統計調査あれこれ
(2024.09.28)
9月26日に総務省で第209回統計委員会・第42回企画部会が合同開催されました。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000722.html
総務省はひじょうに幅広い行政を担当しており、「統計」も重要な仕事の一つです。統計は国のさまざまな事業計画を立てる際の根拠となる情報ですので、その調査・分析・公表について統計委員会にお伺いを立てる決まりになっています。
統計のテーマごとに9つの部会に分かれて議論をおこなっています。そのうち、今回合同開催となった「企画部会」は統計制度において横断的な調整が必要な事柄を議論します。他の部会からも審議状況の報告がありました。
これらの報告からは、統計調査の現状がいろいろとかいま見えます。
●「国民生活基礎調査」の豊富すぎる問題
まず「国民生活基礎調査」の実施についての審議です(※1)。
この調査は1986年から継続して実施されているもので、来年(2025年)は3年に1度の大規模調査の年にあたります。
世帯構成、健康状態、要介護者の状況、世帯の所得、世帯の貯蓄の5種類について質問します。そこから世帯のリアルな状況がとらえられますが、調査結果をまとめた結果表が700にもなり、”豊富すぎる”問題が生じています。たとえば健康状態についても、”眼鏡を使用しても見えにくい”等々、さながら健康診断の問診票レベルの細かさです。
●「国勢調査」をどう調べるか
人口・社会統計部会から国勢調査に関する報告がありました(※2)。
「現在の住居における居住期間」及び「5年前の住居の所在地」を大規模調査(10年ごと)で質問していましたが、簡易調査年(5年ごと)でも質問するように変更することになりました。人口流出や移住対策に有用な情報として、地方公共団体等から調査の要望があったそうです。
また調査方法として、前回(2020年)にはCOVID-19対策として調査員がポスティングする方法が採られましたが、調査員の負担が大きいという問題が生じました。またオートロックマンションが増加したことにより、地方公共団体からマンション管理会社に委託する形に移行しつつあります。
世帯、居住の形が変化して、従来のような人手による国勢調査がますます難しくなってきたことがわかります。
次回の大規模調査に向けて、そろそろオンライン方式を全面的に採用する準備が必要ではないでしょうか。
●”21世紀に生まれた子どもたち”
この合同会議の報告にはありませんでしたが、企画部会では興味ぶかい調査を実施していました(※3,※4)。
その名は「21世紀出生児縦断調査」です。
2001年(平成13年)に生まれた子どもの成長・発達の様子や、子育てに関する環境や意識、行動の変化を把握するために実施されたものです。同じ性質を持つ集団を追跡調査する、いわゆるパネル調査とよばれるものです。
2001年の第1回調査(0歳)で53,575人を対象にしましたが、2022年(21歳)には回答22,872人になりました(第1回に対する残存率48.6%)。
なお第16回調査(高校1年生相当)からは文部科学省が調査を引き継いでいます。
また世代間の差異を見るために、2010年(平成22年)生まれの縦断調査も並行しておこなっています。
2001年調査集団 | 2010年調査集団 | |
出生直後 | 24.9% | 35.7% |
5歳時 | 51.4% | 62.2% |
たとえば、表1の母親の有職率を比較すると、2010年対象集団のほうが明らかに率が上昇していることがわかります(※5)。
この他、20歳代を対象とした「21世紀成年者縦断調査」、50歳代を対象とした「中高年者縦断調査」も同様の方法でパネル調査として実施されています。
これらの調査結果が蓄積されていくと、時代とともに対象集団の行動や心理がどのように変化していくさまを把握できるようになるでしょう。
●デジタル化
同じ質問を何年にも渡って繰り返すことで、社会や個人の変化を知ることができます。また時代の要請に応じて新たな調査を追加したり、重複した調査を廃止したりして、新陳代謝を繰り返すことも大切です。
かたや、国勢調査にせよ、パネル調査にせよ、調査にかかる時間や費用、そして専門人材が必要であることを忘れてはならないでしょう。
この領域こそ、デジタル化の恩恵が大きいところではないかと思います。■
※1 第209回統計委員会・第42回企画部会(2024年9月26日)資料1-1「諮問第188号「国民生活基礎調査の変更について」概要」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000969106.pdf
※2 第144回人口・社会統計部会(2024年7月9日)資料1-1「諮問第185号の概要(国勢調査の変更)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000957266.pdf
※3 第41回企画部会(2024年8月20日)資料1-1「21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)について(厚生労働省)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000962134.pdf
※4 同上資料1-2「21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)について(文部科学省)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000962135.pdf
※5 「第15回21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)及び第6回21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/15/index.html