無形のものの価値
(2023.06.16)
6月9日に、知的財産戦略本部会合が開催され、「知的財産推進計画2023」が決定されました。
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/230609/gijisidai.html)
”~多様なプレイヤーが世の中の知的財産の利用価値を最大限に引き出す社会に向けて~”という副題が付いていて、知財をいかに活用するかに力点を置いて今回の計画が作られています。
●計画2022から計画2023へ
毎年策定されている計画なので、各年の計画書を比較すると、どの項目が新しく加わったか、論調がどのように変わったかを見ることができます。
目次だけピックアップしてみると、下記のように2と3が追加になっています(★印)。
(2023)
1.スタートアップ・大学の知財エコシステムの強化
2.多様なプレイヤーが対等に参画できるオープンイノベーションに対応した知財の活用★
3.急速に発展する生成AI時代における知財の在り方★
4.知財・無形資産の投資・活用促進メカニズムの強化
5.標準の戦略的活用の推進
6.デジタル社会の実現に向けたデータ流通・利活用環境の整備
7.デジタル時代のコンテンツ戦略
8.中小企業/地方(地域)/農林水産業分野の知財活用強化
9.知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化
10.クールジャパン戦略の本格稼働と進化
●オープンイノベーション
2は特にオープンイノベーションを中心に、無形資産のガバナンス、ライセンスのマッチング、人材育成を論じています。これまでの知財戦略においても、これらの事柄は部分的には記載がありましたが、主軸としてとらえたのは今年です。
知財、特に特許は発明者の権利を保護すると同時に、社会に技術を公開して広く利用してもらうという前提があります。それにはオープンイノベーションという概念がぴったりと合います。
●生成AI
3はまさしく急速に展開してきた新しい技術に関するものです。2022年11月にリリースされたChatGPT(※1)の利用は、あっというまに拡がりました。マスメディアに取り上げられ、あたかも人工知能が人間を凌駕するかのようなレポートが飛び交っています。昨年の計画2022にはこのようなAIの進展が知的財産に及ぼす影響にはまったく触れられていませんでした。
チャットに限らず、画像、音声など多様な形で”自動生成”されたコンテンツは、人間が創造し、また模倣することを暗黙の前提としてきた著作権の世界に一石を投じています。
●使うか、使われるか
かつて「ELIZA」(※2)というオウム返しをする簡単なプログラムをいじっていた記憶を持つ者にとって、ChatGPTの出来の良さには隔世の感があります。同時に、ChatGPTは人間にとって”かな漢字変換”と同類の補助ツールなのか、まったく別次元の対話”相手”なのか、判然としない気持ちも沸いてきます。
”かな漢字変換”もずいぶん有益なツールですが、ときたま人間も見過ごす誤変換をして、後で恥をかくということはよくあります。ChatGPTが誤った知識を披露する可能性が高いことを考えると、まだ誤変換の多いかな漢字変換のレベルと考えておくべきでしょう。しかし、プログラムのサンプルコーディングのような例ではけっこう使えるといわれます(※3)。
有能な生成AIを、われわれ人間はどう使うのか、考えるべき時期になってきました。いつの間にか、AIに”使われていた”とならないために。■
※1 Chat Generative Pre-trained Transformer. OpenAIが開発した人工知能チャットボット。
※2 MITのジョセフ・ワイゼンバウムが1964年から1966年にかけてELIZAを書き上げた。いわゆる人工無脳の起源となったソフトウェア。人間の思考や感情についてほとんど何の情報も持っていないが、驚くほど人間っぽい対話をすることがあった。(Wikipediaより)
※3 たとえば「プログラマのためのChatGPT活用 - コーディング編 -」 https://qiita.com/devneko/items/0dc9fd8b37419d9e369c