労働災害
(2023.05.20)
5月18日に厚労省より労働災害発生状況が発表されました。
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/index.html)
毎月の労働災害状況、特に死亡災害が気にかかるところです。
この毎月統計は前年度(2022年度)の同じ期間(1~4月)までの値と比較しています。
それによると、「全産業」の死亡災害発生はマイナス39件となって、減少しています。しかし業種別に見ると「陸上貨物運送事業」、すなわちトラック等の運転者や宅配の配送業者の災害がプラス11件と増えています。最近のニュースを振り返ってみても、たしかにトラックが関わる交通事故が多い気がします。
また「第三次産業」はサービス業を意味しますが、この業種はマイナス19件となっています。内訳を見ると、「小売業」はマイナス8件でしたが、代わりに「社会福祉施設」でプラス3件が発生しています。およそ危険な機械類は関係なさそうな業種ですが、どういう状況だったか気にかかります。ちなみに社会福祉施設での死亡者4名の原因は、「飛来・落下」「はさまれ・巻き込まれ」「おぼれ」「交通事故(道路)」でした。
このような毎月の発表だけでなく、年間通した統計も見る必要があります。
2021年の状況(※1)を見てみました。(2022年の確定値は未発表。)
過去40年以上にわたる経過を見てみると、死亡者数は順調に減少を続けています。2022年速報値(※2)では758人なので、減少は間違いないようです。
一方、死傷者数も全体としては減っていますが、この20年間はほぼ横ばいが続いて、若干増加の気配も見られています。2022年速報値は27万5千人とかなり増加していますが、このうち14万7千人は感染症(おそらくCOVID-19)に分類されていますので、これを差し引くとほぼ横ばいと見てよいでしょう。
いずれにせよ、死亡者数は着実に減っているものの、死傷者数は微増です。
労働現場の対策は年々手厚くなっているはずですが、最近の傾向として高齢者による事故が目立つようです。
●新しい5か年計画
「第14次労働災害防止計画」(2023~28年度)が2023年3月に定められました(※3)。この計画の主な目標値は次の通りです。
- 死亡災害については、2022年と比較して、2027年までに5%以上減少する
- 死傷災害については、2021 年までの増加傾向に歯止めをかけ、死傷者数については、2022 年と比較して2027年までに減少に転ずる
この計画のポイントは「高年齢労働者」と「中高年齢の女性労働者」への対策です。
高齢になっても働く人が増加していることによって、労働災害も増える傾向にあることから、重点項目に挙げられています。
また中高年齢の女性労働者の場合、転倒災害の発生が特に目立つという理由があります。また介護職などでは腰痛の発生も増加しているようです。
●労働災害の最近の傾向
たしかに大きな事故や災害の件数は多くの関係者の努力によって減少しつつも、今度は高齢化にともなう労働災害が目立つようになってきたといえるでしょう。
外国人労働者の事故増加も見逃せません。作業環境の中で必ずしも言葉が伝わらない状況でいかに安全対策をおこなうかも、職場の課題です。
また最近は身体的な事故だけでなく、メンタルヘルスも重要視されています。過重労働対策とも合わせて、労働環境に配慮する事柄が増えています。
このあたりは社会保険労務士の出番です。
高齢ドライバーによる交通事故の増加や、労働災害の増加は、高齢化社会の象徴的な出来事でしょう。「年寄りの冷や水」という言葉が流行語にならなければよいのですが。■
※1 厚労省「令和3年労働災害発生状況」(2021年5月30日) https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/dl/b21-16.pdf
※2 厚労省「令和4年における労働災害発生状況について(令和5年3月速報値)」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/dl/22-15.pdf
※3 厚労省「労働災害防止計画について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html