中小企業の課題を考える
(2024.06.28)
6月14日に、中小企業政策審議会第39回が開催され、その討議資料が公開されました。
(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/039/039.html)
そもそもこの審議会は「中小企業基本法」に規定されていて、国が推進すべき中小企業向けの施策について、経済産業大臣らからの諮問に答えることが主たる仕事です。経産大臣から毎年度の中小企業施策案に対して意見を求めるのが諮問の定式となっています。
審議会の委員は現在18名で、学識経験者、知事、労組代表、業界団体代表等、日本の中小企業の現状をよく知っている方々の名前が連なっています。
中小企業 | 大企業 | ||
企業数 | 336万社(99.7%) | 1万社(0.3%) | 2021年時点 |
従業者数 | 3,309万人(69.7%) | 1,438万人(30.3%) | 2021年時点 |
売上高 | 680兆円(47.3%) | 757兆円(52.7%) | 2020年時点 |
(中小企業白書2023による)
●今年のお題
事務局から出されている今年のお題には、「少子高齢化」、「経営者の高齢化・後継者不足」、「人手不足」、「賃上げ」、「原材料・エネルギー価格の上昇」、「円安」、「日銀の金利政策」、「DX」、「カーボンニュートラル・GX」が列挙されていて、それらに対して中小企業の経営はどうあるべきか、政策をいかに評価すべきか、を論議することになっています。
●日本を支える中小企業
非一次産業(すなわち第二次・第三次産業)の統計数値を見ると、中小企業の位置づけがよくわかります(表参照)。3千万人以上を中小企業が雇用していますから、中小企業に対する政策が日本の経済に及ぼす影響はきわめて大きいわけです。
●課題の分類
審議会のお題を見ても、日本が抱える難題ばかりです。同様の議論は他の省庁でも繰り返されていますが、巨大な氷山を前にして立ち尽くしているのが実状です。
真正面からすべて見ようとしても無理ですから、ここでは大きくグループ分けをしておこうと思います。
第一は為替、金利、原材料価格など中小企業にとっての外部環境の問題です。これらはこれまでも企業がなんとか努力して対応してきた話が多いので、企業経営者のこれまでの経験が生かせそうです。ただし、賃上げを含めて、この30年間にはなかった規模の変動が生じていますので、決して簡単にすむ話ではありませんが。
第二はGXとかDXなど技術的な話です。これらは環境問題とか生産性向上に対応するもので、いずれ企業の競争力につながる話です。緊急ではないが、企業の将来に関わる課題です。これらに対しては、経営者の長期的な構想が求められます。
第三は人材獲得や事業承継の話です。特に人材確保は中小企業にとって重要で、それに失敗して人手不足倒産に至るケースも見られます。資金不足対策と同様の対応スピードが求められます。
第一の課題群に対しては、企業努力は当然のことながら、運転資金の確保のために金融機関の協力もおこなわれていることでしょう。ある意味では、問題の構造や対処方法についてはよく知られている。
第二、第三の課題群については国のさまざまな補助金制度が強化されているところです。それらの政策が効果を上げているか、見落としがないかを吟味する必要があります。
●データが示すもの
審議会の配布資料を見ると、いろいろ興味深い情報が得られます。
まず中小企業庁から出された参考資料には、お題に関わるいくつかの統計グラフが示されています。これらから日本が抱える問題の大きさがあらためて感じられます。若い世代の人たちがこれらの図を見ると、絶望感に押しつぶされるのではないかと心配です。
たとえば地方と三大都市圏の対比を見ると、高度成長期の頃は地方もGDPの成長率に大きな役割を果たしてきたものの、この30年ほどは地方の割合が減っています。製造業についてはまだ地方も頑張っているようですが、小売・サービス業はじょじょに割合が減っています。人を相手にする小売・サービス業では、地方の人口減少が直接影響していると見られます。
特殊出生率の都道府県別グラフも示唆するものが多い図です。東京都は1を切っていることから、すでに東京は働くことに特化した地域であると認識されます(2023年6月19日のブログ参照)。この1年でさらに東京の住宅費は高くなり、もはや子育て世代が都内に住むのは困難になりつつあります。(都は子育て支援の施策を強化していますが、狙いがずれている感があります。)
その他、経営者の高齢化、人手不足、生産性の伸び悩み等に関する参考データがまとめられています。
●委員の意見
・働き方(自由~企業勤務)と利益追求(経済的利益~社会的利益)の2軸から計4パターンの社会像を想定して、それぞれのシナリオを描いてみた。それぞれ課題や対策が異なる。
・地域から女性が流出していることが問題。中小企業こそ柔軟な働き方を提示できるはず。
・中堅社員は残業代を稼ぎたいのが本音。働き方改革の実行タイミングが悪い。また輸出で稼ぐという考え方は時代錯誤。
・経営デザインシート等を使って、経営者自身の意識を整理する必要がある。
・中小企業の生産性については企業の規模にかかわらず、事業者間の異質性が大きいこと、設備投資にはソフトウェア等のDX関連投資も含めて推進すべきこと、さらに人への投資も重視すべき。
・中小企業では無理な賃上げではなく、働きやすさや働きがいといった側面で特長を出すべきではないか。
・地域における女性の活躍とテレワークによる働き方の相乗作用で考えてみてはどうか。
等々。
●これからの取組み
これらの委員の方々の意見によれば、中小企業における生産性向上や人材確保といった課題に対しては、まだいろいろな手を打てる印象です。
経営者の長期的かつ強力なリーダーシップはもちろん必要ですが、若い人たちの新鮮な発想をより多く取り入れることによって、企業がずいぶん若返る気がします。すべてのお題を解決できなくても、どこか最初の糸口を見つけることが肝要です。
■ブログ再開■
1年前から休載していましたが、ようやく再開することにしました。予定より遅くなってしまいました。
記載のしかたはこれまでと同様に、政府広報から話題を拾い、コメントを付けるという形にします。これまでのように連日投稿ではなく、少し落ち着いて書いてゆこうかと思います。
それで面白いものに仕上がるかどうかは腕しだいということになりますが、素人芸を生ぬるく見守っていただきたい。