卒業証書の期限

(2024.07.21)
7月19日に、文部科学省の大学分科会(第178回)・高等教育の在り方に関する特別部会(第8回)合同会議が開催されました。その中の議題の一つに「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方に関する中間まとめ(案)」がありましたので、それについて書いてみます。
ここでの高等教育とは大学、短大、高専、専門職大学、専門学校での教育を指します。

●6年の間の変化
昨年9月25日に、文部科学大臣から「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」という諮問が出されて、ほぼ9ヶ月間の特別部会での議論をこの中間まとめの形で報告するものです。
実は同じ趣旨で「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申が2018年に出されています。それから6年たち、その間に新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢など社会・経済に大きな変動があり、高等教育を取り巻く環境が変わったことが今回の諮問の背景にあります。もちろん少子高齢化の進行や科学技術力の低下というBGMが鳴り続けていることは変わりません。

●大きな問題
いろいろな問題が高等教育にはありますが、やはり大きいのは少子化でしょう。諮問の最初にいきなり、”とりわけ、少子化は、我が国が直面する最大の危機です。”と書かれています(※2)。
2040年に予想される大学進学者数は51万人にとどまります。これは2017年時点の8割です。つまり現状のまま推移すると、大学の収入は2割減少となり、経営力の弱い大学は破綻することになります。
これを打開するには、入学者数を増やす、または授業料以外の収入を探す、という手しかありません。

●あらかじめ示された検討事項
文科省はもちろん質の高い教育サービスを学生に提供することをめざしているはずですが、同時に高等教育機関(特に大学)の経営を健全に維持・発展させる役割も兼ねています。
この手の諮問は、だいたいが文科省当局が進めたい施策を外部有識者の口を借りて公式化するものなので、ほぼシナリオができあがっています。
昨年9月の諮問時にはすでに文科省より主な検討事項が4つほど提示されています。大雑把な書き方となりますが、次のようなものです。
(1)これから社会が求める人材をどんどん育成すること
(2)入学者数減少に備えて教育課程や学部構成を変えること
(3)国立、公立、私立、短大、高専、専門職大学、専門学校はそれぞれの役割を明確にし、それをしっかり果たすこと
(4)民間企業からの投資等、多様な財源を考えること

●できることは限られる
文科省が取り得る政策手段としては、学生定員やカリキュラム認定の制度、運営費交付金(私大補助金含む)や競争的研究資金の調整、入試制度等の見直し等がありますが、いずれも間接的なものです。どれか一つの政策によって、たちどころに大学進学率が高まったり、研究競争力が増加するわけではありません。
今回の中間まとめ(案)においては、外国人や社会人の大学入学の促進、大学を相互比較できる情報公表、教育機関の役割分担の見直し、規模の適正化(統合・再編・縮小・撤退含む)、といった提案がいくつかの軸に整理されています。これらが総体として高等教育の土台をバランスよく底上げしていくことが求められます。
どの提案も現実の教育運営から見るとかなり厳しい道筋が示されています。しかし、少子化が進行するスピードから見て、残された時間はあまりありません。大学はじめ高等教育機関の覚悟が求められます。

●卒業証書の期限
人が成人してからおよそ50年くらいの社会生活が続きます。これからの時代は、50年の間に社会環境の変化に合わせて自分の能力を磨き直すことが何度も必要になるでしょう。若いうちの基礎の学び、成熟してからの学び直し、のいずれにおいても、高等教育機関の役割は大きいと思います。
われわれ自身の学歴に対する考え方も見直すべきでしょうね。
こういう事をこういう形で学びたい、という自分の要求を明確にし、それに大学はじめ高等教育機関が応じられるようになることが理想です。
特に高校から大学へ進学しようとするとき、どの大学を選ぶかが第一の関門となります。居住地の近くか、都会か、どの専門課程か等々、たくさんの選択肢があります。もちろん学費も重要な話です。
しかし、昔のように、どこでもよいから学校卒業の肩書だけ取れば、後はなんとかなる、という発想はもう捨てるべきでしょう。今や、学歴の保証期限は短くなっています。社会に出たときに、せいぜい梯子の一段目を上がれるくらいの価値ですし、その梯子もいつ倒れるか心配しなければなりません。卒業証書にかけた費用をいつ回収できるか、という観点も必要となります。

先日の東京都知事選挙では、現職都知事の学歴詐称問題が取り沙汰されていました。結果を見るかぎり、学歴などどうでもよさそうです。■

※1 合同会議配付資料4-1 https://www.mext.go.jp/content/20240719-koutou02-000037145_6.pdf
※2 高等教育の在り方に関する特別部会(第1回)資料3-1 https://www.mext.go.jp/content/20231129-koutou02-000033024-5.pdf

Follow me!