旅行と観光(2)~いくら使ったか~

(2025.03.08)
前回の「宿泊旅行統計調査」の速報公表に先立つ2月19日に、「旅行・観光消費動向調査 2024年年間値及び2024年10-12月期(速報)」が公表されています[1]ので、今回はこちらを取り上げてみます。
この調査はインバウンド需要は含まず、日本人のみを対象としています。

◆旅行費用の内訳
旅行・観光消費動向調査は日本国内居住者の住民基本台帳をもとに無作為に抽出した約2万6000人を対象として、年4回の郵送調査によって実施されています。
この調査では1人1回当たり旅行支出(旅行単価)として、
・参加費
・交通費
・宿泊費
・飲食費
・買物代
・娯楽等サービス費等
を調べています。
また、旅行の目的として、
・「観光・レクリエーション」
・「帰省・知人訪問等」
・「出張・業務」
を尋ねているので、これらの目的分類ごとに数値を見る必要があります。

この統計調査から、年代別、出発地・行き先別、職業別等々の細かい区分で分析することができますので、観光に関わる民間業者や地方公共団体の人たちの関心は高いと思います。

◆旅行はけっこう大きな産業
旅行・観光消費動向調査[2]によれば、日本人の国内旅行消費額は25兆1,175億円となっています。
2024年の国内総生産(GDP)は609.3兆円(名目)[3]ですから、国内旅行の消費は4.1%程度の貢献といえます。

さてこの約4%という比率がどの程度の規模か、を調べてみると[4]、
・情報通信業(4.7%)
・運輸・郵便業(4.8%)
・金融・保険業(4.9%)
といった産業に匹敵します。

宿泊・飲食サービス業が単独で2.0%ですので、旅行にともなう交通費や土産物費の貢献もかなり大きいと見えます。

◆日本人はどのくらい消費したか

図1. 日本人の国内旅行消費額の推移([2]より引用)

図1は日本人の国内旅行消費額の推移(2015年~2024年速報)を示したものです。COVID-19によって大きく消費額が減少しましたが、金額全体としては2019年を越えるほど復活したといえます。特に宿泊旅行の消費額が大きく伸びています。

図2. 日本人国内延べ旅行者数の推移([2]から筆者作成)
図3. 日本人国内旅行の旅行単価の推移([2]から筆者作成)

図1の消費額全体を旅行者数で割り算すれば、旅行単価が求められます。
図2は日本人の国内旅行者数、図3は旅行単価(一人一回あたりの平均消費額)のそれぞれの推移を示しています。

ここから読み取れるのは、国内旅行者数は2019年と比較してそれほど増えていないのに、一人あたりの消費額(旅行単価)は大きく増えているということです。この理由として、個人の嗜好なのか、物価上昇が影響しているかはわかりません。

◆やはり気になる地域差
2024年の統計値はまだ確定していないため、都道府県別の集計表は1年前の2023年版[5]を見ることにします。
ここでは旅行の目的を「観光・レクリエーション」に絞ります。
そうすると図4のように都道府県別の差が見えます。
東京は観光目的で見ても相当の人を集めていることがわかります。しかし意外にも東京都の旅行単価は目立つほど大きくありません。
千葉県と大阪府の「娯楽等」(グラフの緑色部分)が抜きんでていますが、これはおそらく特定のレジャー施設が集客しているためと想像されます。
それにしても沖縄県があらゆる費目で額が大きいのが目につきます。

図4. 観光・レクリエーション目的の訪問者数(2023年)([5]より筆者作成)
図5. 観光・レクリエーション目的の費目別消費単価(2023年)([5]より筆者作成)

◆日本人は旅行好きか
旅行が危険をともなう一大事であった江戸時代に、「お蔭参り」の大流行によって数百万人が徒歩旅行にでかけたくらいの国民ですから、観光目的の旅行はすたれることはないでしょう。
振り返ると、高度経済成長の時代にはコストパフォーマンスのよい「団体旅行」が流行り、それによって各地の観光地の受入れ体制(宿泊施設、土産物)が整備されてゆきました。経済の停滞と人口減少の影響で、それらの古い仕組みが壊れて、「個人旅行」に姿を変えてゆきました。そしてこの十年は「インバウンド観光」によって海外からの客が一気に増えて、その圧力に各地の観光地は苦労しています。
常に需要と供給の波はズレますから、長い目で見ると観光地の繁盛と衰退が交互にやってきます。最近の熱海やニセコの復活を見ると興味深いです。

一ヶ所の観光地でも年間を通じると混雑と閑散の波が現れます。筆者もその波の合間をぬって、静かで安い旅行をしたいと願っているのですが、なかなかよい目的地が見つかりません。まずは地図を眺めながら机上旅行を愉しむことにします。■

[1] https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00031.html
[2] 旅行・観光消費動向調査・2024年年間値(速報) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001864688.pdf
[3] https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html (2025.03.01参照)
[4] 2023年度(令和5年度)国民経済計算年次推計-年次推計主要計数(記者公表資料の抜粋)-生産(産業別GDP等) https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2023/sankou/pdf/seisan_20241223.pdf
[5] 【参考】2023年年間 都道府県別集計表 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001761011.xlsx

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