リスキリングは試金石
(2023.04.06)
4月4日に文科省の中央教育審議会大学院部会第109回(2月6日開催)の議事録が公開されました。
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/1422799_00013.html)
こういう審議会の資料類は、当日のうちにホームページ上に公開されます。一方、議事の発言記録は少し遅れて公開されます。当日の討議については、口述メモが作成されますが、口語というのは、そのままの形では日本語として体を成しません。主語、述語をはっきりとさせ、かつ発言された当人の確認を経た上で正式の記録となります。したがって議事録は1~2カ月くらいは遅れて公開されることが多くなります。
この回の審議テーマは、
1.専門職大学院設置基準の一部改正について
2.大学院部会第11期中における大学院関係施策の動向等について
の2つとなっていて、資料を読めば(事務局がお膳立てした)だいたいの内容はつかむことができます。
しかし、出席された委員が、どういう点に意見や疑問を持っているか、は議事録を読まないとわかりません。資料の上ではさらっとしか書かれていない項目に、委員からさまざまな意見が出て、討議が白熱する、などということもあります。
議事録によって、審議会の”熱さ”を感じることができる、ともいえます。
●熱っぽい議論
この日の会合では、特に2.の中の「大学院におけるリカレント教育について」について、多くの意見が出ました。
- 大学院におけるリカレント・スキリングを通じて身に着けるべき知識・スキルについて,産業界等のニーズが具体化されていない、という点については、産業界だけでなく、学生にとっても魅力的でなければいけないだろう
- 人文学・社会科学系学位を取得した人が、もっと社会や企業の中で活躍できることが願わしい。たとえば、学位取得後にコンサルタント業務を人類学の手法でやっていらっしゃる方々が海外には多い
- COVID-19によってリモート環境が整ってきたので、社会人も講義に参加しやすくなってきている
- 一口に人文学・社会科学系といっても、学問分野によって就職率などもまったく異なる。こういう辺りもアンケート調査できめ細かく調べる必要がある
などなど。これらは議事録のごく一部にすぎません。
全体討議時間の7割くらいはこのテーマについての発言でした。大学、産業界の両方から、リカレント/リスキリング教育への期待が高いことがうかがわれます。
●経営者からみたリスキリング教育
自社の従業員が大学で学び直しをする、ということについて、企業経営者はどう考えるかが重要と思われます。
人材への投資という表看板に沿って、積極的にリスキリングを従業員に勧めるのは経営者の判断として当然です。さもなければ、人材に対して投資を怠っている会社という烙印を押されて、社会からも投資家からもそっぽを向かれます。
しかし、はたして経営者はリスキリング教育に本当に肯定的になれるか。
現実にはリスキリング教育を手厚くするほど、その従業員の本業時間は一時的に減ります。教育終了後に職場に新たな付加価値をもたらしてくれればよいですが、場合によってはせっかくリスキリングしたその従業員が他社に流れてしまう恐れもあります。特に規模の小さい組織ほど、このようなことは大きな悩みとなります。
最近の風潮として、「人材」とは書かずに「人財」と表記する組織が増えています。(まあ、そういう組織に限って世間体を気にすることが多いともいえます。)
そういう中で、「人財」への投資をどのように考えるか。経営者としての試金石になるでしょう。■