お節介か、支援か

(2024.08.13)
こども家庭庁では、「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」が7月19日から開催されています。今日までに3回開催されました(※1)。
名称の通り、若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるに当たって、関係者からの意見を聴き、いろいろな課題について検討することを目的としています。
出席の12名の委員には、大学生など20代の若者が多く参加しているのが特徴です。
このワーキンググループ(以下、WG)と並行して、アンケート調査(若者世代対象2万人、7月)、高校生世代との意見交換会(7月)、グループインタビュー(計20名、8月)も実施されていて、多面的な意見収集をおこなっています。

●結婚と出生率の現状
前々からわが国の人口減少が危機的状況であることは広く知られています。
このWGで配布されたデータによると、2023年の出生数は72万人余、合計特殊出生率1.20で最低値を更新中となっています。人口自体が減っている中ですから、出生数の絶対数は減っても当然と言えます。
片や合計特殊出生率の方は、15歳~49歳の女性の年齢別出生率の合計です。さらに、これは「有配偶率」と「有配偶者出生率」の掛け算に分解されます。そうすると「50歳時点での未婚率」と「夫婦間の出生児数」のグラフが導けます。
(子供の数だけ議論するならば合計特殊出生率だけでよいのですが、あえて結婚という因子を表に出したかったのでしょう。)

図1. 50歳時の未婚率と夫婦間の出生児数の推移

グラフを見るかぎり、1990年頃から急速に50歳未婚率が高くなっています。ちょうどベビーブームの世代と言えます。2020年時点では50歳男性(つまり1970年生まれの男性)の3人に1人は未婚という状況です。出生児率のほうは2002年頃までは2.2程度をなんとか維持していましたが、それ以降は低下傾向です。
こういうふうに、子供の出生率を結婚率と結婚後の出生率に分解してみることで、少し傾向と対策が見やすくなっています。
(ただし上に書いたように、結婚を前提に置くのは保守的な政策をとらざるを得ないわが国の行政の限界でしょう。海外では婚外子の比率のほうが高い国もあります(※2)。)

●若者は迷っている
WGでは20歳台のいろいろな意見が出ています。それらからは、結婚や子供のことについて、自分の明確な意思で考えているというよりは、「迷っている」というのが実態のようです。
いろいろな論文や解説を読み合わせてみると、戦後日本では次のような世代交代がおこなわれたと考えます。
・戦中に育った世代が高度成長期を引っ張り、終身雇用や専業主婦という社会構造を作った
・ベビーブーマーがその路線の恩恵にあずかり、激しい競争の中でそれなりの地位を築いた
・その子供世代(第二次ベビーブーマー)は「氷河期」を通過して、今の現役世代となっている
この三世代の人生に対する意識には大きな差があり、結婚や子供についての考え方も同様の違いがあります。
また若者はインターネット上のさまざまな(真偽混在の)意見に強く影響を受ける世代でもあります。前の世代のように地域や家族からの束縛は少ない反面、選択肢が多すぎて、誰の言うことを参考にすべきか、わからなくなっている状況と見えます。さあ何をやっても自由です、しかし自己責任で、と言われても途方に暮れるのではないでしょうか。
その意味で、父母や祖父母の世代とは異なる若者世代の声を直接ヒアリングしようとする試みは当然ですし、むしろ遅いくらいでしょう。

●国の政策でできることは限られる
これまでも書いたように、国が打てる手だてはそれほど多くありません。第一は資金を投入して事業を動かすこと、第二は規制等を調整して望ましい方向に誘導すること、第三は教育や社会啓発を通して国民の意識を間接的に誘導すること、くらいです。
結婚や出産が難しい課題なのは、個人の自由意思に関わる領域だからです。どこかの強権国家のように、結婚や出生を強制することはできません。
ですからわが国では、第一の手段だけでなく、第二、第三の手段も組み合わせて、緩やかに人々の心理と行動の変容を促すことになります。

●結婚支援の実態
上の三つの政策手段のうち、第一の事業推進では、「地域少子化対策重点推進交付金」を100億円(補正予算含む)で進めています。これは地方公共団体が行う少子化対策の取組を支援するものです。地域での結婚支援(マッチングシステム)や結婚後の新生活を支援する事業を支援します。支援対象となる事業数も2020年度333件から2024年度は853件まで拡大してきました(※3)。
その中心活動となる地方公共団体の結婚支援センターは、全国の7割以上の都道府県に設置されていて、すでに2020年度時点ではマッチング数32,018組、成婚数1,748組という結果が出ています。最近はAIマッチング機能の導入によって、さらに成婚率は高くなるだろうと期待できます。自治体が運営する組織なので、安心感や会費の安さが長所になっているようです。
一方、民間の結婚相談サービスについては、大手17社が参加する一般社団法人日本結婚相手紹介サービス協議会から説明されています。興味深いのは、図にあるように、最近では「職場や学校での出会い」が減少し、「マッチングアプリでの出会い」へ変化しているという点です(※4)。また見合い結婚も増加に転じています。インターネット等の利用によって、自分の身近のコミュニティよりも、少し離れた場での出会いが可能になってきたことが理由ではないかと想像します。仮につきあいがうまく行かなかったとしても、自分の職場や家庭から離れた場であればマイナスにはなりません。

図2. 出会い方の推移

人が介在して入会審査も厳格なサービスは、マッチングアプリに比較すると会費は高くなりますが、その分の信頼性は高まります。人生の岐路という見方をすると、就職相談よりも結婚相談はさらに慎重を要することになりますから、「ほどよいハードルの高さ」は安心感につながります。
自治体サービス、民間サービスいずれにせよ、入会のためには「独身証明書」や「収入証明書」の提出を条件としています。これらは政策の第二手段である規制のたぐいに分類されるものであり、質の悪いサービスを排除しようとするものです。
その他、地域の結婚支援ボランティアの増強も施策の一つです。こども家庭庁が作成したプログラムによる研修によって育成されたボランティアが、各地の結婚相談会やお見合いの立ち合いなど、様々なシーンでサポートするもので、「伴走型結婚支援」とよばれています。2022年時点で5,523人が育成されています。さらに自治体の結婚支援に対して技術面・情報面で間接的に支援する「結婚支援コンシェルジュ」を配置する事業や、若い新婚夫婦を経済的に支援する「結婚新生活支援事業」があります。以上はすべて地方公共団体の結婚支援活動を国が補助するものです。
このように地域での結婚支援サービスはけっこう数多く見かけます。ためしにいくつかの県や市の広報を検索してみると、かなり充実したサービスがあり、実績を積んでいる例に出会います。

●不安を軽くする
核家族化が進む前の時代には、自宅に三世代が同居して、家族が出産や死を見守ることが普通でした。隣近所の助けも借りたでしょう。そういう環境が失われて、若い人が結婚や出産について実感を持たないまま、孤立しているのが現状です。
7月に実施された「こども若者★いけんぷらす」では高校生~社会人28名にグループインタビューをおこない、結婚や子育てに対する意見を聞いていますが、大半が不安を抱えています。SNSでは情報量が多すぎて、かえって迷いや不安を高めてしまっているようです。
結婚だけでなく、子育てまで視野を拡げたライフプランニングを、中高生や若い世代に提供しよういう支援も国の事業として進められています(先出の「地域結婚支援重点推進事業」の一部)。具体的には、乳幼児に直接触れ合う機会を設けたり、子育て家庭を訪問して体験談を聞いたりするプログラムを実施したりしています(※5)。すでに全国の都道府県の8割で、このような中高生や若い世代向けのライフデザイン教育を実施しているそうです。
このような体験は普通の学校教育の中では得られません。限られた時間ですべてを知ることはできないまでも、結婚や子育ての一端を実感できることは、若い人にとって貴重な機会でしょう。そして、長い人生のライフプランを自分で考える手助けとなるでしょう。それを通して、結婚や子育てに正面から向き合えるものと思います。
このような啓発活動は政策の第三手段に相当します。第二や第三の政策手段の場合、その効果がすぐ現れるものではありません。しかし緩やかに、社会の風潮を変えていくためには必要な活動です。

●自分で人生を考えること
自分のことを思い返せば、ライフプランニングを教えられたこともなく、考える機会もありませんでした。就職や結婚に対しても、何となく友人や先輩たちを横目に見て、同じような行動をとっていたに過ぎませんでした。税金や年金の仕組みも(正直なところ、会社員の退職間際になるまで)知らなかったという状態でした。おそらく同じような人が多かったと思います。
しかし今後はそのような”何となく流される”の生き方は難しくなるでしょうし、幸福感も高くないでしょう。若い人が結婚とか子育てという人生の重大事に対して、ただ無策のまま歳をとってしまい、後悔するのは、たいへんもったいない話です。
地方公共団体や国が提供しているさまざまなサービスが、若い人の不安や迷いの軽減に役立つことを期待します。■

※1 若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ https://www.cfa.go.jp/councils/lifedesign-wg
※2 令和5年度年次経済財政報告(婚外子と外国人住民の国際比較) https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je23/h07_cz0201.html
※3 同第3回 資料5 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/922e7b84-c3e8-47d2-b85e-a421f327d21d/5f405ff7/20240808_councils_lifedesign-wg_922e7b84_06.pdf
※4 同第3回 資料3 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/922e7b84-c3e8-47d2-b85e-a421f327d21d/220d1401/20240808_councils_lifedesign-wg_922e7b84_12.pdf
※5 同第2回 資料2 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/080e8218-d41c-499f-b393-d5cefadeaa2e/f493d562/20240731_councils_lifedesign-wg_080e8218_02.pdf

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