こども家庭庁 始動
(2023.04.25)
4月1日に「こども家庭庁」が発足し、4月21日には第1回のこども家庭審議会が開催されました。
(https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/2AeUuBkX/)
これまでの有識者会議とこども家庭庁の経緯は次の通りです。
2021年11月 | 有識者会議からこども政策第1次報告書提出(※1) |
2021年12月 | こども政策の基本方針閣議決定(※2) |
2022年6月 | こども基本法成立(2023年4月施行) |
2023年3月 | 有識者会議からこども政策第2次報告書提出(※3) |
2023年4月 | こども家庭庁発足、こども家庭審議会設置 |
(2023年秋) | こども大綱策定(予定) |
●「こども大綱」
これからはおおよそ5年間の基本計画に相当する「こども大綱」を策定するタイミングになっています。
こども大綱は、基本的な方針や重要事項等について定めるものであり、これまでの少子化社会対策大綱、子供・若者育成支援推進大綱、子供の貧困対策に関する大綱(以下「既存3大綱」という。)の内容を含めて、従来の政策を着実に継承・統合・発展させるものでなければなりません。
内閣総理大臣を会長とする「こども政策推進会議」の下で、こどもや若者、子育て当事者、学識経験者、地域においてこどもに関する支援を行う民間団体等の関係者の意見を聴き、反映させながら、こども大綱の案を策定し、2023年秋頃に閣議決定する予定となっています。
●「こども家庭審議会」
諮問会議である「こども家庭審議会」(委員25名)はたいへん幅広い議論をしなければならないため、次の8つの部会に分かれて、テーマごとに審議をおこないます。それぞれの部会には数十名の委員が指名されています。部会一つ一つにこども家庭庁の担当課が付きます。
・基本政策部会
・幼児期までのこどもの育ち部会
・こどもの居場所部会
・科学技術部会
・社会的養育・家庭支援部会
・児童虐待防止対策部会
・障害児支援部会
・こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会
それにしてもテーマの幅が広い。こどもの問題は大人社会の縮図でもあるということがよくわかります。今まで大人目線でしか政策を見てこなかったのを、こども目線に切り換えると、日本社会が抱える大きな課題が浮彫りになってきます。
●ワンオペ育児は日本の大損失
たとえば、育児が妻一人の仕事になっている状況は、経済的・社会的な面から見ても大きな損失と考えられます。女性が正規雇用のキャリアをあきらめなければいけない、パート雇用であっても育児との両立が難しい、相談相手のいない孤独感など。三世代同居とか隣近所の助け合いがあり得た昭和時代の生活パターンが、そのままの形で続けられるわけがありません。妻だけにしわ寄せがいくパターンはもはや時代遅れと言えます。
家庭所得から見ても、夫婦とも正規雇用で共働きをするのが、最も収入が多くなるという調査結果もあります。
以下は「こども大綱」の策定に向け、小倉こども政策担当大臣らが財政・社会保障分野の有識者と意見交換をおこなった際に、熊谷亮丸氏(大和総研)からの説明(※4)の一部です。
- 夫婦とも正規雇用で共働きの場合 ⇒生涯賃金の増加は(妻が出産後パート復職と比較して)5千万円~1億円に及ぶ
- 同じ30歳台4人世帯でも、片働きやパート雇用の世帯では可処分所得が伸び悩み ⇒「夫婦とも正規雇用で共働き」が子育て世帯の所得として理想
- 妻が育児と仕事の「両立コース」で社会保険加入、認可保育所、職場復帰した場合 ⇒601万円~929万円の支援が得られる
- 妻が「再就職コース」「専業主婦コース」で3歳まで再就職をしなかった場合 ⇒児童手当のみの69万円の支援にとどまる
●ベビーカーマーク
国交省が4月21日付けで「ベビーカー利用に関するキャンペーン」(※6)を出しています。実は2014年から十年近く、継続的な普及・啓発活動をおこなってきているのですが、残念ながら、私自身も”ベビーカーマーク”についてはあまり印象に残っていません。
今だに電車やバスでのちょっとしたベビーカー・トラブルの話題が出てくるというのは、啓発活動についてまだ改善の余地がありそうです。
ベビーカーに限らず、他の施策についても、こども家庭庁発足の話題と連携して、もっとうまく機運を高めることもできそうな気がします。
●日本2.0に向けた発火点になるか
それやこれや、こどもを起点として日本の社会のあるべき姿(ビジョン)を考えれば、改革の方向はある程度見えてくるのではないでしょうか。こどもたちへ公平に十分な資源を投入することに対しては、国民の納得は得やすいはずです。
日本のOS(※5)をそっくり2.0にバージョンアップしなければならない時期です。働き方改革はじめ、税金、保険、教育など、弥縫的な修正ではもはや限界に達している制度を、こども政策を契機に一気に見直す機運が高まってほしいと思います。
”なぜ遅くまで会社にいるの?”というこどもの質問に、正しく答えられる大人はいるでしょうか。■
※1 「こども政策の推進に係る有識者会議報告書」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d347b714-d9a4-4ad8-afb7-738920af4cf3/e4570802/211129_hokokusho.pdf
※2 「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku/pdf/kihon_housin.pdf
※3 「こども政策の推進に係る有識者会議第2次報告書~「こども大綱」の策定に向けた論点~」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d347b714-d9a4-4ad8-afb7-738920af4cf3/2ffaa5fd/20230328_councils_seisaku_yushikisha_houkokusho_02.pdf
※4 小倉こども政策担当大臣が「財政・社会保障」について5名の有識者と意見交換(2022年12月13日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_kankei_yushikisha/pdf/zaisei_syakai_siryou2.pdf
※5 Operating System. 本来はコンピューターの基本システムの意味。ここでは国や社会を動かしている基本的な仕組みや考え方を指します。今の日本のOSは昭和の高度成長期に形成され、その時代に適合したものと言えます。終身雇用、春闘、専業主婦など。
※6 https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000356.html