末は博士か大臣か
(2023.03.23)
「末は博士か大臣か」(死語)と言われた明治時代であれば、仮に出身が貧しくとも、勉学に努力すれば栄達が望めたのでしょう。軍人をめざすという目標もあったでしょう。
さて最近のキャリアパスの多様さを前提にすると、日本の博士人材はどの辺に位置するのでしょうか。
言うまでもなく、学問の世界では、博士は最高位の資格です。学士、修士よりも高い見識と洞察力を持ち、おそらく”世界中でこの人しか気づかなかった知識”を持つ人と言えるかもしれません。だからすごいのです。
そのれっきとした博士号を持つ人たちが路頭に迷う事態になっているのが、我が国の実態です。
大学院の博士課程を修了して、さらに博士論文審査を通過して博士号を得ても、長期安定の研究職に付けません。どこかの大学や研究機関に5年間とか10年間の契約で勤めたとしても、期限が来れば終了です。そのうちに年齢がどんどん高くなり、就職活動はますます厳しくなっていきます。”高学歴ワーキングプア”などという流行語も現れました。
では米国や欧州の博士も同じかというと、そうではありません。日本よりも民間企業で働く博士が多く、しかも責任のある職位に付いています。大学で研究一筋というキャリアパスだけではないのです。
欧米では、会社の幹部クラスにも博士号を持つ役員があたり前にいます。米国企業(時価総額上位100位)のCEOの10%は博士号を持つのに対して、日本企業はわずか2%しかいません(※1)。日本では博士の潜在力が過小評価されている証拠と考えられます。
こうして眺めてみると、日本の民間企業の大半は、博士人材の扱いに困惑し、立ち止まってしまっているようです。どれだけの活躍をしてくれるのか不安を感じて、雇用をためらっています。
逆に若い企業のほうがアクティブに動いています。たとえば、ALE社(宇宙ビジネス)、PROVIGATE社(IoT血糖モニタ)、Pathee社(小売業DX)、ジーンクエスト社(遺伝子解析キット)のようなスタートアップの起業家は全員、博士号を持っています(※1)。そのような経営者がどんどん博士を雇い入れて、研究開発力を強化しています。当然、そのような企業はイノベーションを起こす可能性も高く、それがまた博士人材を引き付ける魅力になっています。
もはや20世紀のような労働集約型の働き方ではなく、新たな付加価値を生み出す知識創造型の働き方でなければ、21世紀は生き延びることができないでしょう。その創造的能力を秘めた博士人材を生かす企業こそ、これからの主役になりそうです。
※1 総合科学技術イノベーション会議有識者議員懇談会 資料1-1-1「博士人材のキャリア(趣旨・概要)」(2023年1月19日)