嘘、大嘘、そして統計

(2023.03.26)
3月23日に総務省の第191回統計委員会が開催されました。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/toukei/kaigi/02shingi05_02000624.html

統計委員会は13人の委員(外部の有識者)と24人の幹事(各省庁の代表)から構成されていて、統計に関する基本的な議論や、調査方法について審議・勧告する重要な役割を持っています。
国の統計は、さまざまな政策の参照値となっているため、たいへん重要です。公表される数値によっては、金融マーケットへ影響したり、雇用保険や労災保険の支給額にも影響が出ます。

●大きな統計不正
最近、2件の大きな統計不正が発生して、統計委員会はじめとする関係部署は批難にさらされました。
・2018年12月に厚労省「毎月勤労統計調査」において調査方法を承認なしで変更(※1)
・2021年12月に国交省「建設工事受注動態統計」において二重計上が発生(※2)
どちらも組織的な隠蔽や見過ごしを含む悪質な行為が認められたといいます。
後者の事例では、以前のブログで書いた「お見合い」がやはり発生していたことが、調査報告書でも記録されています。役所の”たらい回し”が現実に発生するのですね。

”総務省の職員が、国交省の相談に対し、自分の担当ではないとして他の担当を教示したが、当該他の担当の職員も自分の担当ではないとして元の担当を教示するといった、役割分担の隙間に落ちたような対応を確認”(統計委員会タスクフォース精査結果報告書)。

●組織風土の改革
2022年8月10日には統計委員会が「建議」を出しています。その中で幹部職員に対して、「エラーの発生⇒悪」ではなく、「エラーに速やかに対応できないこと⇒悪」との意識を浸透。品質優先で風通しのよい組織風土を形成することを強調しています。
●次期計画
国の統計にたずさわる職員は職人気質で支えられた典型的なテクノクラートです。しかし人員不足や資金不足によって、仕事の質低下も招いているようです。組織風土のような精神論だけではなく、もっとリアルな改善策が必要です。
それに向けて、統計委員会では次期の5年計画を準備中です。そこでは統計の基準の見直しや、統計データの利活用の促進と並んで、デジタル技術を活用した省力化を急ぐことになっています。
●皮肉か真実か
統計調査のあり方自体も、速報性を重視するのか、正確性を重視するのかによって調査方法も変える必要があるでしょう。先にあげた統計不正の問題にしても、調査対象企業がきちんと数値を報告していないことが遠因にもなっていました。

嘘には三種類ある:嘘、まっかな嘘、そして統計」(※3)。
この言葉はまさに格言ですね。
もともと、統計調査には虚偽や誤り、遅れが含まれているという前提を忘れてはいけないと思います。その中から国の姿をできるだけ正確に描くのがテクノクラートの腕の見せ所です。■

※1 厚労省「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書について」、2019年1月22日 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03321.html
※2 国交省「『建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会』の報告書について」、2022年1月14日 https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo09_hh_000047.html
※3 マーク・トウェイン "Chapters from My Autobiography", July 5, 1907. この記事によって一般に広まった言葉。正確に誰が言い出したかは不明。

Follow me!