テレワークのコスト
(2023.04.03)
日本でもテレワークという働き方はすっかり馴染みのあるものになりました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めた2020年初めから、出勤に代わる対応策として、各企業が競って導入しました。それから3年たち、COVID-19の状況が落ち着いてきた段階で、そろそろ元のようにオフィスに皆が集まって仕事をする光景が戻ってきたようです。
●実態調査の結果
3月31日に、国交省から「令和4年度のテレワーク人口実態調査結果」が公表されました。
(https://www.mlit.go.jp/report/press/toshi03_hh_000099.html)
テレワークの普及度合いを調査する第一段階調査と、その中からさらに居住地についての調査を第二段階調査として実施しました。
第一段階調査では、雇用されている人36,000人、自営の人4,000人の計4万人を調べました。第二段階調査では、その中から首都圏に住む6,000人を選出しています。
結果を抜粋すると、次のようになりました。
COVID-19が一段落したことを反映して、2021年度から2022年度のテレワーク実施率はやや低下したようです。
・雇用型テレワーカーの割合は26.1%で、昨年度から0.9ポイント減少
・自営型テレワーカーの割合は26.6%
・地域別に見ると、雇用型・自営型テレワーカーともに首都圏が多い、しかし首都圏の雇用型就業者のテレワーカーの割合は昨年度から2.5ポイント減少
・職種による違いは、営業職が最も減少(雇用型・自営型とも)
●さらに細かく見ると・・・
もう少し、細かく見ると、次のポイントが明らかになりました。数値は公表データですが、☆コメントは原田のものです。
(2-15項)テレワークをきっかけに実施したい活動は?
⇒雇用型のほうは家庭の事情(育児・子育て、介護等)への対応が29.4%、自営型は19.8%と大きな差がある
(3-1項)勤務地域別の勤務先におけるテレワークに対する方針は?
⇒雇用型で週1日以上のテレワークを認めているのは首都圏で31.4%、近畿圏・中京圏と下がり、地方都市圏では12.1%。
☆交通手段の差、通勤時間の差が影響しているのではないか。
(3-6項)勤務先のテレワーク普及のために必要な取組は?
⇒雇用型で「幹部の意識改革」が約23%で最も高い。次いで「設備・備品の貸与・補助」が約17%と多い。
⇒これをさらにテレワーク実施者と非実施者に分けると、「幹部の意識改革」が約34%に上がる。非実施者は約20%。
☆テレワーク実施者はさらにテレワーク推進を求めていると考えられる。
(4-12項)年齢別の地方移住に関する懸念は?
⇒20代以下は、30代以上よりも地方移住の懸念が少ない可能性がうかがえる
☆当然といえば当然。家族を持つと自由度は減る。
以上から全体として、次のように推測できるのではないでしょうか。
☆地方移転については、結局は地方での職業が見つかるかどうかにかかっている
☆首都圏の企業に勤めながらテレワークを希望するのは、現状のメリットを保持したまま、デメリット(通勤時間の長さ等)を減らす動機があるため。現状を根底から変化させる(転職、転居等)はやや腰が引ける。
●テレワークのコスト
テレワークを導入するにあたってのコストは、自宅で使用するためのパソコンやネットワーク環境の整備、セキュリティの確保、Web会議への習熟などがあります。常時、オフィスに人がいないために、時間的なロスや情報共有の手間も発生するでしょう。
また、テレワークを中止するコストもあります。それはいったんテレワーク環境に慣れた従業員が、それがなくなった時に感じるコストです。通勤に要する時間的・体力的ロスと、オフィスで働くことのメリットのバランスが崩れると、従業員の流出にもつながりかねません。
今回の実態調査によると、特に首都圏でのテレワークは従業員側のメリットが大きいようです。
●絶好の機会になるか
COVID-19を奇貨として、自分の組織内でDX(Digital Transformation)を推進する絶好の機会ではないかと思います。
今や「なぜテレワークなのか」ではなく、「なぜオフィスに出勤しなければならないのか」という問いを立てるべきと思います。この問いに対して、従業員も組織幹部も我が事として真剣に考え、討論できる気がします。
結果として、仕事の生産性が高まるだけでなく、働き方改革も同時に進めることができるのではないでしょうか。育児や介護の時間をうまく確保するとともに、仕事への集中度を高めることも可能でしょう。
テレワークを導入したのは、あくまでもCOVID-19への対応のためであり、それが過ぎれば、もうテレワークの必要性はない、と考えている企業は、まず2周くらい遅れていると見えます。
本質は生産性の向上でなければなりません。
テレワークを推進するにしても、中止するにしても、企業はそのコストを払うことを覚悟しておく必要があります。そのコストは生産性の向上によって回収できるものです。■