動かないものを動かす
(2023.03.27)
不動産とは土地や建物などの”動かない”資産を指します。安定していて、それなりの高額な資産といえます。
高度成長時代には、土地をどんどん開発し、そこに工場や住宅地を作り、その所有者が大きな資産を形成するという図式がありました。しかし、今や日本国内ではこの拡大傾向が反転して、縮小傾向になってきたわけです。かつての不動産は”負動産”とまで言われるようになりました。
このような不動産のありようが社会の活力を削いで、重荷になっているのではないかという問題意識に立って、次のような動きが出てきました。
●投資先を”動かす”
3月24日に国交省より「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンスが発表されました(※1)。
社会の変化にともなって、投資先や融資先に対してESG(※2)への配慮を求める動きが拡大しています。社会課題に対応する良質な不動産ストックの形成に役立つように、投資や情報開示、事業実施が促進される方法についての手引書といえます。
ただし、不動産が社会的価値向上に資するとの認識はまだまだ一般的とはいえず、企業と投資家・金融機関との対話(資金対話)と、企業等と利活用者・地域社会等との対話(事業対話)の2つの対話が不可欠と述べています。
不動産を評価する際に何の評価尺度を重視するかという点に尽きるでしょう。このガイダンスの中では、「ヒト、地域、地球環境」に関わる課題解決を想定して、それらにSDGsの各ゴールを対応付けています。
このような対応表があれば、不動産がどの観点から評価され得るか、わかりやすくなります。
たとえば多様な働き方実現のために、サテライトオフィスや子育て支援施設の整備は高く評価されますし、景観に配慮した不動産や緑地の整備は健康と福祉の面で評価されます。
これからは、いわゆる「乱開発」という言葉はもう聞きたくないものです。
●空き家を”動かす”
3月14日の総務省地方財政審議会(※3)では、京都市の法定外普通税「非居住住宅利活用促進税」の新設について審議されました。地方税法により、市町村が法定外普通税を新設する場合には、あらかじめ総務大臣の同意(すなわち地方財政審議会の同意)が必要です。
最近の京都市では少子高齢化の進展による空き家の増加と、「若年・子育て層」市外流出が問題化しているそうです。特に京都市の場合、建築基準が厳しいため、住居用マンションの提供が追いつかないという事情もあるようです。そこでこの2つの問題を一気に解決する手段として、家屋に対して固定資産税の評価額の0.7%と、土地に対して床面積に応じた0.15~0.6%の上乗せをおこなうものです。要するに、所有するだけで住んでいない不動産は、どんどん”動かして”ほしいという政策です。これにより、市中の空き家売却や賃貸化が進むともに、京都市に9億円程度の増収が見込めるとのこと。(実際には物件確認などのために4億円程度の費用がかかる。)
地方財政審議会では、昭和時代の固定資産税の制限税率(2.1%)を考えると、今回の新税が「著しく過重」とは認められない、と判断してGOサインを出しました。
実施は2026年度以降となるようです。
このような動きはこれからもどんどん増えてくるでしょう。地方の人口減少は進行し、地方財政は逼迫しています。地方が率先して、これまでの制度を見直して、新しい方向へ”動かす”ことがトレンドになっていくと思います。それに応じて、居住や財産の考え方も変化していくでしょう。■
※1 https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo05_hh_000001_00101.html
※2 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動
※3 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/chizai/02zaisei02_04001397_00453.html