部活動

(2025.05.31)
5月16日にスポーツ庁より「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめが発表されました。
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/039_index/attach/1420653_00001.htm

この実行会議は第1回(2024年8月)から約1年近くかけて、地域でのスポーツと文化活動について改革方針をまとめてきました。
この報告書は[1][2][3]にあります。

●部活動の問題点
いろいろな側面がありますが、まず学校の教職員から見てみます。
最近、教職員の働き方改革が進められています。中でも部活動の負担が問題視されています。授業時間割に含まれる体育や芸術の指導は教員が担当しますが、放課後や休日の指導・管理はもはや教員では手に余る状況です。
さらに重大なのは部活動における体罰の問題が表面化して、対策が求められていることです。2013年には文部科学省からガイドラインが出されています[4]が、現在もなお体罰の事例発生が絶えません。
一方、生徒側から見ると、少子化によって生徒数の減少が一段と進むでしょうから、特に団体競技のチーム構成が難しくなります。一つの学校内では野球やサッカーのチームが作れないということです。団体競技ではなくとも、マイナーな運動・文化活動においては高齢化した指導者に代わる人が見つからないということもあるでしょう。(図1、図2参照。)
生徒の家庭が抱える経済的問題も無視できません。”体験格差”という言葉が出ているように、部活動を含むさまざまな活動が家庭の家計状況によって左右されます。

図1. 運動部に入っている中学生の数([10]より引用)
図2. 中学校における合同部活動実施チームの推移([10]より引用)

●そもそも部活動とは
学校における部活動の定義をあらためて調べてみました。
文献[5]によれば、小学校の高学年では学習指導要領によって「クラブ活動」が必修となっていますが、中学校・高校では2003年頃までに必修のクラブ活動は廃止され、生徒の自主的な活動による課外活動の一環として部活動が実施されています。
その課外活動は「学習指導要領に定められた教育課程の一環」なので、生徒の自主的な活動を支援する教員(いわゆる顧問)にも責任があります。専門的な指導が必要な場合には、「部活動指導員」を置いて支援してもらう形です。
「部活動指導員」は2017年に制度化(※)されたもので、外部の技術的な指導者を指します。サッカーのコーチや書道の師範などをイメージしてよいでしょう。指導員は学校の職員扱い(教員とは限らない)で、学校長の承認の元で顧問にもなれることになりました。
この制度化によって、指導員が時間外や休日に学校教員に代わって指導・管理できるような仕組みになりました(図3)。

※学校教育法施行規則第72条の二(2017年4月1日施行)

図3. 部活動指導員の概要([6]を元に改変)

●学校の課題から地域の課題へ
そのような学校単位では抱えきれない部活動を、地域のスポーツ・文化活動として再構築しようというのが、今回の「部活動改革」です。それを担当するのは教職員ではなく、地域の民間業者やボランティアということになります。
つまり「学校部活動」から「地域クラブ活動」への転換です。
そして単なる横すべりの変更ではないので、「地域移行」という名称は「地域展開」に変更して、「地域クラブ活動の新たな価値を創出して、より豊かで幅広い活動をめざす」。

●2010年代からの改革推進
2018年からスポーツ庁、文化庁はそれぞれ学校の部活動について改革を進めました[7][8]。そして2022年にはこの二つのガイドラインを一つに統合しました[9]。
文部科学省では、2023年から2025年までを「改革推進期間」と位置づけ、休日の部活動について、合同部活動や部活動指導員の配置により地域と連携することや、学校外の多様な地域団体が主体となる地域クラブ活動へ移行することを進めてきました。そのために、地域の実情等に応じて可能な限り早期の実現を目指すよう、各自治体に求めています。その推進活動をまとめたポータルサイトもあります[10]。
地方公共団体にとっても「地方スポーツ推進計画」、「地方文化芸術推進基本計画」の策定が努力義務(※)となっているので、学校の部活動も含めた地域活動を総合的に計画する必要があります。
その辺りの現状は資料[11]にいろいろなグラフとして可視化されています。地方公共団体によってもさまざまな事情を抱えており、けっして順調ではない様子がうかがわれます。それでも資料[12][13]には地域ごとに工夫をこらした例が豊富に掲載されていますので、希望を持てます。

※スポーツ基本法第十条、文化芸術基本法第七条の二

●矛盾を抱えたままの「教育」と「地域」
すでに2009年に出された参議院の調査報告[5]では、次のような厳しい指摘が書かれています。

”本年(注:2009年)4月から移行措置が始まった中学校の新学習指導要領の中に部活動を位置付けた理由について、(中略)これは法的・制度的な問題点を解決しないままでの部活動の強化策(いわば学校と地域社会への丸投げ)であり、文科省の姿勢には若干疑問なしとしない。このように、学習指導要領上のブレを始めとして、部活動に対する軸足が定まらないことは、学校現場に諸々の問題を引き起こしている。”

部活動のめざすところは教育、スポーツ・文化の振興(文科省)、福祉(厚労省)、地域振興(総務省)が重なる部分で、それだけに国民生活に密接です。子を持つ保護者の立場から見ると一番の関心時ではないでしょうか。
学習指導要領に掲載している以上、少なくとも予算面では文科省が音頭を取って関係省庁の事業パッケージ化を進めてほしいところです。
スポーツや文化活動に熱中している元気な十代の姿を見ていると、こちらもエネルギーをもらったような気持ちになります。彼らにあまり将来の心配をさせないようにしたいものだと年寄りは思います。■

[1] 「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」最終とりまとめ(概要) https://www.mext.go.jp/sports/content/20250516-spt_oripara-000042507_0101.pdf
[2] 同 本文 https://www.mext.go.jp/sports/content/20250516-spt_oripara-000042507_0202.pdf
[3] 同 別添資料(部活動の地域展開に当たっての取組事例集(個別課題への対応等)) https://www.mext.go.jp/sports/content/20250516-spt_oripara-000042507_0303.pdf
[4] 文部科学省「運動部活動での指導のガイドライン」(2013年5月) https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop04/list/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/12/1372445_1.pdf
[5] 関喜比古「問われている部活動の在り方」、立法と調査、2009.7 No.294 https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2009pdf/20090701051.pdf
[6] スポーツ庁「部活動指導員の制度化について」 https://www.mext.go.jp/sports/content/20240930-spt_oripara-000014391_1.pdf
[7] スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(2018年3月) https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/013_index/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/03/19/1402624_1.pdf
[8] 文化庁「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(2018年12月) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunkakatsudo_guideline/h30_1227/pdf/r1412126_01.pdf
[9] スポーツ庁・文化庁「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(2022年12月) https://www.mext.go.jp/sports/content/20221227-spt_oripara-000026750_2.pdf
[10] 部活動改革ポータルサイト https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/jsa_00021.html
[11] 実行会議第1回(2024.8.23)参考資料1 「部活動の地域連携・地域移行と地域スポーツ・文化芸術環境の整備について」 https://www.mext.go.jp/sports/content/20240821-spt_oripara-000037466_0011.pdf
[12] 同上 参考資料3-1 「令和5年度運動部活動の地域移行等に向けた実証事業事例集」 https://www.mext.go.jp/sports/content/20240821-spt_oripara-000037466_00131.pdf
[13] 同上 参考資料3-2 「令和5年度文化部活動の地域移行等に向けた実証事業事例集」(1)~(4) https://www.mext.go.jp/sports/content/20240821-spt_oripara-000037466_001321.pdf 他

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