レジリエンス
(2023.04.14)
4月11日に経産省より「レジリエンス社会の実現に向けた産業政策研究会 中間整理」が公表されました。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/resilience_society/20230411_report.html)
”レジリエンス”(resilience)という外国語にすると、若干新しさを醸しだすことができます。要するに”復元力”とか”しなやかに回復する力”という意味です。ラテン語の "resilire"(跳ね返る)が語源とされますので、感触は理解できます。
経産省では「経済産業政策の新機軸」を打ち出して、世界・日本での社会課題解決の必要性、及び日本の貢献可能性がある分野について、5~10年がかりで腰をすえた取組みを始めようとしています。こういう社会課題解決から考える政策を「ミッション志向の産業政策」と呼んでいます。
●研究会での議論
その一環として、「災害」に対するレジリエンス社会を取り上げ、検討を進めています。昨年末に同研究会が発足し、以来4回の議論を経て、中間報告書の形となりました。
この研究会はたった6名の委員で密な議論を重ねたようです。
議事要旨を読むと、大筋が見えてきます。(以下、委員の意見の一部。)
- 防災は時間がかかる上に、リターンが見えないため、なかなか資金が集まらない。
- 防災は多種多様で、即応性が求められるものも多い。スタートアップ企業のスピード感に期待したい。
- ヘルスケア”分野も同様だったが、健康経営というキーワードが出て、公共調達や金利優遇などのインセンティブも働いた。防災も同じやり方ができるのではないか。
●防災の経済的規模
災害といっても、自然災害(天災、感染症)もあれば人為災害(事故、攻撃)もあります。それぞれ対応する計画や法制度がいちおう揃っています。また資本に換算すると、住宅その他建物(65.3兆円)、機械・設備(44.8兆円)などなど合わせて140.6兆円の規模となるそうです。これらがレジリエントの政策によって影響を受ける大きさとなり、想定市場ということができます。
●進めるべき方向
またレジリエントの考え方には、「被害を最小化する」、「迅速に回復する」の2つに分けることができ、さらに「そもそも被害が発生することを防止する」、「よりよい復興」も付け加えることができます。
この4つをどのように実現するか、が知恵の使いどころとなります。
まだ構想の段階ですが、防災に力を入れている企業を市場から評価できる仕組み、公共調達などの工夫、「スマート保安」に向けたデータ活用などにスタートアップの先進的ソリューションを期待しています。
さらにこのように開発した日本の優れた防災技術を海外に輸出することも視野に入れています。
経産省の役目としては、防災に関わる産業振興を進めることですから、自由市場に任せておいてはなかなか投資が進まない防災分野に対して、公的支援を積極的におこなうストーリーです。
●実際に災害が発生したら
今回のレジリエンスに関する中間報告書は産業の育成を目指したものです。
しかし、実際に災害が発生した場合には、全省庁の仕組みと知恵を総動員する必要があります。
これまでに、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)、さらに遡ると関東大震災(1923年)のような大きな災害に対して、日本は驚異的なレジリエンスの力を発揮して、復興をある程度、なし遂げることができました。幸い、いずれも周囲の地域が無事で、そこから支援の手を差し伸べることができたケースです。
しかし、今後はさらに広域の災害や多重の災害(天災が重なるとか)が起きた際に、日本の動脈が分断され、システムがマヒするなどの最悪の事態も予想しておかねばなりません。その際に国民の生命と財産をどのように守ることができるかが重要な点です。
自然災害のデパートと言われる日本に住む人にとっては杞憂ではないと思います。■
追記
内閣府の中央防災会議に、過去の災害教訓テキストを整備する目的で専門調査会が設置されています(※1)。こういう成果物を地道にアーカイブ化していくことも重要です。■
※1 「災害教訓の継承に関する専門調査会」 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/index.html