お金がない

(2023.04.10)
4月6日、経産省は「2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました」と公表しました。
キャッシュレス決済比率は36.0%、決済額は初の100兆円超えに拡大したとのこと。
(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html)

いまどき、Cashlessを現金不足と勘違いする人はいないと思いますが、現金を持ち歩かなくてもモノやサービスを買うことができるシステムということです。

経産省が定期的にこのようなキャッシュレス決済比率を発表しているのは、2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」(※1)に基づき、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという目標を掲げているからです。昨年の比率から4%上がって36.0%となりましたから、この勢いならば目標達成はできそうな雰囲気です。
この1年間で一番伸びたのはクレジット決済でした。

●自分の体験
昔の話になりますが、キャッシュレスはクレジットカードから始まりました。デパートのような限られた店舗でしか使えず、そのため”特別な買い物”に限られていました。私の場合は1980年代に海外出張のときに持参した記憶があります。まだその頃はデジタルではなく、エンボスを写し取るインプリンタ方式でした。
もっと手軽に使うようになったのは、21世紀に入ってから、PasmoとかSuicaとかの交通系のICカードが普及してからです。定期券はもちろん、どこで乗り降りしても改札口でタッチするだけで通過できますし、残金が不足していても自動でチャージしてくれる、などの理由で、ずいぶん使い勝手がよくなったと感じました。
結局のところ、いつでも使える、どこでも使える、という利点に惹かれて、使い始める動機になったと思います。

●経産省の実態調査
経産省は実態調査を実施するとともに、今後の対策をまとめています(※2)。
全国の18~79歳の消費者4,800人にWeb調査。その結果は:

  • 口座振込/振替を含めると支出額の67%でキャッシュレスを利用(⇒日常に浸透している)
  • キャッシュレスが使えない場面として、個人経営の飲食店、理美容室、クリーニング店、病院など。
  • 完全にキャッシュレスで生活できるとは考えておらず、74%の人は現金も持ち歩いている
  • キャッシュレスが不安のため、22%の人は使わなかったことがある
  • ポイント/割引がきっかけで使い始めて、それが習慣化することが多い
  • 手数料負担が店舗に悪いと感じる場合には現金を使う

最後の項目などは、客が店に対して配慮しているようで、いかにも日本人らしい感覚と思います。
さらに小売業の加盟店側を調査した結果では(対象1,031店):

  • キャッシュレス導入率は8割、しかし単体の決済手段では約6割にとどまる
  • 「売上増」や「レジ時間短縮」等の積極的な目的を持たずキャッシュレス決済を導入する店舗が多い(⇒逆に機会損失の回避や顧客からの要望が導入の動機上位になっている)
  • 客単価5,000円以下の店舗は導入が低調

別の調査結果によれば、事業者間の取引においても、日本の場合は現金取引が意外に多いのが特徴です。特に小規模なサービス業では7割以上が現金決済という状況です(※3)。

●経産省の目論見
経産省としては、この報告書の中で、次のようなキャッシュレスの導入の意義をまとめています。

  • 消費者の利便性向上
  • インフラコストの削減(現金を流通させるコストが減る)
  • 業務効率化/人手不足対応(販売や窓口作業の効率化)
  • 公衆衛生上の安心(非接触決済)
  • 不正や犯罪の抑止(現金の持ち歩きが不要)
  • 新しい未来(データ連携、多様な消費スタイル、脱炭素への貢献など)

いずれもなるほどと思われます。
私が実感したのは最初の項目でしたが、それだけでなく、現金を流通させるということ自体に、意外なコストがかかっていることにも気づかされました。
経産省は2025年4割達成、さらに将来的には8割を目指して、推進策を加速させるものと予想します。2025年大阪・関西万博では、会場内での決済が全てキャッシュレスになることが正式発表されています(4月6日、日本国際博覧会協会※4)。

●現金の意義
おそらく上のようなメリットが得られれば、十分豊かな社会生活になるでしょうし、社会的にも効率的になります。そこから新しいビジネスのきっかけも生まれそうです。
しかし、キャッシュレスによって便利になった分、個人の消費行動がデジタル化されて、すべて(誰かに)捕捉されます。
それが嫌だという場合には、現金の登場です。現金が持つ「匿名性」の意義はまだ残りそうです。

見知らぬ土地に行く際に、あらゆるキャッシュレス手段を持った上で、さらに現金も用意しているのは、我ながらいささか過剰で滑稽な姿です。■

※1 経産省「キャッシュレス・ビジョン」(2018年4月) https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180411002_01.pdf
※2 経産省「キャッシュレスの将来像に関する検討会 とりまとめ」(2023年3月20日) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cashless_future/pdf/20230320_1.pdf
※3 中小企業庁「小規模企業白書2021」第1-1-92図:受取代金の手形割合 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/shokibo/00sHakusyo_zentai.pdf
※4 日本国際博覧会協会プレスリリース(2023年4月6日) https://www.expo2025.or.jp/news/news-20230406-01/

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