無縁の墓

(2026.04.14)
盂蘭盆(うらぼん)や 無縁の墓に 鳴く蛙 (小林一茶)
柄にもなく、俳句を冒頭に持ってきました。
年度始めは政策の話題が多すぎて、かえって題材の選択に困ると書きましたが、のっけから「墓」の話を書くのは期初としてはいささか縁起が悪い印象を与えるかもしれません。
しかし人にとって最後の住居である墓を論じるのは、住居探しにおいて居住場所や住宅費の支払い計画などを真剣に検討するのと同様にとても大切なことだと思います。
墓にはわが国の少子高齢化の影が行政を圧迫している状況が見えます。
4月3日に総務省から「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-<通知に対する改善措置状況(2回目のフォローアップ)の概要>」が発表されました。
今回はその経緯に沿ってまとめてみました。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/youka_260403000188926.html
●墓と法律
埋葬や墓については「墓埋法」※という法律があり、その所管は厚生労働省です。具体的な法律の実行は各自治体(地方公共団体)に任されています。
特に墓地や納骨堂の経営には都道府県知事の許可が必要であり、公共性や永続性を保つために地方公共団体が経営主体となることが奨められています(地域によって例外も認められる)。
現実には、「自治体が経営する公営墓地」、「宗教法人が経営する寺院墓地」、「公益法人が経営する民営墓地」の3種が存在します。(実はもう一つ「その他」という区分があり、昔からの共同墓地などが含まれます。)
※「墓地、埋葬等に関する法律」(1948年制定)。
●墓の現状
厚生労働省は毎年「衛生行政報告例」[1]を発表しています。
これは都道府県、指定都市及び中核市から厚労省に対して毎年5月末に提出されるもので、生活衛生関係や医療関係など多方面の数値データが集計されています。明治時代から続く統計ですが、今の形式になったのは2000年からです。
衛生行政報告例の集計では墓地の経営主体を「地方公共団体」、「公益社団法人」、「宗教法人」、「個人」、「その他」に区分して、それぞれ区域数※を数えています。
※区域:墓地として認可された土地の範囲。
それによると全体の区域数は87万箇所であり、そのうち本来は経営主体になれない個人の所有が72万箇所と大部分を占めています(図1)。
図2は1996年以降の墓地数の推移を示しています。(ここでは「総数」と「個人」が圧倒的に多いので、図を二つに分けて表示しています。)
墓地の区域数自体はほとんど変化していませんが、個人経営の区域が若干増加しています。自治体経営のいわゆる公営墓地については区域数が減少気味であることがわかります。



●地域性
図1は全国の総計ですが、墓地区域数の多い県を並べてみると、
岡山県(108,335)
島根県(96,884)
長野県(83,855)
広島県(66,812)
群馬県(44,190)
埼玉県(28,396)
となっています。
この順番は「個人経営」の墓地区域数の順位と同じです。
このような地域差は人口密度、集落の分布、歴史などの要因が重なった結果であると考えられます。
●歴史的背景
個人経営の墓地が多いのは、
・古くから自宅の一角に先祖の墓を置いていて、墓埋法施行後に事後的に認められた(みなし墓地)例が多いこと、
・1951年以前は寺院が墓地の経営主体になれなかったので寺院の責任者(たとえば住職)が個人名で登録をおこなった例もあること[2]、などの理由によるとされます。
なお登記上の地目が「墓地」の場合、墓地と墓石には固定資産税は課されません。
●調査の経緯
自治体(正式には地方公共団体)を統括している総務省としては、自治体からの問い合わせが最近目立ってきた「公営墓地」の無縁墓の処理について、全国の状況を確認する調査をおこないました。
それが2022年3月~2023年9月の「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として」の調査[3]です。
88市町村、東京都などへ実地調査をおこないました。
なおその前に予備調査として全1,718 市町村へアンケート調査を実施しています。
その結果、
・公営墓地・納骨堂を有する765 市町村のうち、無縁墳墓等が1区画以上ある(可能性も含む。)とするものは、全体では58.2%(445/765 市町村)
・無縁墳墓の発生により、公営墓地の荒廃や不法投棄の温床になっており、中には、市町村で樹木の伐採や墓石の倒伏防止のための手間と費用を要した例もある
・無縁墳墓の発生を抑えるために縁故者情報を把握している市町村は少数(把握率2割未満が80.7%)
・無縁改葬を行うに当たっての懸念として、無縁改葬後の墓石の取扱いが不明確なことにより、市町村が墓石を処分すべきか、保管すべきか、 一時保管の場合の保管期間について迷うなど対応に苦慮
という状況が明らかになりました。
これらを実施するために各自治体なりに工夫や努力をおこなっていますが、やはり件数が増えるとともに自治体の負担も大きくなっている様子がうかがわれます。
また問題は自治体が直接関わっている公営墓地に限りません。宗教法人経営の墓地、個人経営の墓地も経営者や所有者が不明となると、自治体が対応せざるを得なくなります。そしてそちらの数が圧倒的に多いという難しさがあります。
●総務省から厚労省への通知
以上の結果をふまえて、2023年9月13日に総務省「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-<結果に基づく通知>」[4]が厚生労働省宛に通知され、地方公共団体に対して必要な支援を行うことが要請されました。
●厚労省から総務省への第1回回答
厚労省では民営墓地も含めた調査研究を進め、2025年3月に報告書[5]をまとめました。これをもとに、2025年5月30日に厚労省より第1回回答(改善措置)を総務省に回答しました。
その内容は自治体に対して調査結果を周知するとともに、無縁墳墓の発生抑制のためには、墓地使用者以外の縁故者に係る情報を事前に把握しておくなどの取組が有効であることなどを示したものです。
●厚労省から総務省への第2回回答
2026年3月26日に厚労省より第2回回答(第1回のフォローアップ)が出されました[6]。
それは自治体ごとにばらばらな対応になっていた無縁改葬後の墓石の処分の考え方等について厚労省の統一見解をまとめたものです。
・地方公共団体が代執行により墓石を撤去した場合には、その撤去費用を徴収するために当該墓石を差し押さえて公売を行う方法が考えられる
・民法第697条第1項の事務管理※に該当する場合、保管費用が墓石自体の価値より高くつくのであれば売却や廃棄してもよい
※義務なく他人のために事務の管理をすること。
●まだ残る課題
総務省と厚労省の連携によって、無縁墓への当面の対応は決着しましたが、根本的な課題がまだ山積しています。
現在、国土交通省を悩ませている「空き家」問題と同様、相続にともなう情報が欠けていたため、墓の承継者が追跡できないという問題です。
墓は祭祀財産であるので、法律によって守られるべき対象ですが、肝心の「誰のものか」を管理する仕組みが整っていないということです。
血縁、地縁の結びつきが弱くなり、無縁墓が増加する可能性は、すでに戦前から指摘されていたようです[7]。また自治体の対応負荷も十年前から問題視されていました[8]。
自治体側の負担がもはや軽視できないほどになってきた現在になって、ようやく行政が動き出したというわけでしょう。
課題は墓地の維持管理にとどまりません。
道路工事の途中で多数の無縁墳墓が見つかったため、道路の予定ルートを変更したり、公共工事中に土葬墓が見つかったため工事が遅れた[3]という事例のように、少なからず社会生活への影響も現れています。
総務省、厚労省にとどまらず、土地を整備する国土交通省や遺跡を発掘する文部科学省、登記に関わる法務省も関係してくるでしょう。
死後もけっして安らかとは限らないことを、今生きている者は自覚し、後にめんどうを残さないように用意しておく必要があります。
●夏の思い出
小学校低学年の頃だったか、祖父母の家に帰省して、田んぼの中の墓地に墓参に行った思い出があります。従兄弟たちと打ち上げ花火をやって遊んだ記憶しか残っていませんが、おそらくあの墓地も集落の共同墓地だったでしょう。その後、宅地開発が進んで、墓地もどこかに移ったのだろうと思います。■
[1] 衛生行政報告例 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html
[2] 一般社団法人墓地清掃士認定協会「お墓について」 https://bochi-seisou.com/ohaka/
[3] 総務省「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-結果報告書」、2023年9月 https://www.soumu.go.jp/main_content/000901290.pdf
[4] 総務省「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-<結果に基づく通知>」 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_230913000167928.html#kekkahoukoku
[5] 横田「無縁墳墓の管理・改葬をめぐる現状の把握と課題解決のための調査研究」、厚生労働科学特別研究事業令和6年度総括研究報告書、2025年3月 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/178064
[6] 総務省「墓地行政に関する調査-公営墓地における無縁墳墓を中心として-<通知に対する改善措置状況(2回目のフォローアップ)の概要>」、2026年4月3日 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/youka_260403000188926.html
[7] 問芝「メディア報道にみる無縁墓の戦後史」、死生学年報2022、東洋英和女学院大学死生学研究所 編 file:///C:/Users/harad/Downloads/SN-N18_P123-143-2.pdf
[8] 岸本、眞板「墓地に関する政策研究」、かながわ政策研究・大学連携ジャーナル No.3、2012年9月 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/22496/480227.pdf
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