税制調査会
(2023.05.19)
5月15日に財務省にて第23回税制調査会が開催され、答申案が議論されました。
(https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2023/5zen23kai.html)
●経緯
元をたどると、2021年11月12日の第5回税制調査会にて、岸田首相から新しい資本主義を目指していくにあたり、あるべき税制の姿を諮問され、約1年間の討議を重ねました。その結果を答申案の形でまとめつつあります。
税制といってもたいへん幅広い議題ですので、今回のまとめはまだ調査・討議の入り口を示した段階のものです。2022年4月~11月にかけて外部の有識者からの意見を聴いてきた結果です。
●有識者の意見(抜粋)
- (労働政策について)退出企業の延命ではない形での雇用確保が重要。政府の役割は、職業訓練の効果の測定や、職を失った労働者がスムーズな移動が可能なシステムを作ること。
- (労働と税制について)働き方に中立な税制は重要。また、スキルは多面的であり、年長者は全体調整などで能力を発揮でき、色々な能力を組み合わせてチーム全体で生産性を向上させることが重要。
- (働き方に中立な社会保障について)企業を前提とした被用者保険ではなく、個人をベースにするという発想が重要で、個人のセーフティネットへの取り組み方を国がゼロから制度設計する必要。社会保障であれ税であれ、所得の捕捉は重要であり、マイナンバーカードも含めデジタル技術を活用していくべき。
- (退職金について)退職金は次のキャリアステップへの支援の意味合いが強くなってきている。徐々に退職金税制の優遇度を減らしていくという方向性が考えられる。
- (働き方について)長時間労働が国民の健康を害し、出生率を下げていることに鑑みて、「健康阻害税」のようなものが課される構造をつくることが経営者の意識変化につながる。
- (働き方改革や子育て支援の財源について)新たなコスト増を避けるためのイノベーションが起きやすいことから、企業に対する課税が適切。
- (兼業や副業の増加に対する事務処理について)今後、基礎控除への振替を積み重ねていくことに加え、デジタル化を推進して申告を容易にすることが一案。
- (価値観の世代差について)格差の拡大やデジタル化により、若い世代の多くは自分たちよりも上の世代や上の階層に憎悪やギャップを感じている。反面、同世代や似た階層とSNS等で緩く繋がり、互助や共助の精神で今後の難局を共に乗り越えようとしている可能性も。現在は、高齢者が互助、若年層が自助重視という傾向はあるが、今後混在していくと予想。
- (サイバー空間について)企業のボーダーレス化、勤務地の選択増加、メタバース内での経済活動の把握など、税務上の課題があるが、どのように対応すべきか。→ 所得の捕捉が難しくなるため、消費に着目して課税を行うことが適切。仮想空間は現実とのリンクを考えていくべき。
●国民が考えるべきこと
有識者の皆さんの意見は多彩で、それぞれもっともだと思います。
何より税金というものが、富の再分配の手段であり、その再配分の結果によって、一人一人が豊かで幸福な生活を送れるようになるとともに、国の富(物質的な価値だけでなく、文化など無形の資産も含めて)全体を大きくしていくという役割があります。その課税の公平性と、再配分の有効性の両方とも、国民が納得できるものでなければなりません。
今回の調査会でも、日本の社会構造が急激に変わりつつある中で、税金とその再配分をどういう仕組みに直していくか、というたいへん重要なことを議論しているわけです。
国民として、こういう議論をきちんと聴き、自ら考えるべきだろうと思います。
●付録が面白い
今回の資料の後半には付録が添付されています。2000年から2018年にかけて6件の基本的政策文書がまとめられています。2000年の「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」の内容は、”少子・高齢化と人口減少”はじめ、現在とほぼ同様の問題意識が書かれています。
これらの政策文書を並べて読むことによって、同じことをただ繰り返して述べているのか、少しずつ懸念材料が変化しているのか、いろいろ見ていくことができます。
たとえばマイナンバー制度については、2015年にマイナンバー制度が発足する前は、「納税者番号制度」とよばれて、過去資料の中でも重要視されていました。これは実現された政策の一つです。
しかしCOVID-19禍によって財政がいっそう苦しくなってきたこともあり、少子・高齢化が社会・経済活動の中で顕在化してくると、今まで先送りされてきた課題群は、一気に対応を迫られています。
さて、そこで歳入と歳出のバランスを保つこと、格差を是正すること、これまでの税金制度をソフトに変更していくこと、が求められます。いずれにせよ、国民の納得感が得られる必要があります。”取るべきところから取る”が本来であって、”取りやすいところから取る”と受け取られないようにしてもらいたいものです。■