)の期間別推移

●高校生留学の支援
第2ステージの「新・日本代表プログラム」では
・STEAM探究コース
・スポーツ・芸術探究コース
・マイ好奇心探究コース
・社会課題探究コース
の4コースが用意され、テーマや計画の自由度が大きいことが特長です。
いずれも1年未満の留学ですが、多感な高校生にとっては貴重な体験になるでしょう。
また高校生で短期でも留学をした経験を持つ人は、大学生や社会人になってからあらためて長期留学を考える際にも前向きになれるでしょう。
短期といえど、現在の学業に遅れの影響は少なからず出るでしょう。しかし経験者の体験談[5]を読むかぎり、得るもののほうが圧倒的に多いようです。

そう意味で若い時期に海外経験をする価値は大きいと思います。

●官民連携の珍しい例
「トビタテ!留学JAPAN」は
”文部科学省初の官民協働プロジェクト”[6]
とされる、たいへん珍しい取り組みです。

立ち上げ時のプロジェクトディレクターが幼少期からの海外経験と民間の商社経験をもとに、トビタテ!の仕組みを作ったことも良かったと思います[7]。この事業は官の企画だけでは決してうまく回らなかったのではないでしょうか。

また、先に挙げた”背景にある危機感”が文科省だけでなく、自治体や民間企業とも共有されていたことも追い風でした。

民間からは108社・団体及び個人から44.6億円(2026年5月1日時点)が集まっています。これらを原資として返済不要の奨学金(月12万円~)が実現されています。

●社会全体で支える事業
省庁の事業では基本的に税金を原資にして全国民に事業成果を還元することをめざします。
しかし社会が複雑化している中で、有意義な事業を”永続的”に実行していくためには、民間をはじめとする多様なステークホルダーが関わって、資金、経験、知識を出し合う仕組みが必要と、筆者は考えます。

トビタテ!留学JAPAN事業では、特に地域の高校生等のための拠点を強化する取り組み(現在8府県、アライアンス3県)も進められています。
留学未経験の高校生にとって、自分の身近に留学経験を持つ先輩を見つけられることはたいへん心強い気持ちになるはずです。たとえ年千人程度の留学生でも、そういう留学経験者の輪が地域で拡がっていくことで、海外留学がごく当たり前になる雰囲気ができあがるものと思います。

「かわいい子には旅させよ」ということわざがあります。これは子どもを保護者目線で見ている言葉でもあります。
しかし子どものほうがもっと広い世界に飛び立とうとしているのを、保護者がさまたげているという現実も多いのではないでしょうか。

留学大図鑑[5]を読むと、大人が教えられることも多いです。■

[1] 「トビタテ!留学JAPAN」ホームページ https://tobitate-mext.jasso.go.jp/about/
[2] 「トビタテ!留学JAPAN 第2ステージ」 https://tobitate-mext.jasso.go.jp/nextstage/
[3] トビタテ!留学JAPANへの寄附・ご支援 https://tobitate-mext.jasso.go.jp/donation/
[4] 文科省「日本人学生の海外留学状況及び外国人留学生の在籍状況(R7年度)」(2026年5月29日) https://www.mext.go.jp/content/20250430-mxt_kotokoku02-000027891_1.pdf
[5] 留学大図鑑 https://tobitate-mext.jasso.go.jp/zukan/
[6] 文科省 トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム「地域人材コース」平成29年度 地域事業公募説明会(2016年6月28日) https://tobitate-mext.jasso.go.jp/program/region/pdf/region_20160628_07.pdf
[7] 「トビタテ!留学JAPAN プロジェクトディレクター 船橋力さん」、KUMON NOW、Vol.022、2015.07.17
https://www.kumon.ne.jp/kumonnow/obog/022_1/

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