安心のためのネットワーク

(2023.03.29)
日本では自然災害や事故などによって、一気に都市生活の歯車が狂ってしまうことが多いと思われます。ちょっとした電車の遅れによって、ホームに人があふれる光景はそれほど珍しくありません。
そうしたときに、スマートホンが使えなくなったら・・・・。
通信が途絶したとたんに、ものすごい不安感に襲われることになりそうです。

●通信ネットワークに何を期待しているか。
もちろんSNSやWebの情報をいち早く知ることができて、便利です。仕事もすばやくこなすことができます。
しかし、なにより求めているのは、”つながっている”という安心感ではないかと思います。何か事が起きても、スマートホンさえあれば落ち着ける、誰かに必ず連絡できる、という安心感です。
通信が切れても、いきなり大事故に直接つながることは稀でしょう。しかし人の不安な心理が思わぬパニックを起こすことはあり得ます。狭い場所に多くの人が殺到したり、デマで混乱が起きたりすることは、過去によく起きている現象です。
鉄道の運行システムや、道路の信号システムは「安全」を約束する役割があります。
かたや、通信システムは安全だけでなく、「安心」も保つ役割があるだろうと思います。

●事故検証会議
3月27日に総務省の「電気通信事故検証会議」第12回が開催されました(※1)。
今回の電気通信事故検証会議はこの1年間に発生した、重大インシデントを調査・分析して、構造的な問題を明らかにしようとしたものです。対象となった事案は2022年7月から12月にかけて、立て続けて発生した5件です。この中には、2,000万人以上が通信できなくなったような案件もありました。
総務省としても、こうたびたび通信事故が起きた事態を見過ごすことができず、根本的な問題抽出を検証会議に委ねました。
「通信事故の背景にある電気通信事業者に共通する構造的問題とその対応策について検討を行う」のが、この検討会の目的です。

●よくある話し
この5件の発生原因は、「人為的ミス」2件、「設備故障」3件となっています。
今回の検証会議は、これらの原因の背景にある、より根深い問題を探るため、8つの観点から調査しました。
細かい点は省きますが、結果は次のようになりました。
 ①それぞれの通信会社の内部監査は実施されているが、外部監査はあまりおこなわれていない
 ②リスクの洗い出しについて、各社バラバラにおこなっていて、レベルが不揃い
 ③予備系への切り換えに失敗する事態になったときの、影響評価や訓練が十分でない
 ④著しい高負荷時の検証が不十分だが、現行制度では義務化していない
 ⑤稼働済みの設備について、ログファイルのパンク対策などに課題
 ⑥事故対応の定期訓練は制度上、義務化されていない
 ⑦ヒューマンエラー防止対策は制度上、義務化されていない
 ⑧通信事故発生時の周知広報のしかたに課題
なるほど、と感じる項目ばかりです。たとえば③の予備系への切り換え失敗は、銀行システムでも何度も発生しています。ITの保守技術者から見るとむしろ鬼門というくらい危険な部分かもしれません。

●自主点検がない?
少し驚いたのは、社会インフラを支える電気、ガス、銀行の分野では、定期的な自主点検をおこなう制度が定まっているのに対して、通信にはそれがないということでした。高負荷時の検証やヒューマンエラー防止も義務化されていません。
昔は電電公社(現NTT)が電話網を一元管理していましたが、交換機含めて、今よりずっと簡単な仕組みだったのだろうと思います。
しかし現在は、有線と無線、加入者数も桁違いに多くなっています。通信サービス加入契約数をみると、2000年に5千万件→2020年には2億8千万件に増加しています(※2)。いったん混乱が生じた場合に波及する影響は、広域化するだけでなく、複雑化します。それがほんのわずかな機器の設定ミスから発生する可能性があるわけです。もし、そこにウイルスその他の意図した狙いが仕込まれていたら・・・・。通信業者の努力だけに委ねていて大丈夫でしょうか。■

※1 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/tsuushin_jiko_kenshou/02kiban05_04000591.html
※2 情報通信白書令和3年版 図表0-1-2-3「通信サービス加入契約数の推移」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/image/n0102030.png

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