Ethnographyはギリシア語のethnos(民族)、graphein(記述)の合成語で、民族誌学とも呼ばれます。エスノグラフィーはフィールドワークによって行動観察をし、その記録を残すという研究様式を意味しますが、もう少し狭く「参与観察」を指すこともあります。参与観察は調査者が対象者が活動する場に参加して観察するということです。
トヨタ改善方式のようなIndustry Engineering的な観察と、エスノグラフィ的観察はよく似ています。前者が目に見えるものを分析して、定型業務(工場業務)におけるムリ、ムラ、ムダを検出するのに対して、後者はコミュニケーションなど知的活動を分析して、デスクワークのような非定型の業務における潜在課題、暗黙知を抽出することに特徴があります。
2004年から原田は富士通社内の”ワークスタイル変革”というプロジェクトに入り、米国パロアルト・リサーチセンター(parc)との共同研究を始めました。当時、parc社はゼロックス社に属して、文化人類学の研究者を何人も雇い、参与観察手法を使ってOA機器等の改善をはかっていました。そのparcの文化人類学者5名が来日し、社内に3年間常駐してフィードワークを実施しました。この共同研究チームは多くの社内プロジェクトを観察し、改善を推進するとともに、そのフィールドワーク手法を体系化して、社員自らがフィールドワークを実行できるように拡大してゆきました。おそらく、ビジネスとして組織的にエスノグラフィーに取り組んだ、日本の中では最も早い事例になります(※)。
原田はこのフィールドワーク手法を社内のアイデア抽出会に応用して、簡単な質問票を作るだけで発明出願文書の質向上と期間短縮に効果を上げました。
※前川、他「フィードワークの事業化-富士通におけるサービスビジネスへの転換」、組織科学 Vol.42 No.4 pp.21-36 (2009)