ドギー・バッグ

(2024.11.30)
10月16日に、厚生労働省にて「食べ残しの持ち帰りに関する食品衛生ガイドライン検討会」第3回が開催されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuhin_436610_00010.html

●背景には「食品ロス」
この研究会が開催されている背景に食品ロスの問題があります。
食品ロスの問題に対して中心となって動いているのは消費者庁「食品ロス削減推進会議」(2019年11月25日~)です。
これまでの動きを振り返ってみます。

2000年6月 「循環型社会形成推進基本法」(6月2日公布)及び「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)」(6月7日公布)
     → 廃棄物・リサイクル政策の基本法が制定され、食品ロス削減が推進されました。
2017年5月16日 「食べきれなかった料理を持ち帰る際の留意事項」を消費者庁、農林水産省、環境省、厚生労働省がホームページに公表
2019年5月31日 「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)」公布
     → さらにSDGsの国際目標の達成に向け、議員立法によって制定されました。
2020年3月31日 「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」(閣議決定)
     → 食品ロス削減推進法に基づいて基本方針が決定されました。
2023年12月22日 「食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージ」(「施策パッケージ」※1)
     → 食品ロスを2000年度比で2030年度までに半減させることを目標とし、食品ロス削減推進会議(2023年12月22日)で取りまとめられました。

●「持ち帰り」は課題のごく一部
ここで取り上げた「持ち帰り」の議論は、食品ロス対策のごく一部でしかありません。
消費者庁では食品ロスについてわかりやすい(しかし200ページ近い)パンフレットを継続して発行しています(※2)。
それによると、
 食品廃棄物 2,232万トンのうち、
 食品ロス(まだ食べられる物)が 472万トン
を占めています。
さらに食品ロスの内訳として、
 食品事業者からの食品ロス(売れ残り、食べ残し等)が 236万トン、
 家庭からの食品ロス(食べ残し等)が 236万トン
という数字が出ています(図1)。
このうち、外食産業の 60万トンに占める食べ残しの量が当面の議論の対象となります(図2)。

図1. 食品廃棄物と食品ロス(※2より引用)
図2. 食品ロスの内訳(※2より引用)

●厚労省から見た「持ち帰り」
以上の経緯からわかるように、もともとは食品ロスを減らすための対応策の一つとして”持ち帰り”というキーワードが浮かび上がり、さらにその際の食品安全性の問題をきちんと検討する必要が生じたというわけです。

施策パッケージ(※1)では、食べ残しの持ち帰りに対して外食事業者側と消費者側双方に共通の意識を持たせるために、食品衛生上の取扱いに関する事項を整理することが有効と考えられています。
そして食品衛生を担当する厚生労働省は、2024年7月から「食べ残しの持ち帰りに関する食品衛生ガイドライン検討会」を開催して、食品衛生面からの議論をおこなっています。

●「持ち帰り」の難しさ
実は食べ残しの持ち帰りという、たいへん日常的で単純そうに見える事柄でも、法律とか責任とかが絡んでくると、とても複雑な話になります(※3)。
要するに、店が客に食事を提供するということから、客が持ち帰るということに発展すると、それまでの法律の守備範囲を逸脱してしまうからです(下図)。

図3. 持ち帰りに係る関係法令

●食品衛生ガイドラインの議論
厚生労働省は食品衛生の観点から議論を整理しようとしています。
その中で出てきたのは、外食といっても、提供する食品の種類、形態、地域、時期による差が大きいという点です。
その場で飲食する料理と、デリバリーをしている食品、もともとテイクアウトを想定した食品(コンビニのもの)があります。また宴席の持ち帰り料理のような風習もあります。
今までは、食事を提供する業者がそれぞれ持ち帰りの可否や持ち帰り手段を判断していましたが、一定のガイドラインがあれば、持ち帰りに対する業者の迷いも軽減できるでしょう。
いずれにせよ、業者側も消費者側も無理なく対応できる現実的なガイドラインでなければ、実際に役立ちません。

持ち帰りに対する食品衛生ガイドラインの骨子案がそろそろまとまりつつあります。これまでの研究会の検討では、
 レストラン等のいわゆる飲食店を対象として、
 給食、テイクアウト、フードコートは対象外
にする方向で、整理がおこなわれています。

●モデル実験
消費者庁では持ち帰りについてのガイドライン検討会(※4)の一環として、今年10月から実際の店舗での実証テストをおこなっています。大手チェーン店700店舗以上が参加して、持ち帰り客にアンケートを依頼しています。回答数1万件を目標としているそうです。
この実証テストで配布するチラシ案を消費者庁が作成したのですが、文字ばかりで一般人には読みづらいものだったので、民間のコンソーシアムが大幅に整理・改版して、下図のようなものになりました。
消費者向けの施策には現場の視点が重要ですね。

図4. チラシ案(原案)
図5. チラシ案(最終案)

●海外の食品ロス
ここで海外に目を向けてみると、いろいろ面白いことがわかります(※2)。
図6は世界各地域の Food Loss の割合、図7は世界各地域の一人当たり年間の Food Waste の量を示す図です。国連が定義した食品のロス(Food Loss)と、食品の廃棄(Food Waste)の量です。
図6では、
 東アジア・東南アジア < 北アメリカ・ヨーロッパ < 中央アジア・南アジア
という順位です。Food Loss が出る比率なので、食料の収穫から製造加工までの技術やプロセスに地域差があることが見えてきます。
一方、図7では小売・飲食店・消費段階での一人当たりの廃棄量を示しています。アフリカの量が格段に大きいことがわかるとともに、北アメリカの量が意外に少ないことが見えます。

図6. 世界各地域の Food Loss の割合
図7. 世界各地域の一人当たり Food Loss の割合

もう少し詳しく見るために、資料(※2)のソースである "FOOD WASTE INDEX REPORT 2021"(※5)を参照して作成したのが図8、図9です。
図8は国ごとに家庭の食品廃棄量が多い順に並べています。食品廃棄量はその国の人口にある程度、比例すると考えられますので、だいたいその傾向が見て取れます。
やはり中国、インドのような人口が多い国が上位に来ます。
図9は図8の上位に並んでいた国を、一人当たり廃棄量で比較したものです。こちらはなかなか含蓄に富んだ結果となりました。
日本は食品ロスにかなり気を使っているようですが、それでも中国とほぼ同じです(年64kg)。
さらに米国は少ない値(年59kg)です。浪費国というイメージとは少し違っています。
また、ロシアの全体廃棄量は英国と変わらないのに、一人当たりに換算すると大きな差があります。インドも一人当たりに換算すると小さくなります。これらは国の有り様とか生活・風習の違いということで解釈できるものでしょうか。
ただしこれらの廃棄量の推定については信頼度が国ごとに違うので、横並びで比較することは必ずしも正しくないかもしれません。

図8. 各国の家庭の食品廃棄量(多い順)
図9. 各国の一人当たり家庭の食品廃棄量(図8の中で少ない順)

●Doggy Bag
食べ残しを犬のために持ち帰る、という建前の意味で Doggy Bag という言葉を使うのですが、よく考えると、今どきのお犬様に対してたいへん失礼なことになりそうです。
そもそも人間用に調理された料理をそのまま犬に与えては毒になりかねません。ふだんから犬の健康を気づかっている飼い主はそのようなことはしません。
Doggy Bag は米国が語源地らしいですが、すでに廃れているようです(※5)。
最近知られ始めた日本語で、MOTTAINAI Bagと言うのはいかがでしょうか。■

※1 「食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージ」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/meeting_materials/assets/consumer_education_cms201_240702_0013.pdf
※2 消費者庁「食品ロス削減ガイドブック(令和6年度版)」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/pamphlet/assets/consumer_education_cms201_202400826_0001.pdf
さらに詳しい資料として、
消費者庁「食品ロス削減関係参考資料」(2024年6月21日) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/assets/consumer_education_cms201_20240621_0004.pdf
※3 食品ロス削減推進会議第9回(2024年7月2日)「食べ残し持ち帰りに係る関係法令の適用関係の整理(参考資料5)」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/meeting_materials/assets/consumer_education_cms201_240702_0011.pdf
※4 消費者庁「食べ残し持ち帰りに係る法的取扱いに関するガイドライン検討会」
※5 UNEP Food Waste Index Report 2021 https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/meeting_materials/review_meeting_008
※6 https://ja.wikipedia.org/wiki/ドギーバッグ

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