中小企業白書
(2023.05.03)
4月28日に経産省から2023年版中小企業白書・小規模企業白書が公表されました。
(https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230428003/20230428003.html)
この二つの白書はいずれも法律によって、政府から国会へ提出が義務づけられている法定白書とよばれるものです。
基本的に白書の類は、国民にわかりやすく政策の現状を伝えるためのもので、かなり平易な書き方になっています(もちろんある程度の背景知識を持っていないと理解しづらい部分はあるかもしれません)。
また両白書の記述にはアンケート調査結果の分析が多用されていますので、グラフの見方に慣れておくとよいでしょう。
めんどうと思う人は、白書の文章を読まなくても、解説のYoutubeをざっと視聴するだけでもよいと思います。
(https://www.youtube.com/watch?v=Z-UKsTtb_ZU)
●そもそも中小企業とは
中小企業と小規模企業の法律上の定義は下記の図の通りです(白書より引用)。
企業の数でいえば、わが国の企業のほとんど(99.7%)は中小企業・小規模企業です。従業員数でいえば、約70%、付加価値額では約53%を占めます。
二つの白書はどちらも2部構成になっていて、第1部は中小企業と小規模企業の動向説明です。なお、この第1部は中小企業白書と小規模企業白書で共通した記述になっています。
第2部はその中からどのように成長しようとしているかの分析と提言になっています。第2部の記述は中小企業白書と小規模企業白書とで異なります。
読み手としては第2部を早く読みたいところですが、その前に現状を第1部で概観しておいたほうがよいと思われます。
●第1部(共通)
- だんだんCOVID-19以前の水準の業況に戻りつつあるが、まだ宿泊や交通など業種によって厳しい状況が続いている。
- 特に物価高騰による収益減少、人手不足の二つが深刻である。
- デジタル化や事業再構築に取り組む中小企業の割合が増えている。またカーボンニュートラルの動きを好機ととらえて、イノベーションに取り組む企業が存在する。
- 中小企業において価格転嫁と賃上げは一定の関係があり、価格転嫁が重要となる。また地方の若者や女性が稼げる仕事と豊かな暮らしを得られるような施策が大切である。
- 革新的なイノベーション活動に取り組んでいる企業においては、競合との差別化や販路拡大といった効果を得ている。
●「中小企業白書」の第2部
- 価値創出のための「戦略」と、その構想と実行者である「経営者」に注目。戦略については、競合他社と異なる価値創出による差別化が企業成長につながること、経営者については、外部ブレイヤーの存在や、経営者仲間との積極的な交流が重要としています。分析データは「中小企業の新たな担い手の創出及び成長に向けたマネジメントと企業行動に関する調査研究」(2022年)にもとづいています。
- 事業承継とM&Aについては、経営者の世代交代を通じた企業変革の好機ととらえています。後継者のうち、先代から意思決定を任されているほど新しい挑戦をする傾向があることなどが示されています。
●「小規模企業白書」の第2部
- 地域の社会課題解決を事業の一環として取り組もうとする事業者が増えています。持続的に進めるために、収支の確保や円滑な資金調達が必要とされます。
- 事業の社会的意義(ソーシャルインパクト)を提示したりしている事業者は、黒字化の傾向が見られます。
- 地域課題解決では、事業者と自治体をつなぐ組織が重要な役割を果たすと考えられています。
- 地域の商店街は、コミュニティや人が集まる場所としての社会的機能が期待されています。
●中小企業・小規模企業の共通基盤
- 一層の価格転嫁が必要であり、価格交渉の促進や取引環境整備などが必要とされます。
- デジタル化対応については、目標の設定や業務の棚卸しなどを戦略的に実施している企業ほど進展しているようです。そこには必ずしも高度なデジタル化人材が不在でも可能とのことです。
- 中小企業を支援する機関は各地にありますが、その支援件数や対応する経営課題に違いが見られます。全国展開している「経営力再構築伴走支援」もノウハウの共有や相談員の能力向上が必要とされます。
●白書の目玉は「事例集」
第1部、第2部それぞれの分析や提言は読みごたえがあります。しかし一番印象に残るのは事例集ではないかと思います。
中小企業白書、小規模企業白書のいずれも30事例近くを掲載しており、各企業がいろいろな面で工夫や努力をおこなっている話がわかります。
抽象的な一般論で書かれた事柄を読むことは、手短に勉強できるという意味で合理性があります。しかし、他社の経験を自分ごととして咀嚼して、吸収するほうがおそらく記憶に残りやすいでしょう。自分の会社ならばどうするだろうか、と想像してみることも易しいでしょう。
たとえば、長野県のD社は、法令などの専門出版社でしたが、出版不況によって経営危機に陥りました。そこで学術界の顧客に対応していた「TeX(テフ)」システムを自社の強みとして全面的に展開し、納期短縮や低価格化を実現しました。その結果、新分野開拓が進み、利益率も向上したとのことです。
また香川県のM社は高専生が起業したスタートアップです。社長が在学中に送電線点検用にロボットとAIによる異常検知システムを開発し、全国コンテストで準優勝した実績があります。それを基に地元自治体などの後押しで会社設立に至りました。この点検システムはすでに何社かに導入されて、点検作業の大幅効率化に貢献しています。
こういう具体的な事例を読むことによって、少しの工夫、努力、そして周囲の協力によって、新しい展開が生まれることが理解できます。そして少し元気になれます。■