下り坂の先にあるもの

(2025.02.04)
2025年1月31日に経済産業省にて「第1回 高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」[1]が開催されました。ヘルスケア産業課が担当しています。
介護というと厚生労働省を思い浮かべますが、この検討会は介護関連ビジネスの「戦略」を議論する場です。中立的な議論を進めるために、会は原則として非公開です。

●ビジネスとしての見方
介護・高齢者福祉には主に厚生労働省の政策[2]が関わっていますが、福祉サービスの維持のために、税金や保険金をどのように回していくかという考えが根本にあります。
一方、経済産業省では介護・高齢者福祉をビジネスとして成立させるための支援政策を議論します。それはこの分野において、民間事業者が福祉事業を拡げて、雇用を増やし、経済活動をさかんにすることを狙っています。

●介護・高齢者福祉の課題
議論の背景については資料[3]の4ページ目に手際よくまとめられています。
問題の一つは家族の介護のために、自分の仕事を減らしたり、離職したりする点です。それによって家庭収入が減ってしまうだけでなく、社会的に労働力が失われることになります。
もう一つの大きな問題は過疎地域における介護サービスの存続です。高齢者が増えるのに、それを支える介護人材が少ないという現状があります。
経産省の政策としては、これらの問題に対して、
・介護需要の新たな受け皿整備(介護保険外サービスの振興)
・企業における両立支援の充実
・介護に関する社会機運醸成の推進
の3方面から取り組もうとしています。

この検討会ではまずは「地域」に目を向けて、
(論点1)中山間~大都市の区分ごとに特徴をつかむ
(論点2)地域ごとに成立しうるビジネスモデルを検討する
(論点3)地域ごとに固有な課題、共通の課題を洗い出す
というポイントで議論する方針です。

●地域の資源充実度
論点1にかかわる情報として、表1のように示されています。
もともと中山間地域では在宅介護事業所の数が少ないのですが、すでに需要のピークが過ぎて、2040年頃には事業所数は減少するとみられています。
逆に大都市地域では在宅介護の需要ピークは2045年頃となり、それまでは事業所数は増加するとみられます。
これを考えると、今後、中山間地域と大都市では介護サービス事業所の数に大きな差ができそうです。

表1. 2040年までの変遷をふまえた地域分類([3]より引用)

このような介護サービスの事業所は地域の「資源」ともいえます。
同様に食料品店や病院などもそのような資源です。住んでいる人がそれらの資源にどのくらいアクセスしやすいかを「資源充足度」として測ります。
この資料では、在住の在宅高齢者数を分母に置き、そのうちで資源にアクセスできる在宅高齢者数の割合と定義しています。在宅高齢者は75歳以上で要介護3以上の人を除いた人を指します。つまり、なんとか自立して生活している後期高齢者を対象とします。
また「アクセス」とは各町丁字の代表点から半径500m以内の範囲を指します。
つまり充足度100%ならば在宅高齢者全員が住居から徒歩圏内でアクセスできるということです。

表2では買物拠点を対象とした場合の充足率をまとめています。
中山間地域だけでなく、一般都市においても、いわゆる買物難民が多くいるということになります。
ただし充足度が高い地域であっても、細かくみると市町村内で人口の疎密があることに注意が必要です。

表2. 地域資源充足率を加味した地域分布([3]より引用)

●下り坂におけるビジネス
成年になるまでの子供の期間を上り坂の時代というならば、高齢者になってからはさしずめ「下り坂」の時代といえます。
上り坂の時代は体力や知識も増加しますし、なにより18年(あるいは20年)という期間が決まっています。したがって人生の設計もしやすい面があります。
それに対して下り坂の時代は体力・知力とも衰えていくだけでなく、期間が決まっていません。人生百年と考えると60歳から40年間もの幅があります。この下り坂時代の設計は人によって大きく変わってくるでしょう。
そして、住む場所、家族構成、財産等々に応じた高齢者向けビジネスは、多種多様になってくるでしょう。

実際にビジネスを展開するためには、さまざまな問題が山積していますが、国が政策として支援できることをこの検討会で整理していくことになります。

下り坂にさしかかった者は、まず知力・体力を保っている間に自分自身の生活を整理しておくことが大事でしょうね。■

[1] 経済産業省 第1回 高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/elder_care/001.html
[2] 厚生労働省 介護・高齢者福祉 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html
[3] 資料4 事務局資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/elder_care/pdf/001_04_00.pdf

Follow me!