企業の通知表
(2023.03.31)
学校の期末になるたびに、生徒一人一人は成績通知表を先生から受取り、家に持ち帰っていました。私の世代などは、成績は5段階の相対評価が付いていました。今の通知表は、絶対評価で、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点から見ることになっているそうです。しかし、形は変わっても、生徒にとっては通知表に何を書かれているかが一番の関心であり、心配でもあります。保護者に見せて、困ったことになりはしないか。
株式を上場している企業も同様です。企業の場合は先生が付けた通知表ではなく、年1回の有価証券取引報告書あるいは決算公告という自己評価です。ただし財務情報の集計結果なので、ごまかしができません。それは、保護者どころか、金融庁を通じて全世界にさらされてしまいます(注1)。最近では3カ月ごとに4半期決算の報告を公表している企業も増えています。まさしく学期末の成績表です。
最近はそれだけでなく、「非財務情報」の開示も積極的におこなう必要に迫られています。
それは企業が社会の中で果たす役割がどんどん拡がっているためです。利益追求だけではダメで、品行方正な「模範生」になることを求められています。
たとえば地球温暖化問題などの環境対策,人的資本(従業員など)の状況,企業の経営の仕組み(ガバナンス体制)といったESGの考え方が根本にあります。投資家、株主は、その企業が今の利益を生み出すだけでなく、将来にわたって社会の中で成長し続けてもらうことを期待しているためです。そして、そのような模範生には、新たに投資しようとする人も増えていきます。
しかし「非財務情報」はこれまで決まった書き方がなく、各社バラバラに公表していました。しかしそれでは投資家にとって、企業の比較がしにくいため、金融審議会(金融庁)では有価証券取引報告書の中に、「サステナビリティ情報」、「人材育成方針」、「社内環境整備方針」、「男女間賃金格差」、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」などの情報を追加するように提言しています(※2)。
これまで、有価証券取引報告書のとりまとめは、もっぱら会社の財務部門が担当していましたが、もはやそれでは追いつかず、経営企画部門、人事部門、広報部門などが総出で対応しなければ書けなくなってきました。まさに企業の全体成績表です。
さて、程度によるでしょうが、通知表の評価など気にしない悪童のほうが、何か新しいことをやらかしそうな気が若干します。■
※1 Electronic Disclosure for Investors' NETwork (EDINET) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WEEK0010.aspx
※2 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年6月13日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220613/01.pdf