技術者が足りない

(2023.03.19)
あちこちで人手が足りないという声が聞こえます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、サービス業を中心とした休業・廃業が増えて、COVID-19が終息しつつある今でも人手が戻ってこないという事情のようです。
それとは別の理由があると考えられるのは、電気など専門的な知識を持つ技術者が不足しているという話です。

技術者を巡る国会問答
少し前になりますが、国会の中で次のような問答がおこなわれていました(※1)。
野党のY委員からの「太陽光発電」に関する質問と、それに対する経産省系の参考人の回答です。(質問、回答とも私が要約したものです。)

議員の質問経産省参考人の答弁
(質問)太陽光発電のメンテナンスに電気主任技術者が必要ということで、その対応にメンテナンスの業界の方は非常に苦労している。特に、中型から大型になると第二種の免許が必要で、人がいない。今後メンテナンスの進め方や質の確保をどうしていくか。人材不足についてどのように把握しているか。(A参考人回答)電気設備保安業務が増大している反面、保安業務に従事する者の高齢化と、新たに就職する方の減少も見込まれます。保安業界の構造的な人材不足が懸念されています。監視カメラなどの技術を使ったり、経験年数の条件短縮などによって、効率化と人材確保を進めています。
(質問)例えば電気主任技術者は三種、二種、一種とあるが、主任技術者は何人いるのかと聞くと、正確な答えは返ってこない。入り口で、資格を取った人の管理はしている。しかし何人の技術者が実働できるかは分からない(引退した人もいるだろう)。(中略)この制度自体、形骸化しているのではないか。(A参考人回答)ミクロのところの過不足についても、詳細な調査を今年度中に実施することにしています。

フォロー調査の結果
その後、経産省はこの調査をおこなって、審議会で報告しています(※2)。それによると、電気主任技術者の不足は事実で、今後、深刻になる予想です。業界ヒアリングによると、第3種電気主任技術者については入職者と退職者は均衡しているものの、今後は対象設備のほうが増加して、技術者不足になる見込みとのこと。実働技術者の数については、間接的にしか把握できていないようです。
時代に合わない制度
大規模な再エネ設備は、たいていは山間部や僻地に設置されますが、その保守を担当する電気主任技術者には「2時間以内に設備に到着できること」という条件が課せられます。実は1960年頃まで「3時間以内」とされていたのですが、技術者不足による名義貸しの問題が発生していて、その対策として2時間以内となったそうです(1961年7月通産省通達)。以来60年間、この条件は変わっていませんが、過疎化が進んでいる中で、自宅から山間・僻地に2時間以内に到着するのは、けっこうたいへんだと思われます。
急がれる対策
このような専門の技術者がいなければ、しょっちゅう停電したりして、私たちの社会生活は安定して維持できないのです。この問題に限らず、専門人材は速成で養成できるわけではありません。また、それなりの待遇がなければ人も集まりません。
これからさまざまな分野で自動化が進展して、保守しなければならない機器類が増えていきます。それにもかかわらず、メンテナンスする技術者は逆に減りつつあることを考えると、対策を急ぐ必要があります。
こういうエッセンシャル・ワーカーの問題は、労働人口をマクロ的に見ていては気づかれないものです。COVID-19が大流行した当初に、病院で働く看護士の待遇改善が騒がれましたが、その後はどうなったのでしょうか。もっと多くの人で議論し、政策に反映すべきなのではないでしょうか。■

※1 第204回国会 衆議院経済産業委員会 第7号(2021年4月14日) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009820420210414007.htm
※2 経産省「電気保安人材の現状分析と取組の方向性について」、産業構造審議会・電気保安制度WG(2021年11月5日) https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/hoan_seido/pdf/008_02_00.pdf

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