友好のSEED

(2025.10.05)
 Seedというと「種」という訳をすぐ思い出します。将来に向けて、何か大切なものを育ててゆこうという気持ちを感じます。
 ここでのSeedはもっと硬い略語のようですが、気持ちは「タネ」でしょう。

 外務省から10月1日に「日米交流の促進・相互理解の増進のためのプロジェクト(Student Educational Exchange and Dialogue(SEED)project)の実施(結果)」が公表されました。
 内容は9月20日、21日に山口県岩国飛行場内のM.C.ペリー・ハイスクールにてSEEDの催しが開催されたという記事です。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_02792.html

●在日米軍と地元との交流
 発表の概要には次のように書かれています[1]。
 在日米軍施設・区域が所在する地域において、地元の日本人の中高生と在日米軍関係者の子息である米国人の中高生が、文化・教育交流を通じて相互理解を深めるとともに、国際社会で活躍する人材を育成することを目的としています。
 今般開催された岩国飛行場での事業には、日米の中学・高校生約35名が参加しました。
 具体的には9月20日(土)に、学生たちは6つのグループに分かれ、自国の文化を紹介し合い、英語及び日本語でプレゼンテーション等を行いました。
 翌9月21日(日)には、学生たちは、錦帯橋を訪れ、その歴史や伝統的な建築構造について学びました。岩国飛行場に戻った後、錦帯橋をPRするためのキャッチフレーズについてグループで考え、英語と日本語でプレゼンテーションを行いました(図1)。

図1. 岩国基地におけるSEEDの光景([1]より引用)

 2020年から毎年開催されているこの催しは、当初は「日米交流事業」という素っ気ない名称でしたが、2023年から”更なる日米交流が開花するきっかけとなるよう、いわば「種」を与えられるように、という思いから”、SEEDと名付けられました[2]。

 親の日本赴任に伴って来日した若者が、地元と交流して、日本の良き思い出を持って母国に帰国してほしいと願います。逆に日本の若者にとっても、普通の米国の若者がどのような生活と考え方をしているかを直接知る機会となるでしょう。
 岩国では、基地内にあるメリーランド大学のキャンパスに日本人も入学できる制度があったり、岩国市内の高校生十数名をワシントン州でのホームステイに派遣したりする事業がおこなわれています。基地とのつきあいを糸口として、地域の国際化と人材育成を進めようという姿勢です。

●在日米軍基地の現状
 このような交流事業は日米間の友好にたいへん貢献していると思う反面、特定の地域に大きな負荷をかけていることを多少気にしなくてはなりません。

 現在、日本には在日米軍基地が数多く存在します。[3]の資料によれば、米軍の専用施設は76個所、面積は262km2です。さらに自衛隊等との共同利用施設を含めると130個所、面積980km2に及びます(2025年1月時点)。
 意外な感じがしますが、東京都にも横田基地はじめ7個所の米軍基地があり、その面積は東京ドーム340個分に相当します[4]。

 専用施設のうち7割の面積が沖縄県に集中していて、これは沖縄県全体の面積の8%に相当します。在日米軍基地に関するいろいろな集計表では、沖縄県だけ別枠で数値が集計されています。それだけ特別な地域ということです(図2)。

図2. 在日米軍施設・区域(専用施設)都道府県別面積([3]より筆者作成

●基地と市政
 軍事基地というとまず負の側面が注目されます。
 東京都の資料には基地問題が手際よくまとめられています[4]。騒音、事故、環境汚染、軍人による犯罪等です。
 なにより米軍基地の土地と米国軍人には日米地位協定によって日本の法律が適用されないため、いろいろな問題がすみやかに解決できない原因とされます。
 基地を抱える他の地域でもやはり同様だろうと思います。

 正の側面を見ると、岩国市の場合には岩国基地が存在することによる経済的効果は390億円(2014年当時)と試算されています[5]。現在、市の年間予算が1,200億円程度の規模ですから、約400億円の基地の存在はたいへん大きいでしょう。
 そのため岩国市では在日米軍基地の存在を正面からとらえた200ページにわたる詳細な資料を公開しています[6]。これを読めば市にとってのメリット、デメリットも把握できるといえます。

 平和主義の視点からは軍事基地は存在しないほうがよいに決まっていますが、現実を考えるともはや基地なくしては地域が存続できないというのが現実です。

●米国と日本の接点
 在日米軍基地は米国と日本の国のちょうど接点にあたります。米国と日本の制度の違いが直接現れる地点という意味です。
 今(10月初旬)の時点で、米国の政府予算が切れて、国の活動が止まっています。そのため米軍基地における日米の友好プログラムの多くは中止となっています。
 はたして戦争をやっている最中に予算が切れたら弾を打つのを止めるのかどうか。日本人には悪い冗談としか感じられませんが、ともかく米国の流儀ではそうなります。

 在日米軍基地に関する情報を集めていたときに、検索結果のまっさきに”安保破棄○○委員会”が必ず出てくるので、その情報収集の熱意に敬服しました。■

[1] 外務省報道発表「日米交流の促進・相互理解の増進のためのプロジェクト」(2025年10月1日) https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_02792.html
[2] 小野外務報道官会見記録(2023年8月30日) https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken22_000083.html
[3] 防衛省・自衛隊「土地の返還及び施設の共同使用等」https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/us_sisetsu/
[4] 東京都都市整備局「米軍基地対策」 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kichitaisaku
[5] 山口県議会(2016年3月2日)の総務部理事答弁
https://ssp.kaigiroku.net/tenant/prefyamaguchi/MinuteView.html?council_id=115&schedule_id=4&minute_id=45&tab=list
[6] 岩国市「基地と岩国」令和6年版 https://www.city.iwakuni.lg.jp/uploaded/attachment/57632.pdf

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