旅行と観光(3)~インバウンド効果~

(2025.03.09)
旅行と観光のシリーズ第3回は、1月15日に発表された「インバウンド消費動向調査 2024年暦年の調査結果(速報)の概要」[1]を取り上げます。
第2回では日本人の旅行消費に触れましたが、そのインバウンド版です。2024年確報は3月31日に公表される予定です。
◆調査の概要
「インバウンド消費動向調査」[2]は2024年度からの名称で、それまでは「訪日外国人消費動向調査」とよばれていました。(わざわざ改称する必要があったのでしょうか。)
訪日外国人の消費動向を、A1全国調査、B1地域調査、B2クルーズ調査の3つの調査から把握しようとするもので、4半期ごとに実施されます。いずれも日本を出国する外国人を対象としています。
表1に調査の概要をまとめました。
調査名 | 調査地点 | 目標サンプル数(1四半期) | 主な調査項目 |
A1全国調査 | 全国17ヶ所の空海港の国際線出発ロビー | 6,900票 | 滞在中の費目別支出、免税手続状況、その他意識調査(満足度等) |
B1地域調査 | 全国25ヶ所の空海港の国際線出発ロビー | 24,620票 | 訪問地ごとの費目別支出、交通手段、決済方法、その他意識調査 |
B2クルーズ調査 | 博多・長崎・那覇・平良・石垣の各港 | 1,390票 | 寄港地ごとの費目別支出、クルーズ船料金等 |
いずれの調査でも、外国語会話のできる調査員がタブレット端末か紙調査票を用いてその場で聞き取り調査をおこなうので、かなり精度の高い回答が期待できます。12か国語に対応しています。
B1地域調査は地域によって訪問者数が大きく異なることを考慮して、詳細度が異なる2段階の質問方法をとっています。
◆2024年の状況
速報に沿って昨年(2024年)の調査結果を表2と図1に示します。
項目 | 全体 | 2023年比 | 2019年比 |
旅行消費額 | 8兆1,395億円 | 53.4%増 | 69.1%増 |
1人当たり旅行支出 | 22万7千円 | 6.8%増 | 43.3%増 |

図1において、2019年、2023年、2024年の経年変化をみると、いろいろ興味深い現象が見て取れます。
まず中国の大幅な消費額増加が目立ちます。韓国、台湾の人も消費額を大きく伸ばしています。
これは日本政府観光局が集計している実際の訪日人数[3]を見ても納得できます(図2)。
また先に「旅行と観光」(3月2日)の図3(外国人宿泊者数の推移(国籍別))でも同様な状況を示しました。

◆国籍、訪日回数による違い
もう少し詳しく消費の傾向を見ると、国籍や訪問回数によって消費行動が異なることがわかります[4]。(この資料は2023年調査を元にしています。)
アジアの近隣諸国(韓国、中国、台湾など)は距離的に近いためか、何回も来日することが多く、その分、一回あたりの滞在日数は他の国に比べると短いようです。
リピート回数が増えるごとに、どの国の人も消費額が増加していることが見えます。
面白いのは、初めて来日した際にどの都市を訪問するかを調べると、韓国・中国・台湾の人は大阪・京都を選ぶことです。欧州や米国の人は東京です。観光のコースが違うのでしょうか。
◆現代にあう観光コースの設計
各地で観光客(特に外国人)が増えて、思わぬ所で混雑したり、マナーの違いによるトラブルも頻発しています。
もちろん商売のためには客が多いほうがよいですが、短期間に需要が高まっても、供給側は対応できません。緩和策が必要です。
長い目で見ると、地方の魅力を開発すること、そのための交通・宿泊施設の整備をおこなうこと、が重要になってきます。
都市部と地方との間で観光客に巡回してもらい、一カ所で過密にならないような工夫はありそうです。点から線へ、さらに面で観光を考えていくことが大事でしょう。
そういう設計は昔であれば観光会社がコースをお膳立てして、団体客を引率するような形でした。今はSNSを通じて、個人レベルで観光コースを自作できる環境ができています。インフルエンサーが隠れた各地の魅力を発信して、それに惹かれて来日するという人も多いようです。
いろいろなツールをガイド役として駆使するということも大事な点です。
◆かたや日本人はひきこもり
日本の良さや魅力が海外から注目されています。
しかし、あまりに日本国内の居心地がよいので、日本人は海外に出なくなったとも言われます。
円安や不景気感も影響しているのでしょう。”世界で最強”とされる日本のパスポートも、国民の保有率は17.5%まで低下しました[5]。これこそ宝の持ち腐れといえます。
かくいう筆者のパスポートも有効期限が切れてしまいました。皮肉にも、歩いてゆける距離にパスポートセンターがあるのに、まだ更新していません。■
[1] インバウンド消費動向調査 2024年暦年の調査結果(速報)の概要 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001856155.pdf
[2] インバウンド消費動向調査の概要 https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001859877.pdf
[3] 日本政府観光局(JNTO) 国籍/月別 訪日外客数(2003年~2025年) https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20250219_1615-5.xlsx
[4] 訪日外国人旅行者の訪日回数と消費動向の関係について https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001853728.pdf
[5] 「パスポート保有率低迷 「世界最強」でも6人に1人どまり」、日本経済新聞(2025年2月21日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO86874640Q5A220C2PD0000/