操るのはドライバーか、パイロットか

(2023.04.01)
未来を描いた映画では空想のモノがたくさん登場します。昔の映画作品で描かれたモノが現在ではどのくらい実現したか、を品定めしながら、あらためて鑑賞するのも、楽しみ方の一つでしょう。

映画”バック・トゥ・ザ・フューチャー”のシリーズは名作の誉れ高いものですが、そのPART2(1989年)の冒頭に、未来の3次元道路が描写されていました。ちょうど2次元の高速道路と同じ雰囲気で、空中に浮かぶ道路標識?や、猛スピードで飛び交う車?の流れが見えていました。そういう空飛ぶクルマの世界が、今回の議論の的です。

●空飛ぶクルマの検討会
3月31日に「空の移動革命に向けた官民協議会」第9回が開催されました(※1)。
この協議会は、“空飛ぶクルマ”の実現に向けて、官民の関係者が一堂に会して、取り組んでいくべき技術開発や制度整備等について協議することを目的とします。2018年から、少し間隔を空けながら開催され、第9回となりました。経済産業省と国土交通省が事務局を担当しています。

この協議会の第1回会合の議事録を読むと、いろいろな視点から議論されています。
・空飛ぶクルマの開発費用は数百億円レベルになり、圧倒的に足りない。国際的な資本競争に負けないように、いち早く市場開放することが必要
・①安全性、②経済性、③環境性、④必然性といった4つのポイントが重要
物流災害対応観光などが最初の利用シーンになるのではないか
そして、今回の第9回では基準についての考え方が整理されてきました。
2025年関西万博で「空飛ぶクルマ」を実現するため、必要な基準の策定を2023年度末までに完了させる
・「機体関係(耐空性、騒音等)」、「離着陸場関係(広さ、強度等)」、「技能証明関係(操縦者・整備者ライセンス等)」、「運航関係(空域、燃料等)」、「事業制度関係(機長要件、最低安全飛行高度等)」の各面から検討が必要

2次元平面の交通規制でも多くの考慮が必要です。3次元空間を想定すると、さらにいろいろな問題が生じそうです。これまでは、十分な訓練を経たパイロットが航空機を操縦することが前提となっていましたが、その前提はもう成り立ちません。そこで、どのように安全性や利便性を保つのかが検討課題です。

●日本の自動車普及
技術によって、社会生活が大きく変わった例として、自動車の歴史を振り返ってみました。初期の歴史についてWikipediaを参照してみます(※2)。

1890年代 海外から自動車の輸入が始まる
1902年 初めての四輪自動車レース開催
1903年 初めて乗合自動車取締規則が公布(愛知県)
1907年 自動車取締規則を制定(運転免許、ナンバープレートの義務化)
1920年 道路法施行(舗装道路の普及が国策として考慮される)
1921年 道路取締令が施行(交通法規の全国統一)
1923年 関東大震災による市電の被害や人力車の営業困難から、自動車利用が増加
1924年 東京で乗合自動車開業、大阪でタクシー開業(円タク)

こうして眺めると、好奇心で車を走らせる人が出始めるのが1902年、自動車の管理を始めたのが1907年、全国的な規制は1921年までかかっているようです。だいたい普及まで20年くらいでしょうか。
その後、戦争をはさんだ数十年間は、自動車は公共の乗り物という位置付けでした。庶民が自家用車を使い始めるのは、ようやく1960年代になってからです。そうなると、今度は騒音公害や大気汚染の問題が一気に拡大していきます。
道路の舗装は1920年代から考慮されていましたが、実際には1960年代のアスファルト舗装普及まで待たなければなりませんでした。それまでは水たまりや石ころが多いデコボコ道路があたり前だったのです。今のように、車がたくさん走っていても、粉塵や騒音が少ない環境は、それほど昔からあったわけではないのです。
自動車の数が増え、また速度も増していくと、それに続いてようやく道路というインフラや交通規則が整備されるようになったという経緯が見えます。
そういう自動車の歴史を振り返ると、この半世紀の変化はけっこう大きい気がします。
●根本的な違い
過去の自動車の歴史と、これからの”空飛ぶクルマ”が大きく異なるのは、「無人」が先行しそうな点です。自動車の場合には、人間が運転する時代の後に自動運転の技術開発が来ました。
今は逆です。安全性や利便性の面から、まずは「無人」で開発が進み、「有人」は限定されたシーンから始まるだろうという予想です。
官民協議会の委員にもそういう意見の人がいました。たしかにビジネスを考えると、最初からハードルの高いところを狙わず、物流システムなど使えるところから使って、売上実績と飛行技術を蓄積していくのが常道の気がします。
空飛ぶクルマ用の保険ビジネスを早くも検討し始めた損害保険会社もいるに違いありません。■

※1 「空の移動革命に向けた官民協議会」 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/index.html
※2 Wikipedia「日本における自動車の年表」

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