デジタル終活
(2024.11.26)
11月20日に、国民生活センターから「今から考えておきたい『デジタル終活』」が公表されました。
副題に”スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために”とあるのがその目的を表しています。
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20241120_1.html
●財布より大事なスマホ
今どきは、財布を失くすよりもスマートフォン(なぜかスマホと略記する)を失くすほうが損害が大きいとされます。
財布を失くした場合は、中の現金はもちろん、いっしょに入れていたクレジットカードやIDカードを自分が利用できないだけでなく、他人に悪用されるリスクがあります。
しかしそれでも、”中に入っていたモノ”でそのリスクの大きさや対応の仕方を自覚することができます。
スマホを失くした場合は、中に入っていたモノがわかりません。
他人はもちろん、自分自身ですら、どういうアプリケーションやサービスを使っていたか、うろ覚えではないでしょうか。
今回の国民生活センターの公表は、特に人が亡くなった場合に、後始末をしなければならない家族や親戚が直面する問題を取り上げ、それへの関心と対応を呼びかけているものです。
●デジタル社会の前提
財布と手帳のようなアナログ手段は、電子マネーや電子メモのような形でほとんどスマホに統合されつつあります。スマホの情報を見るためには持ち主しかわからないパスワードが必要です。
動画配信やゲーム等の有料サービスもサブスクリプション(注1)で提供されることが多く、それらも利用者当人しかパスワードがわかりません。
(注1)サブスクと略される。月単位や年単位で定額料金を支払い、その期間内で商品やサービスを利用できる仕組み。
(重要な前提)スマホやPC等のデジタルツールの中に入っている情報は、持ち主当人しか見られない。さらに預金等、本人の財産のありかは本人しかわからない。
この前提はデジタル社会でなくとも、昔からそうでした。
しかし、最近はペーパーレス化が進み、以前ならば銀行通帳というモノで財産の所在がわかったものでも、今はデジタルデータとしてスマホの中にしか存在しなくなってきています。
たとえ家族であっても、存在に気づかないわけです。
●デジタル遺産のトラブル
国民生活センターは実際に生じたデジタル遺産のトラブル事例を示しています。
【事例1】故人が利用していたネット銀行の手続きをしたくてもスマホが開けず、ネット銀行の契約先がわからない。
【事例2】コード決済サービス事業者の相続手続きが1か月以上たっても終わらない
【事例3】故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードがわからない
●後始末が困る
スマホの持ち主が亡くなった後、相続が生じます。
相続人は亡くなった人の財産の目録を作成して、それを元に遺産を相続人の間で分配します。
亡くなった方の確定申告を代行する準確定申告は4ヶ月以内という条件があります。それまでに所得等をきちんと調べておかなくてはいけません。
そして次は遺産の分配を決める遺産分割協議書の作成やら、預貯金等の解約・名義変更を10ヶ月以内におこなう必要があります。(10ヶ月を過ぎても可能ですが、手続きがやっかいになります。)
預金先の金融機関がわかっていれば、相続人が残高を調べることは可能です。しかし遺族が故人が利用していた金融機関を知らなければ、まったく手段がありません。
サブスクなどで使用していたサービスも同様です。取引先の業者が未知であれば手がかりがありません。
●注意書きは守り、お薦め方法は実践しよう
国民生活センターは実際に生じたデジタル遺産のトラブル事例が増えてきたことを憂慮して、事前にデジタル終活をしておくことを4点にまとめて勧めています。
この内容は突飛なことは書かれていません。ごく単純で、すぐ実行できることばかりです。
(1)万が一の際に遺族がスマホやパソコンのロック解除ができるようにしておきましょう
→これはすぐ実行できます。自分自身ですら、ときどき忘れることがありますので、メモを作成しておきましょう。
(2)ネット上の資産やサブスクの契約は、サービス名・ID・パスワードを整理しておきましょう
→便利なアプリや面白いサービスを見つけると、すぐ利用登録してしまいがちです。自分のためにも、その都度、きちんとサービス名やID・パスワードを記録しておきましょう。
(3)エンディングノートの活用も検討しましょう
→それほど大げさなものでなくてよいでしょう。上の(1)や(2)のメモをノートに貼り付けておけば十分と思います。要するに、後で家族に気づいてもらうことです。
(4)自分自身に何かあったときに備えて、スマホ等のアカウントにアクセスできる人を指名できるサービスを活用しましょう
→上の(1)~(3)がきちんと実行できていれば、自分でなくても家族が対応できるでしょう。それでよいと思います。
●付け加えて
デジタル遺産の中でやっかいなのは、SNS等の発言や個人のブログ等です。
これらも始末できるものは整理しておきましょう。
サーバーを借りていたのであれば、サーバー契約の解約をしなければいけませんし、その前に掲載していた記事のデータを個人PCに退避させる必要があります。
あれこれ、めんどうな処理になるので、これも自分の頭がはっきりしているうちに、早めに自分で店じまいすることが大事でしょう。
●遺言書より優先して
最近、遺言書の書き方を指南する本がいくつも出版されています。自分の意思を相続人に伝える遺言書に注目が集まっているということでしょう。
しかし遺言書に工夫をこらすよりも、まず相続してほしい財産状況を把握するために、このデジタル終活の項目を実行することを先におこなうべきと思います。
苦心して遺言書を作成したとしても、肝心の遺産にアクセスできなければ何もなりません。
11月15 日の文章に「休眠預金」を取り上げたばかりですが、デジタル終活をきちんとしておかないと、大事な個人財産がこの休眠預金になりかねません。
筆者自身も”なるほどそういう方法もあったか”と感心する内容も書かれていました。さっそく実践してみるつもりです。■