財布のひも

(2026.04.24)
”財布のひもが堅い”とか”財布のひもを握られている”など、比喩的な使い方をされる言葉があります。生活の中で銭束(ぜにさし)や巾着を使うことはなくなりましたが、イメージが伝わりやすい例えです。
4月9日に経済社会総合研究所(ESRI)より「消費動向調査(令和8年3月実施分)」が発表されました。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html
庶民の財布のひもがどれだけ堅いかを示すのが、この調査で測定される「消費者態度指数」とよばれるものです。
●消費動向調査とは
消費全般の動向を捉えるために、総務省統計局が調査しています。
・調査対象は全国の8,400世帯(国勢調査の結果をもとに無作為抽出)
・これを15グループに分け、1つのグループ(約560世帯)が月1回の報告を15ヶ月継続
・グループ単位で開始時期を1ヶ月ずつずらす(最初のグループの開始から15ヶ月後に最後のグループが開始)
・調査方法は郵送とオンラインのいずれか
・個票レベルで「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の4項目の意識指標に関し、世帯毎に、5段階評価の「良くなる」(+1)、「やや良くなる」(+0.75)、「変わらない」(+0.5)、「やや悪くなる」(+0.25)、「悪くなる」(0)の点数を与える
・世帯毎に4項目の意識指標を単純平均して100 倍(%表示)し、世帯毎の消費者態度指数を算出
●2026年3月時点の結果[1]
・8,400 世帯のうち、二人以上の世帯 5,376 世帯、単身世帯 3,024 世帯。有効回答率は76.3%。
・消費者態度指数は、前月差 6.4 ポイント低下し、33.3
その中身をみると、
・「暮らし向き」が 9.8 ポイント低下し 29.7
・「耐久消費財の買い時判断」が 7.7 ポイント低下し 26.0
・「雇用環境」が 5.7 ポイント低下し 37.6
・「収入の増え方」が 2.5 ポイント低下し 39.8
・「資産価値」に関する意識指標は、前月差 6.6 ポイント低下し 41.9
以上のように3月時点ではいずれの指標も前月より低下しました。

([1]より引用)
●消費意識の波
図1の①を見ると、2019年から2020年にかけた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行後、周期的に上昇機運、下降機運が繰り返されてきましたが、昨年末からの急激な落ち込みが目立ちます。
また②を見ると、COVID-19直後は「雇用環境」の意識指標の順位が最も悪かったのですが、その後落ち着いてくると、「雇用環境」>「収入の増え方」>「暮らし向き」>「耐久消費財の買い時判断」という順位でポジティブな意識を持つようになりました。
これはまず雇用が安定 →収入の安定 →暮らしの安定 →耐久消費財の買い時、という自然な意識の流れを示すといえます。
●可処分所得はマイナスでも消費支出は増加
以上はあくまでも消費者の「意識」を調べたものでした。
それに対して、実際にどのくらい支出したかをまとめたのが総務省の「家計調査」です。2025年の状況をみると[2]、可処分所得は実質1.7%の減少となっています。しかし消費支出は全ての年齢階級で実質増加となりました。
消費の品目別では、食料 -1.2%、住居 +0.7%、被服等 -1.8%、光熱・水道 +2.5%、交通・通信 +6.7%、教育 +6.8%(いずれも昨年比実質増減率)となっています。
公共料金や教育費用が増加しているのに対して、食料や被服を節約している様子がうかがわれます。
この他に家計の状況を表す統計として、「家計消費状況調査」※1、「全国家計構造調査」※2などがあります。
※1 購入頻度が少ない高額商品・サービスの消費やICT関連消費の実態を調べるもの
※2 家計における消費、所得、資産及び負債の実態を総合的に把握するもの
●世帯収入と態度指数の関係
消費者態度指数の長期的な傾向を図2に示します。
この図2は上の図1をもう少しさかのぼって2004年4月からの経緯を表しています。また、ここでは態度指標を世帯の年間収入階級(~300万円/300~400万円/400~550万円/550~750万円/750~950万円/950~1200万円/1200万円~)に分解して表示しています。
この図2で目につくのは2012年を境とした波の違いです。2012年以前は世帯収入による態度指数の差はそれほど大きくはありませんでした。
しかしいわゆるアベノミクス政策がスタートした後は収入差による態度指数の差が大きくなってきました。高収入世帯は比較的ポジティブに寄っている反面、低収入世帯の指数はよりネガティブになってきています。
収入格差によって消費者態度指数の幅が拡大していると見てよさそうです。


●態度指数(気持ち)と消費支出(実際)の関係
家計調査結果から2004年4月以降の長期的な実質増減率の変化[4]を図3に示します。財布のひもを緩めるか堅くするかの指標です。
この図を上記の消費者態度指数の変化と見比べてみると、厳密ではありませんが、多少の連動傾向が見られます。
消費者態度指数で現れる「消費の気持ち」があって、実際に「消費支出」が生じるという因果関係はだいたい成り立っているように見えます。
●動かぬなら動かしてみよう?
時の内閣の姿勢によって国民の意識は変わります。またアベノミクス以降、世帯収入によって消費態度指標が異なる動きを示すようになりました。
企業の給与アップや国の減税策などによって、いったんは世帯収入が増えたとしても、すぐに社会保障費が増えて、手取りはほとんど変わらない、むしろ減っているというのが庶民の実態だと思います。
21世紀に入った当初(小泉内閣期)は消費者態度指数は50近くでしたが、その後、リーマン・ショックを経て40程度になり、今では30に近づきつつあります。
もともと毎年発生する地震や台風などの自然災害によって、日本の国民は「守り」の意識が強く、財布のひもは堅くなりがちです。
ですから、この指数が昔のように50に近づくことはあまり想像できません。
家計支出の増加をあてにできないとなると、「守り」意識によって家庭にたまり続けている「家計金融資産」(2025年12月時で約2351兆円)に、国が注目しているのも故ありです。■
[1] e-Stat 消費動向調査 令和8(2026)年3月分調査報告書 https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/honbun.pdf
[2] 総務省「家計調査報告 2025年(令和7年)平均結果の概要」 https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf
[3] e-Stat 消費動向調査 令和8(2026)年3月分 長期時系列表 1-1 世帯の年間収入階級別(原数値) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040443732&fileKind=0
[4] e-Stat 家計調査 > 長期時系列表 > 1-1 品目分類(小分類まで) > 実質増減率(2000年1月~) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040270648&fileKind=1
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