顔写真がない保険証

(2024.12.03)
11月29日に、デジタル庁から「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律施行規則の一部を改正する命令」案に係る意見募集の結果が公表されました。
https://www.digital.go.jp/news/80525c52-4ae4-4ee8-b25a-95d4c9eb30e1

●「預貯金口座付番」
この長いタイトルの前半だけ取り出すと、要するに「預貯金口座付番」のことを指します。金融機関へマイナンバーを届出する制度です(※1)。つまり、
(1) 預貯金者の意思に基づいて
(2) 預貯金口座にマイナンバーを付ける
ことを意味します。
(1)の条件をことさら強調しているのがおかしいですね。
強制ではなく、あくまでも自由意思で登録するという点が重要なのです。

今のところ、金融機関へのマイナンバー届出が義務となっているのは、投資信託や財形貯蓄等の取引を申し込む場合が該当します。金融機関にこれらの申込みをする際には、必ずマイナンバー届出が求められるわけです。
一方、普通預金や定期預金の開設にあたっては、「届出の協力」を依頼されるにとどまり、強制ではありません。

この制度のメリットは、相続の発生時や災害発生時に、預貯金口座を個人に紐づけて検索できるという点です。一つの金融機関にマイナンバーを届けると、他の金融機関の口座も自動的に紐づけされます。

「休眠預金」(2024年11月15日)に書いたように、現在、わが国では個人名で預金口座を横断的に検索するシステムは存在しません。しかし、この預貯金口座付番によれば、本人が申請すれば口座の紐づけを自動的にしてくれます。とりあえず自分の口座のことだけ考えておけばよいというわけです。

●法律を動かすためのさらなる規則
国会で「預貯金者の意思の基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(令和三年法律第三十九号)が可決されて施行されました。
しかし、具体的な実施方法は「施行規則」として、法律で委任された担当省庁の大臣が決めます。「預貯金者の意思に~」法律施行規則については、内閣府・デジタル庁・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省が連名で担当して施行規則を決めています。
その「施行規則」を改正するために大臣が命じるのが「命令」です。

●今回の改正ポイント
もう一度、タイトルに戻ると、タイトル後半の改正が何を指すかが重要です。
今回の改正のポイントは、「預貯金口座付番」の届出をする際の本人確認書類に係わります。
従来の健康保険証等が廃止されるにともない、従来の保険証を「写真が付いていない書類」(単独では本人確認書類とならない)と再定義するものです。さらに年少のため顔写真のないマイナンバーカードも同じ扱いです。

●パブリック・コメント(パブコメ)
各省がそれぞれ「命令」を出そうとする際に、一般市民が意見を述べる機会があります。これを「意見公募手続(パブリック・コメント)」といいます(※2)。
今回の改正に対するパブコメは、2024年8月30日に公示され、9月30日に締め切られました。その結果が11月29日に公表されたというわけです。
このパブコメの内容を”反映”させた上で、12月2日(従来の健康保険証の新規発行停止日)にこの命令は施行されました。

●市民からどんな意見が出たのか
今回の意見公募では計10件の意見が提出されたそうです。この件数を多いと見るか、少ないと見るか。
わざわざデジタル庁の意見公募のホームページにアクセスして、改正の説明を読み、自分の意見を書き込むという作業は、けっこうめんどうです。忙しい中で時間をとってパブコメを書くのは容易ではないでしょう。10件でも貴重だと思います。
一部を転載します。

意見(概要)の一部意見に対するデジタル庁の考え方 一部
(1)本案はマイナンバーによる預貯金口座の管理を政府が勧めたいみたいですが個人情報保護の懸念があります。とは言っても預貯金口座を何らかの犯罪利用されるのを見過ごす訳には行かないので施行するならば個人情報保護をしっかり行ってください。
(2)日本政府がマイナンバーカードを推し進めるのであれば頑強なセキュリティにし個人情報の漏洩を防いでください。
(3)マイナンバーカードに当たっては、個人情報の流出など、安全性が未だ確保されていない状況で、急いで制度を変えることにはメリットがないばかりか、医療現場などでの混乱というデメリットが上回っている。こういう解決もないまま、急ぐことは、混乱を生み出すだけで、賛成できない。
マイナンバーは、その利用範囲は法令又は条例で定められた行政事務に限定するとともに、 行政機関等の保有する個人情報についてはー 元管理をせず、各行政機関等で分散管理し、情報連携の際にも機関ごとに異なる符号を利用するなど、個人情報がいわば芋づる式に抜き出せない仕組みとすることなど、個人情報保護に十分配慮した仕組みとしています。

上のような中身(※3)を読むと、やはり「マイナンバー制度は良くない」、「プライバシーへの配慮が必要だ」といった漠然とした意見が大半を占めているのが実態です。反対に「犯罪抑止のために必要だ」という意見も見られました。
それに対して右欄の回答は、意見に対して省庁としての見解を正しく伝えようという文章です。いわゆるお役所文書の典型ですが、それはそれで誠実です。意見公募を締め切ってからほぼ2ヶ月近く、デジタル庁の担当者はこの見解文を念入りに作成したことでしょう。
今回の改正ポイントである「顔写真の付いていない書類」の扱いについて、具体的な問題指摘が出てこなかったのは、やや残念な印象です。

●「何でもできること」への不安
マイナンバーカードを使うといろいろな情報をいっぺんに検索できます、という表現は、技術に不慣れな人に対して、ある種の恐怖感を抱かせるものと思います。
不慣れな自分がほんの少し間違っただけで、自分の情報がすべて外部に出てしまうのではないか、だから触るのが怖い、といった感覚です。

それでも現実はどんどん進んでいきます。
健康保険証や運転免許証もマイナンバーカードに一体化していき、従来の紙/プラスチックのカードはいずれ使えなくなります。
そのときまでに、どうしてもデジタル化に対応できない人(高齢者や障害者等)に適切な代替手段を用意して、”誰一人取り残さない”ようにすることが、デジタル化政策を推進する政府の責任でしょう。■

※1 口座管理制度 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/04f27e76-a9d0-4deb-90f2-99cb6a22e5b4/88aa6d00/20240502_policies_mynumber_explanation_03.pdf
※2 e-Gov パブリック・コメント https://public-comment.e-gov.go.jp/contents/about-public-comment
※3 結果概要・別紙1 https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000283090

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