日本を守る人たち
(2023.04.19)
自然災害が増えてきた最近では、自衛隊が被災地にまっさきに駆けつけて、行方不明者の探索や水の配給などをおこなっているニュースをよく見かけます。自衛官の仕事は皆からたいへん感謝されると同時に、体力的にも精神的にも厳しそうだと感じます。
3月22日に防衛省で、「防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会」第2回が開催されました。
(https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kiban/index.html)
日本の自衛官の状況については、新聞・テレビ等のニュースくらいしか知らなかったので、少しデータを集めてみました。
(防衛省・自衛隊の人員)(※1による)
- 職員数は国家公務員全体の約46%(自衛官約24.7万人、事務官等2.1万人) ⇒国家公務員の中では半分近い比率
- 防衛省の職員は特別職で「国家公務員法の不適用対象」 ⇒普通の省庁の公務員とは違う
- 職務の性質上、一般職とは別に人事管理される
- 自衛官の人員数は陸上61.4%、海上19.2%、航空19.4% ⇒おおまかに6:2:2
- 階級別では、「幹部(将官・佐官・尉官)」18.1%、「准尉」2.0%、「曹」60.3%、「非任期制士」10.8%、「任期制士」8.0% ⇒一番多いのが「曹」クラス
- 女性自衛官は19,160名(全体の約8.3%)、採用数は増加傾向。2030年までに12%目標。
- 人事上、特質すべき事柄として、「若年定年制」や「任期制」を採っていること。これは自衛隊組織を常に精強な状態に維持する必要があるためだそうです。やはり体力を要する仕事なので、やむを得ないのでしょう。
(任期制について)
- 2年(陸)又は3年(海・空)を1任期とし、本人が志願したときは、引き続き2年を任用期間として継続任用することになっています
- 「士長」までは任期制ですが、そこから上に進むには昇任試験を受けて、「曹」になります(非任期制になります)
- それ以外の者については、おおむね2任期(4年~5年)から4任期(8年~9年)。退職時に就職支援をして、民間企業などへ就職を斡旋します
- なお任期制自衛官は採用試験に合格した後、自衛官候補生として3ヶ月間の訓練を経て、「2士」として任用されます。高卒初任給で184,300円、大卒で202,700円。民間と比べてそれほど遜色はありません(※3)
- 制度が複雑なので、任期制キャリアパスの一例を図で示しておきます(※2から引用)
(定年について)
- 自衛官の定年は、他の国家公務員や民間企業と比較すると短めになっています
- 「曹」から上の階級では54歳~57歳、将官で60歳です(2023年度からは一部延長の予定。)
- 昭和時代にはおおむね50歳定年でしたので、これでもかなり延びたほうです
(給与について)
- 「俸給」「諸手当」「現物給与」「退職手当」で構成されています
- 俸給については常時勤務態勢等の特殊性を考慮して、超過勤務21.5時間相当が付与されます
- 諸手当として、特別な任務の場合には月例給や日額手当が支給されます。災害派遣手当、海上警備手当など。もっと特殊な場合は、護衛艦の乗組員(2尉40歳)で816万円、戦闘機操縦士(2佐40歳)で1,085万円(いずれも俸給込み)。危険と背中合わせですが、なかなかの収入です
- 現物給与として、駐屯地内の食事、制服の支給等
- 退職手当として、定年退職の場合には、最大で俸給月額の約47月分の額+調整額。任期制で満期退職した場合には特別手当
- 50歳代で退職を余儀なくされる若年定年退職者の場合には、一般と比べた不利益を補うための特別な給付を実施しています。たとえば54~57歳で退職した場合、退職から60歳までの期間中、退職時給与の約7割が支給されるのに等しい退職金のイメージです
- その他いろいろ、他の公務員や民間企業の給与水準と比較しつつ、調整をはかっているようです。海外の軍隊の待遇も比較調査しています
(定員について)
- 任務遂行に必要な自衛官の人員数(定数)と、実際に配置する自衛官の予算上の人員数(実員)との乖離が約1万4千人(2022年度末)
- つまり1万人以上の人手不足状態です
(中途退職者について)
- 自衛官の中途退職者数は5千7百余(2021年度)
- 全体として、少し増加傾向にあります。2021年度は特に「士」クラスの退職が増えました
(応募者数について)
- ごたぶんにもれず、自衛官の志望者数も減少しています
- 2012年度から2021年度までの10年間で、応募者数は約26%(約3万人)減少。2022年度の高卒求人倍率は3.08倍(バブル期並み)
(ワークライフバランスについて)
- ちょっと目を引いたのは、防衛省の「両立支援ハンドブック」(※4)。防衛省がワークライフバランスや育児・介護の両立を支援するものです。女性の自衛官も増加している背景もあって、このようなソフトな取組みも積極的に進めているようです。
- 令和4年版防衛白書(※5)でも、丸々一章を割いて、自衛官やその家族を取り巻く環境の整備に配慮していることが説明されています。特殊な仕事であるだけに、人の育成や定着が重要テーマになっているようです。
自衛官も人の子であり、自分のキャリアをうまく設計したいはずです。家族がいれば、一番金がかかる時期に退職せざるを得ないのは、たしかにたいへんなことだと思います。
さいわい民間企業から見た元自衛官の評判は高く、就職斡旋もうまくいっているそうです。専門職のロールモデルとして、興味深いと思います。
最近では、自然災害の頻発だけでなく、周辺国を巡る安全保障の問題も浮彫りになってきました。ますます自衛隊の出番が増えそうです。
防衛装備の強化もさることながら、肝心の自衛官の体制維持がうまくできるのか、どうかが問題です。■
※1 第1回有識者検討会(2023年2月22日)資料1 https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kiban/pdf/20230222_01.pdf
※2 第2回有識者検討会(2023年3月22日)資料1 https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kiban/pdf/20230322_01.pdf
※3 2022年度の決定初任給額は、大学卒(一律)で210,854円、高校卒(一律)で173,032円。(産労総合研究所調べ)
※4 防衛省職員のための両立支援ハンドブック https://www.mod.go.jp/j/profile/worklife/book/handbook_2021.pdf
※5 防衛白書 https://www.mod.go.jp/j/press/wp/ ■