地方はどうなっていくか
(2024.11.24)
11月21日に総務省にて「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会(第1回)」が開催されました。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/jizokukanonachihozaisei/dai01kai.html
この研究会名を裏返すと、”地方の行財政は持続可能なのか?”と読めます。まさにこの研究会の開催趣旨には、
”人口減少下において、地域の担い手を含めた資源の不足や偏在が深刻化する中で、自治体の行財政のあり方を持続可能なものにしていくため、・・・”
という背景が書かれています。
研究会では来年(2025年)夏頃に研究会報告をまとめることになっています。
予定されている主な議題は次の通りです:
・人材不足等が地方公共団体の事務の執行にどのような課題を生じさせているのか、また、地方公共団体間の税財政の状況を含めどのような要因が考えられるか
・具体的な分野・事務ごとにどのように事務処理を持続可能なものとすることができるか
(例:デジタル技術の活用、多様な主体との連携、地方公共団体間の水平連携、垂直補完等)
・国・都道府県・市町村の役割分担の見直しの必要性
・以上の対応を行った上で必要な公務人材をどのように確保していくのか
・地方議会議員のなり手不足等への対応方策
最後の地方議会のことについては、「地方の民主主義」(2023.4.12)という文章を書いたことがあります。
●地方行政の状況を知る
最近はやりの「~~万円の壁」を解消しようとすると、その分の税収減少は地方財政を直撃するものとして、地方の長は声をそろえて反対意見を出しています(※2)。
自治体全体の減収額は4兆円程度(総務省試算※3)、さらに地方交付税も減り、地方にとっては5兆円ほどが減少すると予想されています。
さて、ここでもう一度、国と地方の行政の関係とか、税金の流れとか、地方の人材とかをあらためて眺める必要がありそうです。
国全体を論じていると、どうしても地方の情勢に目が向きにくくなります。その意味で、今回の研究会資料には、地方に関する情報が記載されていますので、たいへん有用です。
●地方財政の仕組み
まず重要なのは地方の財政です。
特に歳入については、地方が独自に得ている収入と国からの交付金の2種類があります。
図1(※4)は国から地方公共団体への資金の流れを示しています。
地方が個別に集める個人住民税や固定資産税、地方法人二税があります。
その他に国から「地方交付税交付金(注1)」、「国庫支出金(注2)」「地方贈与税(注3)」、が出ています。
これらの仕組みは、所得税や法人税等を国税としてまとめて集めて、地方に分配し直す役割があります。
(注1)地方交付税交付金は使い道が決まっていないもの
(注2)国庫支出金は使い道が決まっているもの(インフラ整備事業等)
(注3)地方譲与税は、国税を客観的な基準によって地方団体に譲与するもの(地方揮発油譲与税、石油ガス譲与税等)
●地方歳入の変化
図2(※5)は地方歳入の内訳の変化を示したもので。「地方税」、「地方交付税」が大半を占めていることがわかります。
地方税は景気の変化を如実に示していて、リーマン・ショックやコロナ・ショックの折に大きな減少が見られます。
それに比べると、国から来る地方交付税は地方税の半分以下で、変動も少し緩やかです。
たとえば令和3年度の地方税が大きく減少した際も、地方交付税は微増で、影響を緩和していました。
この二つの歳入の柱が、「~万円の壁」の施策によって共に減少することを予想すると、地方の長が黙っていられないのは理解できます。
●東京との格差は埋まらない
図3は一人当たりの税収を都道府県別に表示したものです。
特に地方と東京との格差が大きいのは「地方法人二税」(法人の住民税と事業税)です。やはり稼ぐ法人が東京に集中していることが目立ちます。
このような歳入の格差は、また地方の施策の差に現れます。
東京近辺の県からも、”こども施策のみならず様々な施策においても、東京都と周辺自治体の地域間格差の拡大が多く存在しているところであり、こうした状況は、東京一極集中の流れを加速”させていると指摘されます。
●地方の人材減少が深刻
・わが国全体の人口減少….地方は特に深刻、2050年には人口1万人未満の市区町村が40%
・公務員数の減少….2040年頃には団塊ジュニア世代が退職、20代前半の入庁者数はその1/3程度
・常勤の職員数は328万人(H6年)をピークに一貫して減少し、その後微増、280万人(R5年度)
・一方、臨時・非常勤職員は64万人(H28)→74万人(R5)
図4は地方公共団体の職員(いわゆる地方公務員)の人数変化を示したものです。
もはや地方の公共サービスは臨時・非常勤職員で支えられているといっても過言ではなく、地方公共団体自体が収入格差を助長させているという皮肉な状況です。
●特に専門職不足が深刻化
わが国全体で人手不足の声が高まっていますが、特に地方では技術者、医療従事者等の専門的な知識を持つ人が足りなくなっている現状があります。
・以前は景気が好況のときは人手不足であったが、今は不況時でも人材不足が発生
・特に、運輸業、建設業、介護・看護業等は、いずれも地方公共団体の業務と関係が深い分野であるため、状況は深刻
・IT人材については6割が東京圏に集中している
・全体として三大都市圏(東京、愛知、大阪)への人材偏在が加速
約半数の市町村では
「技術職員の応募がほとんどない」
という状況がみられます。つまり採用予定数を確保できないということです。
その結果、道路・土地整備の技術者が不足して公共事業が進まなくなる、病院の医師・看護士が不足して医療体制が維持できなくなる、といった事態になりかねません。
●結果として仕事量の増加
地方全体での人口減少と、職員の減少が重なって、ますます疲弊する構図が見えます。
・地方公共団体の事務の増大….地方の人口減少にともなって、たとえば少子化対策、移住対策、空き家対策、地域交通対策、買物難民対策が新たに必要となっています。
・行政需要の多様化・複雑化….たとえばカーボンニュートラル対策、高齢者対策、インバウンド対策、外国人との多文化共生対策、インフラ老朽化対策等です。
これらの問題は学校の教員についても似た状況と思われます。教育環境の変化にともなって、教員の過重労働が深刻になり、退職の増加や応募の減少から、結果として教員不足が顕在化しつつあります。
●デジタル活用は期待されるが、まだまだ
・地方公共団体における事務のデジタル化は進んでいるものの、導入率等が低く、業務時間削減効果も地方公共団体全体の業務からすると部分的
・小規模な団体(人口5万人以下)の211団体は「一人情シス状態」
・情報システムは問題あり….都道府県の支援による共同調達が行われているが、電子申請・納付システムや施設予約システム、ビジネスチャットツール等が中心であり事例は限られている
●共同処理の取組は効果大
小さい地方公共団体が単独で行政サービスをおこなうと非効率になりがちな分野では、地方公共団体同士が連携して行政サービスをおこなう「共同処理」の事例がみられます。
介護、保育、インフラの維持管理、消費者行政等の分野で実例が生まれています。
ただし上の書いたように、情報システムの共同調達ではまだ効果は出ていないようです。
●現場の声
今回の研究会資料には地方公共団体からの聞き取り調査の結果が掲載されています。(約20の地方公共団体対象、2024年10月実施。)
・補助金や交付金を得るための計画策定の業務が多い。
・市町村職員の民間への流出も生じている。
・デジタル化による効果はあるが、小規模団体において導入コストが割高である、デジタルに不慣れな高齢者への対応が困難、紙ベースとの混在による非効率が生じている
・福祉関係の相談業務は、個人情報を取り扱うもので、人対人で時間をかけて対応する必要がある。
・民間委託、郵便局連携等の例もある一方で、委託先自体が不足、高齢化している。
●ほんとうの自治
この資料を読むほど、地方が置かれている状況の厳しさが見えてきます。
地方の人口減少がすべての面でマイナスの影響を招いています。
それでも、わが国の社会が縮小していくのにつれて、地方が切り捨てられていくようなことは考えたくありません。
各地方と三大都市圏が調和を保ちながら、人や資金がうまく循環するようなことは構想できないでしょうか。
Iターン、Jターン、Uターン等、いろいろな移住の形があります。
テレワークの普及によって、都市の仕事を地方で受注することも容易になりました。
インバウンドで日本を訪問する外国人は、都市だけでなく、地方にも魅力を見出しています。
地方には都市部に引けをとらないような質の高い生活インフラや、文化が保持されています。
わが国の体力はまだまだ残っているように感じます。■
※1 持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会(第1回)資料2 https://www.soumu.go.jp/main_content/000978081.pdf
※2 「地方税収5兆円超減「103万円の壁」引き上げに自治体懸念」、日経新聞2024年11月19日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA195DM0Z11C24A1000000/
※3 村上総務大臣閣議後記者会見(2024年11月5日) https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001388.html
※4 財政制度分科会(2020年11月2日)参考資料2 地方財政(参考資料) https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20201102/04.pdf
※5 総務省「地方財政制度」より筆者作成 https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei.html