ロケット
(2023.04.21)
3月16日に文科省で、「宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合」が開催され、その議事録が4月14日に公開されました。
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/026/gijiroku/mext_00007.html)
この有識者会合は、これまで宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会が担当して、適宜開催されてきました。「我が国の基幹ロケット等(JAXAが開発を行ったもの)の打上げにおける重大な事故(第三者損害の発生、ロケットの指令破壊等)」等を調査対象とします。
今回、2023年3月7日に打ち上げられたH3ロケット試験機1号機が軌道投入に失敗した件について、この会合が開催されることになりました。
3月8日(打ち上げ失敗の翌日)に第1回会合が開かれ、簡単な状況報告がおこなわれ、第2回会合(3月16日)では、その後10日間の調査経過が報告されました。
●H3ロケット失敗の実際
ざっくりまとめると、現在までに判明したことは次のようなことです:
- (現象)今回のロケットは第1段・第2段分離までは計画通り飛行したが、第2段に点火しなかった
- (原因)現時点では2段エンジンの着火信号(SEIG)時に作動する2段推進系コントローラ(PSC2)下流の負荷側で何らかの要因で発生した過電流により、PSC2の電源遮断が行われた可能性が高くなっている
- 今回のH3ロケットと従前のH-IIAロケットの電気系統の違いは、H3では第2段を冗長系(A系・B系)で作っていること
- しかし、A系・B系ともに異常を検知している
- 2月17日に打ち上げ中止となった件とは、原因が異なると推定している
- 以上から、A系/B系両方に電源異常を発生させうる共通因子が異常となった可能性が高いと考える。
- 今後、両系統のエンジン駆動電源でほぼ同時に異常検知するケースをFault Tree Analysis(FTA)を使って推測し、再現試験を実施する予定
本来、冗長系はいずれかの系に異常が発生しても、他の系が正常であれば維持できるものですが、それが両方とも異常を検知したというのは大きな問題です。より精密な分析が求められています。
この有識者会合の質疑応答でも、この冗長系に関するものが多かったようです。
公開されている情報は以上だけで、機微な情報は分けて非公開とされています。まだ調査途中ですので、これからも逐次、情報公開されていくものと思います。
●歩留りのよい日本のロケット
実は、日本のロケット打ち上げは、けっこう成功率が高いとされています。
五代富文・中野不二男の共著(※1)によれば、日本のロケット打ち上げの成功率は各国のロケット打ち上げ表で一目瞭然です。
欧米はたくさん打ち上げて、たくさん失敗して、その上にどんどん経験を積み重ねています。それに対して、日本の場合は貧乏性なのか、あまりコストをかけずに成功を求めようとします。”一発必中”でないといけないという雰囲気が強い気がします。
●執念の原因追求
前記(※1)の五代・中野の対談書では、1999年のH-IIロケット8号機の打ち上げが失敗(あるいは不成功)した件に触れて、”H-IIロケット8号機の打ち上げ「不成功」ほど、大きな成果をもたらしたものはない”と言い切っています。
墜落したH-IIロケットの残骸を海底3千メートルから回収し、分析した結果、特定の部品が疲労破壊したことが直接の原因と判断されました。
失敗ではなく「不成功」と表現するのは、今回はたまたま成功しなかっただけで、まだ技術的に探求すべき課題がたくさん残っているというニュアンスを伝えたいためです。失敗というと、どうしても特定の人のミスを追求することで幕引きになりがちです。
●失敗は成功の元と言いますが・・・
あいかわらず失敗を直視しない/できない風土が我が国にはあるようです。あるいは失敗から逃避するような行動をとります。
残念ながら、物事のわずかな間違いも許さないようなマスメディア(あるいはSNS)の論調も後ろ向きに働きます。今回のH3ロケットのニュースでも、こういう見出しが踊っています(例)。
”日本の宇宙開発が危機的な状況に直面”
”「過去に聞いたことない」専門家も驚き”
”成功前提のロケット計画に懸念”
”H3ロケット、異例の失敗”
”日本は成功ゼロ”
これらはさておき、古くは、戸部良一、野中郁次郎らの「失敗の本質」(※2)、20年ほど前には畑村洋太郎「失敗学」(※3)などによって、失敗が持つ重要性が注目されたときもありました。その後、民間企業などでも”失敗を自慢しよう”のような運動が見られ始めていますので、だんだん日本でも失敗許容の文化が醸成されつつあるようです。
今回のH3ロケットの「不成功」(失敗ではなく)からどのくらい多くの知見を得るか、日本人の懐の深さが試されている気がします。■
(追記)
4月20日午前(米中部時間)、米テキサス州から打ち上げられたスペースX社の「スターシップ」ロケットが失敗に終わったニュースが入ってきました。”新型ロケット爆発の瞬間、見守っていた大勢のスタッフなどから、まるで大きな花火が打ち上がったかのような歓声が湧き上がり、悲壮感がまったく感じられなかったのが印象的でした。”(日経BP 堀越功氏)■
※1 五代富文、中野不二男:「ロケット開発『失敗の条件』」、ベスト新書、KKベストセラーズ(2001年7月)
※2 戸部良一、他「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」、中公文庫、中央公論新社(1991年8月)(初版 ダイヤモンド社(1984年5月))
※3 畑村洋太郎「失敗学のすすめ」、講談社文庫、講談社(2005年4月)