消防団

(2024.09.01)
8月30日に、消防庁より「消防団の組織概要等に関する調査(令和6年度)」の結果が公表されました(※1)。
ちょうど9月1日が「防災の日」ということでもあり、わが国の消防行政、特に消防団について少し調べてみました。

●防災の日
いうまでもなく、9月1日は1923年に関東大震災が起きた日です。昨年はちょうど百年を迎えました。
また例年のこの時期は台風シーズンでもあり、防災に対する意識を再認識する機会として、9月1日が防災の日と決まったそうです。今、まさに台風10号(サンサン)がノロノロと迷走しながら、日本列島に膨大な雨を降らせている状況です。
日常的な火事や事故だけでなく、地震、津波、台風、大雪、火山噴火等の自然災害のデパートのような国土に住んでいる日本人にとって、防災というものは命と財産を守るために最も身近なものです。
その防災に対して正面から対応している行政組織が、消防本部と消防団です。

●消防庁、消防本部、消防署、消防団
国の組織としては総務省に消防庁があります。
しかし消防庁は政策的な企画管理を主としており、実際の消防活動を担うのは、市町村に置かれた消防本部です(※3)。
そして消防本部の下に消防署があります。
2023年4月1日時点で、全国に消防本部722、消防署1,714が設置されています(※4)。
実は消防本部や消防署といった組織が「常備」されたのは最近のこと(1970年代)です。
これに対して、消防団は「非常備」の組織として、ことが起きた際に即座に結集して対応にあたります。消防団員は、他に本業を持ちながらも、権限と責任を有する非常勤特別職の地方公務員という位置づけです。消防団は全ての市町村に設置されていて、全国で2,177団、消防団員数は76万2,670人となっています(※4)。
大多数の市町村では、消防本部という「常備」組織と、消防団の「非常備」組織が併存していますが、消防団しか持たない町村がわずかに残っています。

●消防団の現状
今年4月1日の時点では、消防団の団員数はさらに1万6千人近く減少して、74万7千人となりました(※1)。
日本全体の少子高齢化傾向の中では、この推移はやむを得ないものかもしれません。
特に地方の小集落では人口自体が減っている上に、高齢者ばかりとなっていて、とても消防団を強化する状況ではなさそうです。
また消防の特性として、職住接近している人でないと緊急時に活動できないという制約があります。それを考えると、農林業や自宅での自営業に従事している人でないと、消防団員は務まらないということになります。片道1時間もかけて通勤しているサラリーマンには無理です。

●集落社会の縮図だった消防団
かつては集落の消防団組織は自治組織の一部として違和感なく運営されていたでしょう。皆で消火活動や避難活動をおこなうのが集落の住人として当たり前であり、自分や家族にとってもメリットがありました。
しかし、それが人が減り、高齢化していくと共に形骸化して、ごく一部の古株による馴れ合い運営になりがちです。それが不正やいじめ等に結びつきやすい原因とも言われます(※5)。
実際に消防庁でも消防団員への報酬については危惧を持っています。消防団員の報酬は年額(固定)と出勤手当(随時)の2種類がありますが、それらが個人宛に支給されていたのは消防団数の42%、消防団宛に一括支給されていたのは15%、残りはそれらの中間だったという実態があります(※6)。一括支給された場合、報酬が団の中でどのように処理されたか不透明であるとのことです。(個人には報酬が渡らずに、すべて団の運営費になってしまった可能性もあり得ます。)
消防庁の検討会では、団員の士気向上と報酬の透明性の観点から、報酬がすべて団員個人宛に支給するよう改善をうながしています(※7)。

●片手間でもよい・・・
消防団員数の推移を見ると、毎年の退団者数はほぼ横ばいですが、入団者数が減っていることが全体の減少につながっている大きな要因のようです。
消防庁ではこれに対応して、女性や若者に消防団に入ってもらうことを強化しています。2025年度の概算要求では、そのための活動予算として7.7億円を計上しています(※8)。(もちろん国だけでなく、各市町村もそのような募集活動を強化しています。)
また本来の消防活動の周辺で支援してもらう「機能別団員」という制度も作り、「片手間」でもよいから消防活動に参加してもらう人を増やそうとしています。たとえば広報活動の一部として音楽隊の活動に参加するとか、バイク隊とかドローン隊のように特殊な技能によって協力してもらえる人を集めようとしています。
さいわい、この狙いはある程度当たって、この1年間で女性団員は+641人、学生団員は+560人、機能別団員は+2,890人の増加だったそうです(※1)。

●小さな支援の結集に期待
各地で発生した地震や水害の被災地に多くのボランティアが駆けつけることが増えています。それは、困った人を助けたいという熱意を持つ人がある程度の規模でいるという証拠でしょう。
ならば、集落の近隣からもそのようなボランティア志向の方々の協力を得ることは可能なような気がします。パソコンや情報ネットワークの扱いが得意な人、看護や保育の心得がある人等、自分でできる範囲で少しずつ支援する、ということであれば多くの人が消防団活動に参加してくれるのではないかと期待します。
また人手の不足をおぎなうために、新しい技術の導入もためらわないことです。
人の増加は望めなくとも、機械の導入は資金と技術があれば可能です。少子高齢化の縮図のような消防団活動に対して、技術革新で貢献できることは多いと思います。
100年前の関東大震災のときよりも、日本人は災害に強く、賢くなったと言われたいものです。■

※1 消防庁「消防団の組織概要等に関する調査(令和6年度)」 https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/6adf65678da7160d56e8f128d26b217b63f29448.pdf
※2 内閣府 防災情報のページ「関東大震災100年」特設ページ https://www.bousai.go.jp/kantou100/
※3 東京23区の消防本部は「東京消防庁」であり、名称がまぎらわしい。
※4 令和5年版消防白書 第2章第1節 https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r5/items/part2_section1.pdf
※5 「幽霊消防団員 日本のアンタッチャブル」(光文社新書、2021年5月)、「敏腕新聞記者が斬る!地域の消防団に潜む「日本の闇」」 https://shinsho.kobunsha.com/n/nd0644d2b9c86
※6 「消防団員の処遇等に関する検討会」第3回(2021年3月12日)資料4 https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-80/03/shiryou4.pdf
※7 「消防団員の処遇等に関する検討会」最終報告書-報酬編(2021年8月) https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-86/04/betten1.pdf
※8 消防庁「令和7年度消防庁予算概算要求について」(2024年8月) https://www.fdma.go.jp/about/others/items/reiwa7nendogaisanyokyu.pdf

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