いのべぇしょん
(2023.05.14)
5月9日に経産省で産業構造審議会 産業技術環境分科会「研究開発・イノベーション小委員会」第31回が開催されました。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/031.html)
経産省系の審議会、特にこういう産業全体を見渡すような議題については、審議会の下部組織の分科会でも足りず、さらに下に小委員会を設置して、詳しく議論しています。
分科会は昨年(2022年)6月開催、親会議の産業構造審議会は昨年8月開催が最後でしたので、実質的な意見交換はこの小委員会レベルでおこなわれているようです。
(※しかし分科会、小委員会と話題を分けて議論することは実務上やむを得ないと思いますが、異なる小委員会で同じような議論がなされるといった重複の無駄が多そうな気がします。テーマが大きければ大きいほど、議論の幅と深さが反比例しがちです。)
この「研究開発・イノベーション小委員会」は昨年(2022年)3月にいったん締めくくった後、今年(2023年)2月の第26回から新体制で再スタートしました。
最近の気候変動問題、経済安全保障、経済的格差問題など次々に出てくる課題に対して、日本のイノベーションのあり方を議論し続ける必要があります。
特に今回の議論はイノベーションの「循環」という概念を取り入れて、その担い手に着目している点が斬新とされています。
5月に入って、そろそろ議論を資料の形でまとめる時期になりました。「イノベーション循環を推進する政策の方向性」(案)という仮題が付いています。
●イノベーション循環とは
社会へ展開したイノベーションの成果が研究開発はじめ人材や設備への投資の形で還流してくること。
(※循環の概念自体はイノベーション・エコシステムという言葉の中にすでに包含されていると考えられますが、経産省的には新しいということです。)
そのイノベーション循環の重要な側面として、
- イノベーションの担い手
- イノベーション・プロセスにおける課題
- 社会的課題解決(ミッション実現)のためのイノベーション
の3つを議論し、次の6つの政策領域を展開します。
- スタートアップ・ファースト!
- 人材と知的資本の創造
- 市場創造への集中支援
- 挑戦と失敗を増やす
- ミッション志向型イノベーション政策への転換
- 国家戦略としての計算基盤・汎用技術の強化
これら6の領域で従来の政策+新規の政策を具体的に進めるようという計画です。
討議内容が幅広いため、どうしてもこういう委員会の議論は発散しがちですが、委員の皆さんはそれぞれの立場から鋭く意見を述べています。
●議事要旨(※1)から(第30回4月24日開催)
- 公共調達との結びつきを強化してほしい。政策的には一番効き目がある。
- 資本の議論の中で「知的資産」を強調してほしい。大企業が経済資本を抱えている一方で、スタートアップは知的資産の生産に励むとか。サッカーのレンタル移籍のような発想ではどうか。
- 今や、社会的課題解決については、若手のほうが真剣に向き合っている。
- 全体として総花的で、5年後もうまくいっていない気がする。施策の中でうまくゆきそうなもの、チャレンジなものを分けてみてはどうか。
- 人的資本について、米国では、スタートアップを行うと儲かる、楽しい、といった点が、大きなインセンティブになっている。
●続けることに意義がある
研究開発とかイノベーションというテーマを議題にとりあげると、とても結論が出るとは思えません。しかし「日本にとって研究開発やイノベーションがなぜ大切なのか」を常に問いかけ続けることが大事だと思います。欧米の潮流にただ乗っかるだけで過ごしてきた戦後(古い!)世代には、このような難しいテーマを考える力はありません。
おそらく正解はないと思いますが、日本人自らの頭で、日本流のイノベーションを作っていかなければならないでしょう。試行錯誤が必要です。そのために、時間と気力を持ち合わせた若い人たちが、存分に動ける環境を作ること、が最も有効な政策のはずです。
●青空が見えた頃
終戦直後に公職追放等のGHQ政策によって、企業の経営者層や官僚層が一気に若返ったとき、それまで押さえつけていた天井が抜けて、上に青空が見えた気分だったでしょうね。(原田はその世代ではありませんが。)
その中から伸びていったのがホンダ、ソニーといえます。
逆に日本において、そういうイノベーティブな企業が生まれ出るためには、上の層が抜けて青天井となることが必要?かもしれません。■
※1 議事要旨 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/pdf/030_gijiyoshi.pdf