潮目が変わった
(2023.05.21)
5月16日に経産省で「第15回産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」が開催されました。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/015.html)
この部会の話は、前回(3/17)の項目にも取り上げました。同様に、今後の産業政策について、いろいろな面から議論を進めてきましたが、そろそろ中間まとめをしようということになりました。「第2次中間整理」の骨子案が出され、それについて討議されました。
●潮目が変わった
現状認識としては、「失われた30年」からの「潮目の変化」が見えているといいます。外的要因も大きいでしょうが、ともかく”国内投資の増加”、”賃金の増加”、”新陳代謝”の傾向が見えます。
●新機軸
そこでこの潮目の変化を契機として、持続的成長に繋げる「期待の醸成」を仕掛けようとしています。
そこには、
- 成長するという「将来への期待」と、
- 危機感を持って構造転換に取り組むこと
を強調しています。
これらを新基軸としています。
”民のアニマルスピリッツに火をつける”などという少々大げさな言葉も出てきます。
昔は「追いつけ追い越せ」、今は「社会課題解決」と。
●テーマの再構成
昨年の議論を見直して、
ミッション志向産業政策8テーマ(※1)+OSの組替え5テーマ(※2)
に再構成をしました。
※1:GX、DX、経済安全保障、健康、レジリエンス、バイオものづくり、資源自律経済、地域の包摂的成長
※2:人材、スタートアップ・イノベーション、価値創造経営、日本社会のグローバル化、データ駆動型行政・EBPM
●個別施策のポイント
いくつか際立った個別施策の説明もあります。
スタートアップ支援策の中に、女性起業家のための支援パッケージも含まれています。
また最近、急に話題になってきた生成AIについての取組みも構想に入っています。
●気になること
会議資料の「参考資料集」には、議論の参考となるような多くの情報が入っています。
ざっと見て、少々気にかかる事柄がいくつかありました。
・経営者の意識
世界競争力ランキングをみると、統計項目のみで見ると日本は13位だが、企業経営者の回答に基づくアンケート項目で見ると順位が43位と低くなります。この乖離は国別ではダントツです。
なぜ日本の経営者のマインドはここまで悲観的、自己否定的なのか不思議です。現在の経営者は右肩下がりの経済しか知らないため、この30年間の刷り込みが大きいのかもしれません。
・設備投資
もう一つは、企業の意識調査によると「企業が設備投資をしない」理由は「先行きが見通せないため」という回答が最多だったという点です。たしかに手堅い考え方ではありますが、それでは成長ということをあきらめているのに等しいのではないでしょうか。投資をしないから停滞する、停滞しているから投資しない、となると永遠に抜け出せません。これでは30年間の停滞が起きても当然と思われます。
・労働生産性
三番目は、日本の労働生産性(時間当たりGDP)は外国と遜色なく伸びているが、実質賃金の伸びは低い、という点です。どこで賃金の伸びが抑えられているかが問題となるでしょう。そのせいか、最近では日本の人件費競争力が増加して、中国・韓国と肩を並べるというという状況です。安い日本、ということです。
また労働生産性の「伸び」は諸外国と同じくらいであっても、「労働生産性」の絶対値は依然低いままです(2020年時点で米国74.1ドル、日45.5ドル)。
●マインドの問題
経産省の新機軸部会の議論は、多分に「マインド改革」の色合いも強いと思われます。
しかしそれはそれでよいのではないと思います。マインドを変えるには元手はかかりません。■