暑い夏

(2025.09.30)
今年の夏はいちだんと暑かった気がします。
気象統計を持ち出すまでもなく、体感として6月から9月にかけた4ヶ月間は猛暑が続いた気がします。熱帯夜という言葉はすっかり日常的になり、情報量は減りました。(つまりこの言葉に目新しさはない。)
そういう短期的な気温の高さが、長期的な「地球温暖化」という範疇で語られるのはいささか踏み込みすぎの感がありますが、この言葉によって人の目を向けさせる一つの手段としては有効でしょう。
●昨年の「温暖化」
農林水産省は9月26日に「令和6年地球温暖化影響調査レポート」の公表について、を発表しました。
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/kankyo/250926.html
農林水産省では、「農林水産省気候変動適応計画」(令和5年8月改定)に基づく取組の一環として、各都道府県の協力を得て、地球温暖化の影響と考えられる農業生産現場での高温障害等の影響、その適応策等を取りまとめ、普及指導員や行政関係者の参考資料として公表しています。
それが今回の「影響調査レポート」[1]です。
●農業以外の記述は無し
「地球温暖化影響調査レポート」と銘打っていますが、農業・畜産分野に限定して収穫量に対してどのような影響が及んでいるかをまとめたものです。
もともとの「農林水産省気候変動適応計画」には農業・林業・水産業という3つの分野にわたって、現状と対策が具体的に書かれています。少なくともこの適用計画を立案する段階では、本省と水産庁は合同して作業していたはずですが、残念ながらこの調査レポートは別々に発表しているようです。
●水産分野への影響は「水産白書」を見よ
ちょうど水産庁は「令和6年度水産白書」(2025年6月)を出したばかりで、その中の特集として「海洋環境の変化による水産業への影響と対応」が報告されています。
毎年度、「影響調査レポート」は農業分野だけ記述して、水産分野については「水産白書」で記述するという分担になっているようです。
●気温の変化
昨年(2024年)一年間では、
年平均気温偏差は+1.48℃で、明治31年(1898年)の統計開始以降、令和5年(2023年)を上回り最も高い値となった。
夏に限った話では、
夏の平均気温偏差は+1.76℃で、統計を開始した明治31年(1898年)以降の夏として、令和5年(2023年)の記録と並び、1位タイだった。
とあり、とにかく暑かったということが事実として示されています。
長期的には100年当たり1.40℃の割合で上昇している。
という指摘もあります(図1)。

●2024年の調査結果
人間にとってもかなり厳しい気候だったわけですから、敏感な農作物に大きな影響があるのは当然です。
まっさきには「水稲」(いわゆるコメ)が取り上げれていて、「白未熟粒の発生」が全国で3~4割の地域、特に西日本で5~6割の地域となっています。かなり深刻といえるでしょう。
今のままでは今世紀末には現状の8割くらいの収量に減ると予想されています[2]。
続いて「りんご」では開花期の高温が影響して「着果不良」が全国の4~5割の地域、特に北日本で6~7割の地域となっています。
前回の調査レポート(令和5年版)もほぼ同様に水稲や果物への悪影響を述べていますが、今回(令和6年版)はいっそう具体的な数値を出した記述になっています。

●影響分析から対策へ
農林水産省としての役割は単に調査分析するだけでなく、具体的に農作物に対してどのような対策を立てるかを明示することです。
ともかく気温上昇が続くことを前提として、栽培する作物の種類を変えることを推奨しています。
「ぶどう」であれば、着色を気にしない「黄緑色系品種」を推奨するなど、分析と対策をセットで記述しています。
図2は米について、高温耐性品種への転換を進めている状況を示しています。

●長い目で見る
農業を取り巻く自然災害のリスクは多々あります。温暖化だけでなく、台風・雪・風水害もあります。いずれも農家の生産力を一気に低下させ、経営を危うくします。また農作物の価格高騰につながり、消費に悪影響が出ます。
だからといって外国産の農産物に依存しすぎることは経済安全保障の面でも問題があります。
国内の農業を持続可能とするためには根本的な考え方を変えていく必要がありそうです。
世界一美味しい米や果物を育成してきた日本の農家の工夫と努力はたいしたものです。このような資質を生かして農業を維持・発展させるために、「農業」と「工場経営」と「科学技術」が一体になって研究開発を進めるのが理想と思いますが、どうでしょう。■
[1] 「令和6年地球温暖化影響調査レポート」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-163.pdf
[2] 農研機構)西森「夏季高温の特徴と水稲作での影響の評価」、令和6年度興農会(2025年1月23日) https://www.naro.go.jp/laboratory/carc/contents/kounoukaikouen1_20250123.pdf?utm_source=chatgpt.com