創生2.0

(2025.06.22日)
6月13日に「地方創生2.0基本構想」[1]が閣議決定されました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/index.html#kihon

昨年10月に新内閣の組閣とともに「新しい地方経済・生活環境創生本部」が発足して、「地方創生2.0の「基本的な考え方」」[2]が決定されました。これに沿って具体的な方針をまとめたものが今回の基本構想です。

●地方振興に向けた政治体制
政府が正面から地方の問題に取り組みだしたのは、2014年の「まち・ひと・しごと創生法」の施行からと考えてよいでしょう。

この法律の第1条には、

・・・急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、・・・豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進すること・・・

と書かれています。
従来の地方振興という言葉が、特定の地域のてこ入れを指すような、やや狭く、短期的な施策のイメージを持つのに比べて、”創生”は根本から生まれ変わるといった意味をまとっています。2.0というバージョン表示もそれに輪をかけています。
意味の違いはほとんどありませんが、これも政治のアピール方法の一つです。

この法律にもとづいて「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、そのときの初代地方創生担当大臣は石破茂(現首相)でした。
それ以降、この本部では毎年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定してきました(2021年まで)。

岸田内閣が発足したタイミングで、これまでの地方創生に「デジタル化」を加えて、両輪で推進しようとする「デジタル田園都市国家実現会議」が置かれました。
「まち・ひと・しごと創生本部」は法律で設置が決められているのに対して、この実現会議は内閣の判断で設置されたものです。

2024年10月に石破新内閣が発足し、デジタル田園都市国家構想実現会議を発展させる形で「新しい地方経済・生活環境創生本部」が設置されました。これも内閣の判断で設置されたものです。

●切り盛りしているのは
上に出てきた「本部」は首相はじめ大臣クラスが居並ぶ形をとっていますが、実務を切り盛りする事務担当者(いわゆる事務方)が必要です。
地方創生にかかわる事務処理は、
「内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部事務局」(地方創生の企画・立案、総合調整を担当)
「内閣府地方創生推進事務局」(地方創生に関する法律・予算・制度の運用を担当)
の二つの組織が分担する形をとっています。つまり新しい企画を検討するチームと、決まった政策を運用するチームがあるということです。

●地方は重要な政策テーマ
内閣・与党にとって「地方」は重要なキーワードです。経済活動、社会福祉、子育て等の重要政策はすべて「地方」の課題解決に帰着します。地方は国会議員にとってなにより大事な票田です。
したがって上に見たように、過去に手を変え品を変えて、さまざまな政策が打たれてきました。

●10年後の反省
しかし地方のテーマは多岐にわたり、また成果が出るまで時間がかかることが多いため、反省も出ました。
「まち・ひと・しごと創生法」施行後、10年の節目となった2024年6月に、
「地方創生10年の取組と今後の推進方向」[3]
が2つの事務局連名で公表されました。
そこには東京一極集中や人口減少に歯止めがかかっていないこと、もはや人口減少を前提として社会設計をおこなうべきことが書かれています。
ある意味では”あらがう”ことはやめて、”おだやかに撤退する”方針に変えるということです。

この「今後の推進方向」は今回の「地方創生2.0基本構想」の原型となっています。

●政策の5本柱
地方創生2.0では次の5つの柱を立てています。

(1)安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
どこでも安心して暮らせるためには、生活インフラの維持と地域コミュニティの維持が必要です。

(2)稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生~地方イノベーション創生構想~
地方の経済をうまく回すことが重要です。インバウンド需要に見られるように、これまで気づかなかった地方の”良さ”を掘り出していくことも求められます。

(3)人や企業の地方分散~産官学の地方移転、都市と地方の交流等による創生~
そもそも地方創生というキーワードは東京一極集中の問題と対になったものです。今なお東京への人材集中が続くのはなぜか、地方の側がしっかり考えるべきでしょう。先にあげた(1)や(2)と合わせて議論することが大事です。
本当に行き詰まって困ったときに、初めて旧来の習慣や仕組みを打破する動機が生まれます。

(4)新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用
人やモノの量では地方はどんどん縮小していくでしょう。しかしそれを補うために、デジタル技術を積極的に活用する手はあります。何かが不足するときに真剣に対策を考えることによって技術は発達するものです。

(5)広域リージョン連携
10年間の反省では地域の好事例が面的に広がらなかったという悔やみがありました。
地域の好事例を競いあうような、横並び意識を刺激する施策も面白そうです。ふるさと納税などは先例になるのではないでしょうか。

地方創生にかかわる国の予算についても昨年度より倍増[4]するなど、手厚い対応がなされています(図1)。5本柱の政策が強力に進められることを期待します。

図1. 地方創生の予算推移([4]より引用)

●歴史を見る
学校では日本の歴史を学びます。
明治維新、第二次大戦の敗北という2度の大変化を日本人は乗り越えてきました。そしてそのたびに世界の中ではまれに見る奇跡的な発展を達成してきました。
これらの歴史をもう少し誇りに思ってよいでしょう。
そうすれば人口減少という危機に対して、少しは自信を持って立ち向かうことができるかもしれません。

昔は”さす九”[5]なんて言葉もあったな、と笑える時が来ることを願います。■

[1] 地方創生2.0基本構想(2025年6月13日閣議決定)
・概要 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/20250613_gaiyou.pdf
・本文 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/20250613_honbun.pdf
・地方創生 2.0 基本構想施策集 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/20250613_sesaku.pdf
[2] 「地方創生2.0の「基本的な考え方」」 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/pdf/honbun.pdf
[3] 「地方創生10年の取組と今後の推進方向」 https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/chisoudecade/index.html
[4] 地方創生予算令和7年度当初予算(案)・令和6年度補正予算(2025年1月) https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/tihousousei_setumeikai/pdf/r07-01-17-shiryou2.pdf
[5] https://ja.wikipedia.org/wiki/さす九

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