賢い働き方

(2023.04.29)
4月26日に労働政策審議会の「労働政策基本部会報告書」が公表されました。
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32734.html)

これは「加速する社会・経済の変化の中での労働政策の課題」をテーマとして、ほぼ1年がかりで議論を重ねた結果で、次回の労働政策審議会に報告される予定です。今後、労働政策に関する基本的な考え方をまとめたものとして、他の審議会とも情報共有されていきます。

●COVID-19による社会の変化
2019年末から世界に大流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2023年に入ってようやく落ち着きを見せてきました。
働き方についての大きな変化は、この間にテレワークが普及したことです。通勤をしないで、自宅で仕事をするというスタイルが社会に定着しました。最初はWeb会議にとまどっていた人たちも、今はなんとかなっています。再びオフィスに出勤する姿が戻ってきましたが、100%というわけではなさそうです。テレワークの良さを実感した人たちが増えたということでしょう。
そういう社会の変化を前提として、次のような提案をまとめています。

●3つの分析
この報告書は、(1)人材育成とリスキリング、(2)人事制度、(3)労働移動化の3項目について分析しています。
(1)人材育成とリスキリングについては、企業側は変化に対応するため必要となるスキルを考え、労働者側は変化を前向きに捉えることが重要と書いています。
(2)人事制度については、ジョブ型人事への動きがあることと、特に大企業では従来のメンバーシップ型人事との間で折衷的な制度を模索していることに触れています。
(3)労働移動については、より良い条件の仕事に就くことができるチャンスでもあるので、ポジティブにとらえていく必要があること、転職を希望する労働者が、内部労働市場(社内での流動化)と外部労働市場(企業間での流動化)を行き来できるシームレスな労働市場を整備する必要性を述べています。

●4つの政策課題
その上で、今後の労働政策に求められることを4点にまとめています。
(1)企業に求められる対応としては、リスキリングの必要性を明確にした上で、経営者、マネージャー、現場労働者の全てのレベルで、能力開発の動機付け・環境整備が必要としています。また、中間管理職のマネジメント業務が大きく変化・増加していることをふまえて、マネジメント研修の見直しや管理職の業務負担の軽減を図ることを重視しています。
(2)労働者に求められる対応としては、変化を前向きに捉えて対応していくこと、労働者自らが自律的にキャリア形成や学びを深めていくことの重要性を述べています。
(3)労働政策における対応としては、今は労働政策の大きな転換期にあり、従来の「安全・安心」を重視する対応に加え、「労働市場のセーフティネットを整備しつつ、労働者のスキルアップ・向上を目指す」ことを重視していくべきとしています。
(4)社会全体に求められる対応として、一人ひとりが自律的にキャリアについて考えることが大事であるとしています。

●部屋の中の象
高度成長期以来、日本の企業は右肩上がりの経済を前提として、人材を終身雇用という形で囲い込んできました。それがバブル期以降、社員の内部留保でなんとか維持してきた終身雇用もそろそろ限界にきました。そういう現状はこの報告書の中でも記述されています。
今から思えば、バブル崩壊とともに、早々に終身雇用や新卒一括採用を見直して、人材流動化を進めるべきでした。「成果主義」のときのように、流行りに乗った一部の大手企業からそのような人材流動化の動きが見えれば、次々にそれに追随する企業も増えたと思います。そうすれば「就職氷河期」と呼ばれる世代が発生して社会問題化する前に、少し状況が変わっていたのではないでしょうか。
ほぼ確実に今の情勢になることが予測されていたにもかかわらず、日本の企業、行政、立法とも後手に回ったことは事実です。あまりにも大きい問題は無視されるThe elephant in the room)ということわざ通りです。
この報告書の提言内容はもっともなものですが、30年前に出てほしかったと思います。

●自分のキャリアは自分で考える
日本が直面している少子高齢化は、働く人間にとっては追い風となるはずです。どういう分野で人手不足が生じているか、どういうスキルが求められているか、を見てゆけば、けっこううまく世を渡っていけるのではないかと思えます。ものは考えようです。これからは、労働者はもっと賢い働き方をしたほうがよいでしょう。■

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