最低賃金
(2023.04.11)
4月6日に厚生労働省で、「目安制度の在り方に関する全員協議会」第11回が開催されました。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32519.html)
ここで「目安」と言っているのは、最低賃金を決める際の中央最低賃金審議会の答申を指します。次にこの目安を地方最低賃金審議会に提示して、各地方の最低賃金を審議することになっています。その結果から、最終的には都道府県労働局長が最低賃金額を決定します。
つまり、最低賃金は中央審議会⇒地方審議会⇒各地の労働局長というステップで決まるわけです。
言うまでもないですが、最低賃金とは最低賃金法に基づき国が定めるもので、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
最低賃金の考え方として、
①労働者の生計費
②労働者の賃金
③通常の事業の賃金支払能力
の3要素を考慮して決定または改定されることとなっており、①を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとされています(※1)。
なお、最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の二つがあります。前者は地域ごとに決まるもの、後者は地域内の特定の産業について設定されるものです。
申請と審議を経て、「地域別最低賃金」<「特定最低賃金」 となります。
●地域差
最低賃金が全国一律ではなく、地方でそれぞれ議論されるのは、各地の産業の状況や消費者物価に差があるためです。東京のような大都市と、目立った産業の少ない地方とでは、最低賃金の持つ意味合いが異なります。
労働者の立場から見れば、最低賃金はどんどん上げてほしいところですが、脆弱な地方産業(中小企業が多い)にとっては、人件費の急激な上昇はそのまま経営悪化につながります。かといって、物価が上昇しているのに賃金が低いままでは、労働者の生活が成り立ちません。それが消費停滞のかたちで、地方産業へのダメージになって返ってきます。そのあたりの微妙なバランスは地方ごとに調整する必要があります。
●ランクという考え方の見直し
現在は、地域格差が拡大しないように、地方の体力に合わせたランクという考え方を採用しています。全国の都道府県をA~Dの4ランクに分けて、ランクごとに最低賃金の引き上げ額を目安として設定しています。2022年の目安は、AとBは31円、CとDは30円と決められました。
それを受けて、2022年10月に各地の最低賃金が決定しました。たとえば、
Aランクの東京都は目安通り31円上がって1,072円、
Dランクの沖縄県は目安以上の33円も上がって853円
になりました。全国平均では961円となりました。
2023年ではランクの分け方を変更することになりました(※2)。
従来の4ランクをA~Cの3ランクに再編し、AとBで全体の9割の労働者がカバーできるようにしました。こうすることで、ランク間の格差が縮むようにはかるものです。
消費者物価の上昇が続く中、次は最低賃金1,000円に到達するかどうかが議論の的になりそうです。
●最低賃金のトリック
2015年度以降は、すべての都道府県で最低賃金と生活保護の乖離が解消したことになっています(※3)。しかし、現実には最低賃金が生活保護の支給額を下回る地域がまだあるのではないかという疑問が残ります。
厚労省の試算では、月173.8時間労働を前提として賃金を計算していますが、これは祝日、夏休み、年末年始の休みもないという働き方です。「毎月勤労統計調査令和4年確報」によると、一般労働者の総実労働時間(残業含む)は月162.3時間ですので、一般労働者より月平均10時間以上長く働いて得た収入と、生活保護レベルを比較していることになります。
月収で換算すると、まだ最低賃金のレベルは十分とはいえないという推測が成り立ちます。
●サイテーと言われないように
最低賃金は「最低」の限度であって、それが数十円上がったというだけでは、産業全体としてさして意味はありません。人手不足の環境であればより高い賃金のほうに雇用が進むはずです。
人手不足は都市も地方も同様です。地方の産業が疲弊すれば、人は都市へ移動していきます。いったんそうなると、地方では賃金をいくら上げても人が集まらないという事態に陥ります。
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※1 厚労省プレスリリース「令和4年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2022年8月2日)参考1「最低賃金制度と地域別最低賃金額の改定に係る目安制度の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000807159.pdf
※2 第8回目安制度の在り方に関する全員協議会(2023年2月8日) 資料No.3(2)地方最低賃金審議会における審議に関する事項 ランク制度の在り方(ランク区分の見直しを含む)関連資料 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001053594.pdf
※3 第1回目安制度の在り方に関する全員協議会(2021年5月26日)資料4「最低賃金に関する先行研究・統計データ等の整理」 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000795394.pdf