でんしんばしらの詩

(2026.04.29)
街の道路沿いには電柱があり、それを避けながら歩行者や自転車が行き交うというのは日常風景です。また空を見上げると必ず電線が横切っているというのも気になりません。当たり前すぎて、もはや意識されない物といえます。
鋭敏な詩人は電柱を軍隊の行進に例えました[1]。昭和生まれの者にとっては一種のノスタルジー[2]にもなっています。
しかし外国から来た人には電柱や電線はかなり気になるようです。
たしかに海外諸国の街並みと比較すると、わが国の電柱・電線の多さは目立ちます。


図1は海外の都市との無電柱化率の比較です。歴史的、社会的な背景の違いが理由としてありますが(※)、それにしても日本の低さは目立ちます。
※無電柱化の歴史的経緯については論文[4]に手際よくまとめられています。

●電柱・電線の問題
そのような詩的・心情的な理由よりももっと深刻な状況があります。自然災害による被害です。
地震、台風などによって電柱が倒壊すると、電気や通信の線が切断されます。また電柱が道路をふさいでしまうと救命や復旧に大きな支障が出ます。

●無電柱化推進計画
国土交通省ではすでに1986年から「電線類地中化計画」を3期・計15年間実施しました。
そして2016年には「無電柱化の推進に関する法律」が成立して、国が無電柱化推進計画を策定・公表することが定められました。
第1次(2018~2020年度)、第2次(2021~2025年度)に引き続き、今第3次(2026~2030年度)の計画案を議論しています。
4月16日に開催された令和8年度第1回「無電柱化推進のあり方検討委員会」[5]では、この第3次計画案の素案の最終確認がおこなわれました。そして今は計画案に対するパブリックコメントを集めているところです[6]。
●新計画案のポイント
第3次計画案[5]では次のような姿勢でのぞみます。
・依然として電柱が毎年増えている状況を踏まえ、新設電柱の抑制や既設電柱の削減にこれまで以上に積極的に取り組み、電柱は増やさず、確実に減らす
・特に緊急輸送道路については無電柱化を加速化する
・地域や現場の実情に応じて、多様な整備手法を活用するなど、徹底したコスト縮減を推進し、限られた予算で無電柱化延長を延ばす
・事業の更なるスピードアップを図る
今後5年間で約1,000kmの地中化整備を実現、あわせて約4,000kmの計画を策定するとしています。
●追いつかない計画
1986年から実施してきた無電柱化ですが、行政手続きや予算、技術の問題などにより、無電柱化の完全到達は容易ではありません。
たとえば図3のように、「緊急輸送道路」の無電柱化状況をみると、市街地2万1千kmのうち、65%に電柱が残っている状態です。
さらに深刻なのは「新しい電柱」です。
図4は道路上の電柱増減数です。
国道はたしかに純減していますが、都道府県・市道は1万件近く増加しているありさまです。
図5は道路以外の電柱数で、3万7千件も増加しています。
無電柱化推進をおこなって道路上の電柱を減らしても、それを上回る件数の電柱が新設されているのが現状です。



●理想と現実
図6は「無電柱化の日」のロゴです。11月10日は電柱の列が0になるという意味を示しているそうです。
このような運動を含めて、国交省はじめ関係省庁は無電柱化に向けた立案や調整を着実におこっていることは確かでしょうが、それにしても理想と現実が離れすぎている印象です。
上に書いた新計画案にある”新設電柱の抑制や既設電柱の削減”という言葉が虚しく聞こえます。
国、自治体が保有している土地の電柱は順調に減らせても、民有地に立つ電柱は野放しという状況では、土地開発が進むに比例して電柱が乱立することは明らかでしょう。
●エントロピーの増大
私人にとって電力・通信の線を引くのに高いコストをかけて地中化するメリットはありません。空中に電線が横切るのもせいぜい風景の一つとしか感じません。法律や条例で私有地の無電柱化を強制しないかぎり、電柱は増え続けるでしょう。
ニュータウン造成地で、当初は完全地中化がおこなわれて、すっきりした街並みだったところが、時間とともに土地の所有者が変わり、細かく分割された狭小土地に1本ずつ電柱が羅列するといった光景が出現します。
これも一つのエントロピー増大の現象ということで諦観するしかないでしょうか。■

[1] 宮沢賢治「月夜のでんしんばしら」(「注文の多い料理店」(1924年)収録) https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1929.html
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10198917_po_0921.pdf?contentNo=1
[2] 片山一弘「景観の敵と言われても、昭和生まれには愛着ある電柱・電線」、読売新聞オンライン、2021年5月21日 https://www.yomiuri.co.jp/column/chottomae/20210519-OYT8T50060/
[3] 第1回「無電柱化推進のあり方検討委員会」(2017年1月26日)資料3 無電柱化の現状 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf01/5.pdf
[4] 平湯直子「無電柱化の概要及び施策の変遷 : 近年の無電柱化の動向」、武蔵野大学政治経済研究所年報 23号、pp.247-282、2024年2月28日 https://mu.repo.nii.ac.jp/records/2000162#
[5] 令和8年度第1回「無電柱化推進のあり方検討委員会」(2026年4月16日)配布資料 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/doc24.html
[6] 国土交通省 「第3次無電柱化推進計画(案)」に関するパブリックコメントを実施します(2026年4月24日発表) https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_002091.html
[7] 令和7年度第1回「無電柱化推進のあり方検討委員会」(2025年6月16日)資料1 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/pdf19/01.pdf
[8] 横浜市「無電柱化の日」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/doro/jigyo_kikaku/densenrui/mudenchukanohi.html
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