転ばぬ先の杖(その1)

(2026.01.24)
保険というものは「転ばぬ先の杖」によく例えられます。
どういう所で転びやすいか、転んだときに杖はどう役に立つかについてよく見ておく必要があります。
会社に勤務している人が、職場や通勤途中でケガをしたら、「労働災害(労災)」となります。
労災に対する杖として労災保険があります。
そういう目に遭うことはめったにないので、たいていの人は労災がどのようなものか、あまり気にしないで過ごしているのではないかと思います。
さらに一人で自営業を営んでいる人にとっては、労災保険は自分には無関係な存在のように感じることでしょう。
身の回りにはたしかに存在しているものですが、一般人がそれを意識することが少ない「労災保険」について、少し変化が見られ始めました。
1月14日に厚生労働省から、労働政策審議会建議「労災保険制度の見直しについて」が公表されましたので、この労災保険について2回にわけて書いてみようと思います。
●労災保険とは
労働災害とは図1のように、職場で発生したもの(業務災害)と通勤途中で発生したもの(通勤災害)が対象となります。最近では複数の異なる職場で働いている場合(複数業務要因災害)も対象に加わりました。
労災保険の仕組みに関わる関係者をまとめたものが図2です。
また労災が発生した後の保険適用の流れを図3が示しています。
そもそも労災保険(正式には労働者災害補償保険)の歴史は1947年に遡ります。
それ以降、社会の変化に合わせて保険内容や適用範囲がじょじょに拡大されてきました。



●どのような補償が得られるか
・負傷や疾病の場合には、療養(補償)等給付、休業(補償)等給付
・療養開始後1.5年たっても治ゆしないで傷病等級に該当する場合、傷病(補償)等年金
・不幸にして亡くなった場合には遺族(補償)等給付、
・治ゆしたが症状が固定してしまった場合には障害(補償)等給付
といった形で被災者に補償がおこなわれます。
●事業主にとっての労災保険
「雇用保険」と「労災保険」を合わせて「労働保険」とよばれますが、両者には若干の違いがあります。
雇用保険は事業主と労働者(雇用者)はそれぞれ保険料を負担します。
しかし労災保険は事業主のみが負担する形になっています。
「労働保険」は1人でも雇用していれば”強制加入”となります。さらにそのうち労災保険では雇用者の雇用形態や勤務日数・時間を問いません。
労災が発生した場合、労働基準法により事業主は補償責任を負うことになります。しかし、事業主が労災保険に加入していれば、労働基準法上の補償責任が免除され、代わりに労災保険の給付が行われます。
もちろん、その際には事業主は労働基準監督署で労災の認定をしてもらう必要があり、正しい報告をしなかった場合には刑事責任が生じます。
事業主が負担する労災保険料は(すべての雇用者に支払った賃金の総額)×保険料率で決められますが、保険料率は事業の種類によって細かく規定されています。
たとえば林業では5.2%、農業では1.3%、化学工業0.45%といった差があります[4]。
●メリット制
さらに過去の労災発生率に応じて保険料率をプラス/マイナス40%の範囲で変動させる「メリット制」があります。これが適用された場合、労災を発生させた事業主の保険料率は若干上がることになります。(逆に発生がなければ保険料率は下がる。)
さらに厚労省が定めた安全・衛生対策を講じた企業は「特例メリット制」を申告して、プラス/マイナス45%まで幅を拡大することもできます。
●労災保険の現状
労災保険の規模をまとめたものが図4です。この図は2022年度の決算に基づいたものです。
労災保険の適用労働者数が増加している点は喜ばしいですが、同時に新規受給者(つまり被災者)も増加していることは課題といえます。

また上に説明したメリット制については(2023年度決算[5]にもとづく)、次のような数値になっています。
・メリット制適用事業場:83,275(労災保険適用事業場の3.6%)
・労災保険料を引き下げた/据え置いた事業場比率:78.2%
・〃 を引き上げた事業場比率:21.8%
厚労省としては労災発生を抑制するために、労働者と事業者の両方に向けて統計データや労災事例などの情報を発信しています[6]。
ここまで現在の労災保険の状況を簡単に眺めてみました。
次回は厚労省の検討部会でどのような議論が進んでいるかを見ることにします。■
[1] 厚生労働省、他「請求(申請)のできる保険給付等 ~全ての被災労働者・ご遺族が必要な保険給付等を確実に受けられるために~」 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001535807.pdf
[2] 第1回労災保険制度の在り方に関する研究会(2024年12月24日)資料1 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001361586.pdf
[3] 厚生労働省、他「労災保険給付の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001593398.pdf
[4] 「労働保険の成立手続はおすみですか」参考2(労災保険率表) https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/2020/dl/040330-2b-09.pdf
[5] 厚生労働省「令和5年度労働者災害補償保険事業年報」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/hoken-jigyo/gaiyou/r05_nenpou.html
[6] 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00.html
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