空の玄関の実状
(2023.06.11)
6月9日に、国交省から「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会」中間とりまとめが公表されました。
(https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku05_hh_000203.html)
副題が「~誇りをもって、笑顔で働き続けられる業界へ!!~」という、力のこもった報告書です。
この検討会では、航空機の運航に不可欠な空港業務(グランドハンドリング・保安検査)の持続的な発展に向け、人材確保やDX化・GX化などについて地域の関係者一丸となった取組を推進していくため、本年2月に「持続的な発展に向けた空港業務のあり方検討会」を立ち上げ、検討を実施してきました。
これまで計7回の検討会で、空港業務の関係者からヒアリングを重ねてきた結果をまとめたのが、この報告書です。
●空の旅の変化
1990年のバブル景気の頃に、海外旅行も一気に大衆化したと思います。それに伴い、航空便数の増加と運賃競争も進みました。
高度成長期に、あこがれの職業の一つだった”スチュワーデス”(死語、現在はフライトアテンダント)の人気も、バブル期を境として、航空会社のコスト削減策による労働強化や、テロの危険性も相まって、急速に陰っていきました。
追い打ちをかけたのがCOVID-19で、これによって航空業界はほぼ壊滅の状態に追い込まれました。
●空港業務の課題
実際に飛行機に搭乗する操縦士やフライトアテンダント以外にも、空港には大勢のスタッフがいます。
具体的には、旅客の窓口担当や荷物の集配を担当する「グランドハンドリング」(グラハンと略称)と、旅客と荷物に対する「保安検査業務」があります。前者の担当は航空会社の従業員、後者の担当は法律にもとづく専門要員です。
この報告書では、現在の空港業務を「働き方」「需要変動」「多様な人材」「イノベーション」「各空港ごとの対応」「官民の連携」という6つの視点から課題を整理しています。
その結果、次のような課題が明らかになってきました(主なもののみ)。
- 賃金の安さ
- 長時間労働、それに伴い子育て世代の離職
- 業界の不安定なイメージ
- 航空会社撤退のリスクはグラハン会社に集中
- 人員や機材の融通がしにくい
- 特定技能者の配置、男女比の偏り
- 多重委託契約や雇用慣行による処遇改善の壁
- 地方公共団体の支援が誘致に偏り、 等々
●敬遠される職場
空港のグラハンや保安検査などは、空港の華やかなイメージとは違って、労働環境は厳しいものです。
グラハン人員数は、約26,300人(2019年3月)から約21,600人(2022年12月)まで2割減です。保安検査員の人数も約7,200人(2019年4月)から5,700人(2023年3月)まで2割も減で、元の水準まで戻っていません。保安検査員が不足して、空港内が渋滞したというニュースもありました(※1)。
また若手が多い職場ではあるものの、給与水準は類似業種と比較して低い水準となっているようです。若者から敬遠される労働環境も見受けられます(※2)。
●地域振興としての側面
特に地方空港の場合に問題が顕在化しやすい傾向があります。
もともと地方空港は便数が少ない上、専門スタッフも不足気味です。
異なる航空会社から委託を受けている、地域グラハン会社の従業員が、別々の航空会社の制服を着て仕事をしているという、派遣会社特有の光景は珍しくもありません。
また航空会社の就航が長期安定ではないため、地域の人材や産業を含めたエコ・システムが成立しにくいという問題もあります。空港が地域の地場産業の中核になりきれていないということです。
国や地方公共団体がいくらインバウンド需要をもくろんでいても、交通インフラがボトルネックになっていては話になりません。そのインフラを支えているのは、各地域の人材であることが忘れられていないでしょうか。■
※1 日経新聞「福岡空港で人材急募 保安検査員4割不足、長蛇の列も」(2023年1月30日)
※2 休憩室が屋外、専用の女子更衣室がない、休憩スペースと更衣室が同じ、など。